36話 文化祭②
この学校の文化祭は、決して大規模というわけではなく、外部からお客さんを招いたりもしない。
だから盛り上がらないかと言えば、決してそんなことはない。
「初めてだからっていうのもあると思うけど、なんか歩いてるだけでもワクワクしてくるよね!」
お化け屋敷の宣伝用チラシを脇に抱え、校内を練り歩く私たち。
呼び込みの声や楽し気な話し声があちこちから聞こえてきて、萌恵ちゃんも意気揚々と声を弾ませている。
「確かに。これが文化祭の雰囲気なんだね」
普段の平日における休み時間や放課後の賑やかさとは、似て非なるもの。
遠足の雰囲気を学校で味わっているような、そんな感覚だ。
この学校の和気あいあいとした校風も、少なからず影響しているのだろう。
「ところで、甘い物食べたくない?」
萌恵ちゃんはそう言いながら、私の手を引いてさりげなく家庭科室の方へと進路を変えた。
「うん、食べたいっ」
私は萌恵ちゃんの意図を察し、コクリとうなずく。
家庭科室では三年一組の先輩たちが家庭科室を使って喫茶店を開いている。
開店早々に足を運んだクラスメイトが、先ほど廊下で顔を合わせた際に特製パフェの素晴らしさをこれでもかというほど熱く語ってくれた。
それと、気になる情報がもう一つ。
「カップル用のメニューもあるって言ってたよね~」
そう、まさにそれ。
まるで私の心を読んだかのようなタイミングだ。
「そうだね、絶対に頼まないと」
なんて話しているうちに、家庭科室のある階に到着。
もともと校舎内を歩いていたこともあり、移動時間は数分にも満たない。
「いらっしゃいませー!」
受付の先輩に明るい笑顔と元気なあいさつで迎えられ、私と萌恵ちゃんは室内に足を運ぶ。
中に入ると、そこは紛れもない喫茶店だった。
私にもっと語彙力があれば、もともと家庭科室だったとは思えないほど完成度の高い内装の素晴らしさについて延々と語っていたところだ。
調理は扉を隔ててすぐ隣にある家庭科準備室で行われているらしい。
「ところで、二人は付き合ってるの? 初対面なのにこんな質問してごめんね。できればでいいから、教えてくれると嬉しいんだけど……」
案内係の先輩にそう問われ、私たちは即答で「はい、付き合ってます」と答えた。
二人ともノータイムでの返答だったので、声がピッタリと重なる。
「そっか、教えてくれてありがとうっ。それじゃあ、二人はここのテーブルに並んで座ってね。はい、これメニュー表。一番のおすすめは特製パフェだけど、カップルメニューも同じぐらいおすすめだよっ」
先輩はそう言いもって私たちにメニュー表を一枚手渡し、この場を離れた。
他にも三組ほどお客さんがいるけど、みんな対面して座っている。
私たちだけ横並びなのは、付き合っていると答えたことが関係しているのだろうか。
萌恵ちゃんと肩をくっつけて、受け取ったメニュー表に目を通す。
お目当ての特製パフェは、表の一番上に大きな文字で記されていた。
注意書きによると、ラーメンと同じぐらいお腹いっぱいになるそうだ。
『他にも食べる予定ならシェア推奨!』とも書かれている。
「あっ。萌恵ちゃん、カップルメニューの説明も載ってるよ」
「ホントだ! えっと――」
説明によると、カップルメニューはマカロンとドリンクのセットとのこと。
なにやら、特別サービスというのもあるらしい。
マカロンは二個。
ドリンクは一つの容器に二本のストローをさして二人で一緒に飲むという、いかにもカップル用といった仕様になっている。
他にも手作りサンドイッチやタピオカドリンクなど心惹かれる品があるものの、私と萌恵ちゃんの共通意見は揺るがない。
「カップルメニューと特製パフェをお願いしますっ」
注文を受けに来てくれた先輩に、私たちは声をそろえてそう告げた。
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