8話 水着の出番をもう一度②
窓を開け放って室内を軽く掃除してから、折り畳みテーブルを定位置である部屋の真ん中あたりに置く。
テーブルを挟んで向かい合わせに座り、コップに注いだ冷たい麦茶でのどを潤す。
二人とも水着姿であることを除けば、いつも通りの日常風景だ。
「んふふっ、水着を着るだけでテンション上がっちゃうよ~。梅干しを見るだけでよだれが出るのと同じ原理かな?」
「そうかも。私もさっきからよだれが――じゃなくて、楽しい気分になってる」
口の端から漏れる前に、唾液をゴクリと飲み込む。
私の場合、水着姿の萌恵ちゃんを正面から眺めて興奮することによってよだれが出てしまう。
――って、ダメだダメだ!
一旦気持ちを落ち着けよう。
思い返してみれば、さっきからエッチなことしか考えていない。
というか、あらゆる思考がエッチなことにつながっている。
すー、はー。鼻で息を吸って、口からゆっくりと吐き出す。
よし、とりあえず多少はマシに――
「ねぇ真菜、こういうポーズどうかな? モデルさんみたいに見えない?」
手を頭の後ろで組み、体を少しひねってこちらを向く萌恵ちゃん。
無垢な笑顔……おっぱい……腋……。
「うぐっ、うぅっ……う、うん、見えるよ……はぁ、はぁ……っ」
鎮まれ、私の本能。
無理やり襲うなんて、そんなことしちゃいけない。
萌恵ちゃんに無理やり襲われるシチュエーションは非常に魅力的だけど、それはそれ。
「ま、真菜、どうしたのっ? 大丈夫!?」
「だ、大丈夫。萌恵ちゃんの魅力がすごすぎて、かなりとんでもない感じになっちゃっただけだから」
血相を変えて心配してくれる萌恵ちゃんを安心させようと説明を試みたものの、語彙が絶望的なことになってしまった。
「ホントに平気? つらくなったらすぐに言ってね!」
「ありがとう。本当に元気だから、安心して」
むしろ元気すぎるがゆえに起きた事態とも言える。
私は自分の頬をパンッと叩き、強制的に気持ちを切り替えた。
「さっきのポーズ、ドキドキしちゃうぐらい素敵だった。モデルさんみたいに見えるどころか、写真集を出せば一瞬で完売しちゃうよ」
「そ、そうかな? そこまで言われると照れちゃうけど、すっごく嬉しいっ」
「でも、写真集なんて私が絶対に許さないけどね」
照れ臭そうに微笑む萌恵ちゃんに、キッパリと断言した。
そして萌恵ちゃんの反応を待たず、さらに続ける。
「だって、萌恵ちゃんの水着を他人に撮られるのは嫌だし、それを不特定多数の誰かに見られるのも嫌だもん」
厄介な彼女だと思われても仕方のないセリフを、確固たる意志を込めて言い放つ。
「じゃあ、真菜にたくさん撮ってもらおうかな~」
萌恵ちゃんは私の強すぎる独占欲をも快く受け入れ、ニコッと明るく笑ってくれた。
優しさに感動すると共に『言質取った』と思ってしまうあたり、私はなかなかに罪深い。
「うん、たくさん撮るねっ」
我ながら、いつにも増して声が弾んでいる。
今日は普段の数割増しで、スマホの萌恵ちゃんフォルダに写真が増えそうだ。
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