4話 近所の焼肉屋さん③
七輪と炭火の珍しさに気を引かれ、さらに萌恵ちゃんの可憐さに心を奪われている中、焼き野菜セットとタン塩がテーブルに運ばれた。
紙製のエプロンを身に着けてトングを手に取り、野菜やお肉を網に置いていく。
焼けるのを待ちながら、タブレットに目を通す。
ランチ用のコースで品目が限られているとはいえ、それでも種類は決して少なくない。
次にどの部位を注文しようか考えていると、オススメのページに『七種盛り合わせ』という表記を見付けた。
内容は牛と豚それぞれのロース、カルビ、バラと、鶏のモモ。数は一種類あたり二切ずつ。
「これどうかな?」
七輪に近付かないよう少し横に移動して、タブレットの画面を萌恵ちゃんに見せる。
「うんっ、いいと思う! あっ、あとトントロもお願いっ」
盛り合わせとトントロを二人前ずつ注文し、タブレットを充電スタンドに戻す。
「玉ねぎとピーマン焼けたよ~。カボチャはもう少し待ってね」
「はーい」
自分の取り皿に玉ねぎとピーマンを移してから、萌恵ちゃんの取り皿にも同じように野菜を運ぶ。
そこでふと、いいことを思い付いた。
お箸で玉ねぎを掴み、ふーふーと息を吹きかけて適度に冷ましてから萌恵ちゃんの口元へ近付ける。
「萌恵ちゃん、あーん」
「ありがと~」
萌恵ちゃんがかわいいお口を開いて、玉ねぎをパクッと頬張る。
あぁ、相変わらずの愛おしさ。
普通に咀嚼しているだけなのに、たまらなくかわいい。
モグモグと口を動かす様子を眺めているだけで、ご飯が何杯もいけそうだ。
幾度となく経験した行為だけど、キスやエッチと同じく、この感動は決して色褪せない。
「真菜も、あ~ん」
萌恵ちゃんはトングを一旦手元に置き、お箸でピーマンを掴んで私の口元に差し出してくれた。
不思議なことに、自分で食べるより何倍もおいしく感じる。
「カボチャとシイタケ――あ、お肉もそろそろいいかも」
萌恵ちゃんの目は絶妙な焼き加減を見逃さない。
先ほどの玉ねぎとピーマン、そしてカボチャにシイタケ、タン塩。すべてこの上ない状態で味わうことができた。
最初に頼んだ物をあらかた食べ終える頃に、追加で注文したお肉が一気に届けられる。
牛のロースとカルビとバラを乗せた大皿、豚のロースとカルビとバラを乗せた大皿、鶏モモを乗せたお皿、トントロを乗せたお皿。
二人用の席ということもあって、テーブルがお肉のお皿で埋め尽くされてしまった。
どれから焼こうかと二人で悩みながら、炭火焼肉を堪能する。
たくさん頼みすぎたかと密かに心配していたけど、おいしく完食できた。
とはいえデザートを全種類制覇するほどの余裕は残っておらず、三品ほど注文して二人でシェアすることに。
レモンシャーベットと杏仁豆腐、そしてチョコバナナパフェ。
それらを難なく平らげた私と萌恵ちゃんは、『デザートは別腹』という言葉はことわざとして認定されてもいいんじゃないかと心から思った。
お会計を済ませて外に出ると、猛暑日の陽射しが容赦なく襲いかかってくる。
「やっぱり、まだまだ夏って感じだね」
「秋が来るのは、もうしばらく先かな~」
夏休みの終わりに伴って秋が近付いているような気がするのは、きっと私だけじゃないはず。
そんなのは気のせいに過ぎないのだと、照り付ける陽光が物語っている。
もう着納めだと思っていたけど、夏休みが始まってすぐに買ったベビードールの出番はまだ続きそうだ。
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