3話 かき氷のお約束

 昼食を終えてから二時間ほど経っただろうか。

 家事を一通り終えた私と萌恵ちゃんは、イチゴシロップと練乳をかけたシンプルなかき氷を食べている。


「――んんっ!」


 ちょっと勢いよく食べすぎたのか、キーンとした痛みが頭を襲った。

 萌恵ちゃんは隣で「大丈夫?」と心配してくれている。

 平気だと答えつつ頭痛に耐える中、私の脳裏にとある考えが浮かぶ。


「こういうときって、水を飲むと治るって言うよね~」


 私が思い浮かべた作戦を後押しするかのように、萌恵ちゃんは食べるのを中断してミネラルウォーターをコップに注いでくれた。

 これはもう、迷わず実行しろという天啓に違いない。


「ごめん、萌恵ちゃん。頭が痛くてコップも持てないから、口移しで飲ませてほしいな」


 横目で訴えかけるような視線を送りつつ、真面目な態度でお願いする。

 自分の発想力が恐ろしい。

 ただ、萌恵ちゃんの優しさに付け込むような頼み方をしたので、少なからず心が痛む。


「く、口移し!? あぅ……わ、分かった、いいよ」


 よしっ!

 思わずガッツポーズしそうになるのを堪え、萌恵ちゃんの方に向き直る。

 口移しで水を飲ませてもらうのが楽しみすぎて、無限に溢れる期待感を隠せているかどうか怪しい。

 萌恵ちゃんはコップを手に取り、水を口に含んだ状態で私と向かい合う。

 このまま水を思いきり噴きかけてほしいと願ってしまうあたり、いよいよ末期かもしれない。いや、とっくに手遅れかな。


「ん、んっ」


 二人の唇が、わずかな隙間もないほどピッタリと重なる。

 唇を少し開くと同時に、生温かい液体が口内に流れ込んできた。

 ただの水なのに、市販のジュースでは味わえない、うっとりするような甘さを感じる。

 シロップと練乳の名残なのか、それとも萌恵ちゃんに口移ししてもらったからか。

 おそらく――いや間違いなく後者だ。以前にもヨーグルトで同じことをしたので、ハッキリと断言できる。

 ソムリエがワインのテイスティングをするように、舌の上で転がして味や香りを確かめる。

 存分に堪能した後は、潔くゴクリと飲み込む。

 でも、まだ唇は離さない。

 ギュッと体を抱き寄せて、本格的なキスに移る。

 すると、萌恵ちゃんも私の背中に手を回して、優しく抱きしめてくれた。


「ちゅっ、んむっ」


 重なった唇の間から、水音と吐息が漏れる。

 甘く蕩けるようなキス。とても気持ちよくて、すごく安心する。

 二人の唇が唾液の糸を引きながら離れる頃には、器に残っていたかき氷はすっかり解けてしまっていた。

 もちろん、捨てるなんてもったいないことはせず、しっかりと飲み干す。

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