Breidablik-13

 

「私だけ出遅れてるもんね。ところで、シークはパープルのバスター証を貰わなくて良かったの?」


「うん、とりあえずはレインボーストーンが行き届いて、このバスター証を返すタイミングでいいかな。魔法使いとしてはまだまだ経験が足りないし」



 魔法だけでモンスターを倒した事はまだない。シークはパープルランクの魔法使いと名乗る事に、どうも違和感があった。


 グレー等級の、それも貰い物の魔術書を使っている魔法使いが、もしその実力を見せろと言われても……ブルー等級の魔法使いには及ばないだろう。


 シークがここまで成り上がる事が出来たのは、殆どが魔法ではなく剣術、とりわけバルドルのお陰だと、シーク自身がよく分かっていた。



「やあ、おめでとう。もう俺達が戦闘経験を積ませるというのも十分かもしれない。無茶さえしなければもう立派なバスターだ」



 本当は喜ぶべき昇格の後、あまり浮かない表情を浮かべるシーク。そんなシークの肩を、ゴウンが1回強めに叩いて労う。顎鬚に似合わない少年のような笑みに、シークは頭を下げてお礼を言った。



「俺達は1度、故郷の管理所に戻る。明日の朝5時の船に間に合えば次の便まで待たなくていいし、勲章は自分達の登録した管理所で受け取ることになるからな」


「あ、えっと……でも、リベラにレインボーストーンを届けに行かないと」


「それは君達でお願いできないかい? ギリングに戻るならその途中だし、俺達の故郷はあいにく海を渡った先の大陸にあるんだ。君達との旅は、いったんここまでとさせて貰いたい」



 ゴウンの突然の言葉に、シークだけでなくビアンカとゼスタも驚いて駆け寄ってくる。「えっ!?」というビアンカの言葉は管理所の建物の中に響き渡り、業務の片づけを行っていた職員達は何事かとビアンカへ視線を向けた。



「ここでお別れなんですか? 私、まだまだ評価に見合うバスターになれていないのに……」


「もう、私達が『育てる』なんて言える程、ビアンカちゃん達はひよっこじゃないわ。あの時放っておけないと思った新人が、今はもう立派なバスターよ。大丈夫、あなたは強いわ。無理だけはしないでね」


「リディカさん……寂しくなります。私、いただいたノートは大切にしますから! また会えますか?」


「ええ、勿論よ! 私達もまだバスターを辞める訳にはいかなくなったもの。先輩らしくあり続けられるように私達も頑張るから」



 ビアンカがリディカとハグを交わし、ニッコリと微笑む。歳が離れた姉のように慕っていたリディカとの別れに、ビアンカは笑顔の中にも涙を浮かべる。



「何もこれで今生の別れって事じゃないさ。俺達は引き続き4魔の残りと、アークドラゴンの調査でバックアップする。ボス化するモンスターにも警戒をしないといけない」


「有力な情報があれば管理所を通じて連絡する。俺達もシーク君達の初々しくも熱く、それでいて楽しそうな姿を2か月も見守る事が出来て、本当に良かった。有難う」


「カイトスターさん、レイダーさん。パーティーの動きやモンスターの偵察、色々教えて下さって有難うございます!」



 ゼスタが2人に感謝を告げると、カイトスターもレイダーも照れくさいのか、ゼスタの頭をぐりぐりと撫でまわして羽交い絞めのようにハグをする。


 長い間4人だけで旅をして、シルバーバスターまで駆け上がり、自分達が目指すバスターの背中はいつしかなくなった。ゴウン達には、そんな自分たちがただモンスターを倒すだけでいいのかという思いがあった。


 4魔の復活の噂を聞き、命を落とす事も覚悟の上でヒュドラに対峙しようと決め、いよいよ明日からと思っていた最後の晩……たまたま見かけた新人シーク、ビアンカ、ゼスタの3人組。


 その3人と出会った事で、ゴウン達は自分達の存在意義をようやく見出した。


 ゴウン、カイトスター、レイダー、リディカ。


 4人は強い、凄いと称えられ当てにされるだけではなく、必要とされ、自分達が後輩バスター達に背中を見せる事が出来た事を、心から感謝していた。表彰や報酬、勲章など二の次だ。


 心の内に燻っていたその焦燥感を、シーク達が綺麗さっぱり取り除いてくれたのだ。



「俺達はそれぞれ登録した管理所も違うから、向うに着いたら俺達もいったん別行動になる。この1、2か月で何かあれば、バース共和国の首都メメリにある管理所に手紙を入れてくれ。元気でな」


「はい、ゴウンさん達もお体に気を付けて。本当に有難うございました」


「もしバスターとして悩むことがあれば、ギリングにも知り合いがいる。とても腕のいい鍛冶師だ、色々と相談にも乗ってくれるだろう。ビエルゴ・マークの『武器屋マーク』を訊ねるといい」


「……えっ!? そこ、俺とゼスタが最初に装備を買った店です!」


「え? はっはっは! そうか、そこにもそんな縁があったか! いや、君達は導かれているのかもしれないね。それじゃ、元気でな」



 殆どのバスターが帰った管理所のロビーに、4人のコツコツと鳴る足音が響き、そして重たい扉が開かれる。


 元々シーク達は3人で旅をしていたというのに、気づけばここまでの半分以上の時間をゴウン達と過ごしていた。別行動をしていても、もうパーティーだとすら思う程に当たり前だった4人の存在。それがなくなると、シーク達は何かが欠けたような感覚に陥る。



「俺達も、カインズ行きの船は確か……うん、偶数日だから明日乗れるね。時間は12時!」



 シークが掲示板に駆け寄り、船の便を確認する。



「じゃあ、決まりだな。家にも随分帰ってないし、これからもっと帰れない日が続くことになる」


「そうだね。俺達よりも強いゴウンさん達が前に進むんだから、俺達も止まってゆっくりなんてしていられない」


「あのー、船に乗る前に新しいクロスを僕にプレゼントしてくれると嬉しいのだけれど」


「俺っちも欲しい! おいゼスタ、俺っちの1本ずつに1枚買ってくれ!」


「分かった分かった。贅沢な武器だぜ、ったく」



 シーク達は互いに頷きあい、そして管理所の正面扉の前に立つと、ロビーと受付の方へと振り向いて横一列に並ぶ。どこの管理所でも殆ど造りは変わらないが、このエバンの管理所を初めて訪れた時の事から、先程の別れまで、色々な思い出が詰まった空間だ。



「俺達、明日この町を出ます! 色々とお世話になりました!」


「有難うございました!」



 大きな声で頭を下げて礼を言い、シーク達は扉を開けて外に出る。ロビーに響き渡った3人の声の後、居合わせた職員が笑顔で拍手し、3人を見送った。






 * * * * * * * * *






 翌日。


 行きと同じような商船に乗り込むと、モンスターの襲撃もなく、戦う相手は船酔いのみ。ビアンカとゼスタが唸っている間、シークは看病に徹していた。


 バルドルとケルベロスは何もする事がない。良かれと思ってとても伝説の武器とは思えない程不揃いで、それでいて節の外れた珍妙な子守唄を聞かせ、更にビアンカとゼスタを苦しめていた。


 カインズから更に汽車に揺られ、3人はようやくジルダ共和国の首都ヴィエスまでたどり着く。



「あーごめん、絶対に迷子になる、俺自信がある」


「そんな自信は捨てろ、ほらこの先に高い建物があるだろ」


「全部高いよ……2階建てより高いじゃん!」


「ほら、あれだよ」



 バスターが装備を着たまま歩くことができる場所は駅周辺と、バスター管理所、それに宿屋の周囲だけだ。必需品を色々と調達した後、シークとゼスタはビアンカにバルドルとケルベロスを預けた。


 そして繁華街に立つ4階建てのデパートに向かっていた。


 白い建物に色鮮やかな窓、扉を開ければ見た事もないような高級品や、村での生活では一度たりとも必要だと思った事のない日用品などが置かれている。


 1階は主に雑貨や化粧品、案内板によれば2階に婦人服が、3階に紳士服と高級家具、4階には贈答品が置かれているという。


 わざわざ武器携帯が認められない区域まで出かけ、シークにとって人生初となるデパートに立ち寄ったのは、ただの見物でも、服を新調する為でもない。



「あの、天鳥の羽毛を使った製品ってどこにありますか?」


「天鳥の羽毛を使ったもの、ですか。4階の贈答品売り場で最上級の品を扱っております。あるとしたらそこでしょう」



 そう、シークとゼスタはバルドルとケルベロスの為に、2組3本が欲しがった天鳥の羽毛マットを買いに来たのだ。


 船に乗っている間も、汽車に揺られている間も、バルドルとケルベロスはずっとそのマットの事をずっと、それはもう絶対に買わせてやると固い信念を持って話題にしていたのだ。

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