【8】Breidablik~聖剣バルドルの話~

Breidablik-01

 

【8】

 Breidablik~聖剣バルドルの話~




 シークが意識を取り戻した後、バルドルはシークにゴーレムを倒した事、レインボーストーンを無事に手に入れた事を説明した。


 操られていた時の記憶は、シークにはない。


 戦いの様子を話して聞かせると、そんなにもあっさりと戦いが終わったのかと、シークだけでなくゼスタとビアンカ、それにリディカまでもが口をポカーンと開けたまま驚いていた。


 バルドルが簡単に説明をしているうちにすっかりと日は暮れる。この付近は白夜になるかならないかの緯度にあるようで、かなり暗くなるようだ。


 満天の星空の下、洞窟の出口横の岩肌に背を預けていた4人は、流石に今から移動しようという気にもなれず、今日はここで休むことにした。



「あー、でも一応言っておくけれど、僕は君の実力以上の力を出すことは出来ないからね」


「ってことは、シークはゴーレムを1人で倒せる程の実力がある、ってことか」


「そうだね。勿論、それはゴーレムが完全ではなかった事に加え、僕を使っているという条件、つまり僕とシークの総合戦力という形での話だけれど。それで、その時に気付いたのだけれど……」



 そう言うと、バルドルはシークに「鞄の中を見てごらん」と伝えた。シークが鞄の中を手探りで確認すると、そこには首にいつも掛けていた筈のバスター証があった。


 シークは自分の首元を触り、バスター証を身につけていない事に今気付いたようだ。



「え、バルドル! バスター証は外しちゃ駄目なんだよ? バスターが武器を携帯している時、魔術書を携帯している時、バスター証を身に着けていないと資格停止処分になるんだから!」


「へえ、そうなのかい? 知らなくてね。僕はシークの体を使って動く時、そのバスター証がとても邪魔だったんだ」


「え? 何で?」


「そのバスター証に、力を安定させる効果があるからさ。でもその反面、出力も制限されるみたいだよ」



 バルドルの見解を不審そうに聞きながら、そのような説明を受けた事は無いと皆が首を振った。バスター証自体が魔具であるなどと、思った事すらなかったのだ。



「つまり……俺はブルー等級の力までに抑えられている、ということ?」


「そういう事。でも、実際はランクの上限にかからなければ制限される人なんてほんの一部だろうと思う。むしろ戦闘の際にコンディションの波を平均化させる事が目的だろうね」


「シークはその上限にかかってるって事か。ブルー等級の段階は既に通り越している、と」


「僕の見解では。採掘したレインボーストーンで確認すれば分かるよ」



 リディカを除いた3人の鞄の中には7色の石が入っている。それを使えばすぐにでも皆の真のランクを調べることが出来る。


 シークは恐る恐る石を近くの岩の上に並べ、星空の下、今はただ焚火の明かりでしか色の判別が出来ない1つ1つに、順番に力を込めていく事にした。



「まずグレーは……真っ赤に変わった。ホワイトは……真っ赤だ」



 シークの横ではゼスタとビアンカ、そしてリディカも同じように石に触れて確かめている。皆、自分の実力がどれ程なのかはやはり知っておきたいらしい。


 ブルーまでを調べ終えると、いったんシークはふうっと一息ついてから皆と顔を見合わせた。


 もしこれでシークがオレンジの石の色を変えることが出来なかった場合、ゴーレムを倒せたのは総合戦力と言ってもほぼバルドルのおかげであり、自分はただ体を貸していただけに過ぎない事になる。


 それはつまり、これだけ持ち上げられて期待されていても、実はそう大した実力は無いと証明してしまう事でもあった。


 バルドルさえ認めたなら、誰だって自分と同程度の活躍が出来る訳だ。シークの心拍数は上がり、緊張でバクバクと鳴り始めた。


 シーク自身、自分の強さをバルドルを手にしているからだ、と思ったことが無い訳ではない。そんな困ったような顔で石に手を伸ばせないでいるシークに、ケルベロスは不思議そうに声を掛けた。



「おいシークとやら。調べねーなら俺っちの主人に先に調べさせてくれよ。ゼスタ、一思いに石を握って調べようぜ」


「え、あ……うん。ゼスタ、お先にどうぞ」


「えっ!? お、俺から!?」


「いいじゃねえか、俺っちが気になるんだよ。そしてさっさと済ませて俺っちの埃を払ってくれ」



 ゼスタはゴクンと唾を飲み込み、オレンジ色のレインボーストーンをそっと握る。そのまま力を込めるとゼスタは目を瞑り、少しずつ目を開けた。



「……おお、ゼスタ! 淡くだけど色が緑に変わってる! オレンジ等級に達してるってことじゃないか!?」


「ははは、ははっ……俺、成長してるってことだよな?」


「お、俺っちの主人はなかなか見込みがあるぜ! デクスより若いのに大したもんだ」


「いいなぁ! 次は私! 私が調べていい?」



 驚きと喜びで、半笑いのような顔になっているゼスタの手から石を受け取り、次はビアンカがそっと力を込める。



「あーお願い、お願いだから色変わって、ちょっとでもいいから色変わって……」


「ビアンカちゃん、目を開けて?」


「えーやだやだ、怖い、薄目も開けられない!」


「ねえビアンカ、色変わってるってば」


「えっ!?」



 ビアンカが握る手の指をそっと開き、ついでに薄目も開くと、そこにはゼスタよりも若干明るめの緑色に光るレインボーストーンがあった。



「え、凄い、凄いよ! 2人ともオレンジの素質があるなんて」


「これでシークだけが変わらなかったら、僕は何と言って慰めたらいいかな」


「それ、俺に前もって確認しちゃ駄目なやつだよ、バルドル」


「欲しい言葉を掛けてあげるのが『相剣』の務めだと思ってね。ちょっと君の事を『思い剣』過ぎたかな、シーク」


「重い? ああ、ちょっと気遣いが重いかな」



 戦闘では一心同体となって圧倒的な強さを披露したシークとバルドル。


 だが今はシークが本調子ではないのか、それともただ緊張で頭に入ってこなかっただけなのか、バルドルの「僕は槍じゃないから思いやりじゃない」という気持ちで放った言葉を捉え間違う。


 気遣いが重いと言われ、何がどう伝わったのか、バルドルも首があったなら傾げていることだろう。


 シークはバルドルを近くに置いてゴクリと唾を飲み込み、そっと両手で石を掴む。そしてビアンカのように目を瞑り、そして右目だけ薄目を開けて手元を確認した。



「シーク、掴む石を間違えてる、それブルーだぜ」


「えっ? あ……ごめん」


「クスクス……もうやだシーク、緊張し過ぎよ、笑っちゃうわ」



 間違えた事が恥ずかしくなったと同時に、びくびくしていた事が馬鹿らしくなる。シークは照れ笑いを浮かべながらため息をつき、今度こそオレンジの石を掴んで手のひらに乗せた。


 すると、オレンジの石はグレー、ホワイト、ブルーのときとは違い、黒く変色した。



「か、変わった……けど、この石、真っ黒になっちゃった」


「真っ黒になるのって、リディカさんと一緒よね。魔法使いは黒くなるんじゃなかったかしら」


「ええ、黒は魔力を現しているはずよ」


「という事は……魔法使いとして判断されたって事なのかな、剣術の実力がオレンジに達していないか、魔力の方が高いか……」



 念の為と、シークはもう一度ブルーの石を掴む。すると、今度はブルーの石も黒く変色してしまった。



「あれ? ブルーも黒くなった。どういう事?」



 不思議そうに首をかしげ、色々と理由を挙げてみるが、それだと思えるものが無い。そんな人間チームに対し、武器チームは答えが分かっているようで、バルドルが軽く咳払いし、ヒントを伝えた。



「僕を持ったまま、石を握ってごらん」


「え、あ……うん」



 シークは言われた通り、今度はバルドルを右手で持ち、左手でオレンジの石を掴んだ。すると、変色は黒ではなく赤となり、さっきとは異なる結果になった。



「あれ! 色が違う……」


「僕と君の総合戦闘力って話をしたじゃないか。その変色は、僕と君の力を足した結果なのさ」


「魔力と力では魔力の方が高い、けれどバルドルとの総合戦闘力なら魔力より力の方が高い……ってことかな」


「うん。そして君が余計な心配をしているからこの際言っておく。君ほど僕に相応しい人間はいないし、僕が一緒に戦いたい人間もいない。仮に僕を他の誰かが使ったとしても、その威力はミスリルにも劣る。僕のお陰だっていう気持ちは嬉しいけれど……僕は僕だけでは戦えない」



 バルドルの言葉に、シークは少し嬉しそうな顔をする。


 本当にシーク以外の人間よりも自分が相応しいという確実な証拠は無い。けれど確かに言えるのは、バルドルはソードとして優秀なゴウンやカイトスターではなく、シークとの旅を望んでいるという事だ。


 シークがバルドルへ、照れくさそうに「有難う」と伝えると、バルドルは少し間を置いてから話を続けた。



「ちょうどケルベロスも居る事だし、皆に話しておきたい事があるんだ」

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