Misty Forest‐09

 

 * * * * * * * * *



 テディにポーションと携帯食料を与えて休ませた後、シークとビアンカ、ついでにバルドルは3時にゼスタとリディカが起きるのを待った。


 やがて2人が起きると、テディの保護と事情について説明して交代する。ゼスタとリディカが見張りについてもまだ辺りは白夜のため薄暗く、静寂に包まれたままだ。



「あの、リディカさん」


「なに?」


「このテディって人、丸1日逃げてたって話ですけど、この森で1日逃げ回るのって……可能なんでしょうか」


「そうね、ある程度のモンスターを知った上で、自分1人だけを守り、身を潜めつつ気配に注意して行動すれば不可能ではないわ」


「身を潜めつつ……ってことは、身を潜められる場所が比較的近い場所にあるってことですよね」



 ゼスタの言葉に何かが引っかかったリディカは、大森林のおおまかな地図を取り出す。ここまで南下して2日、予定ではあと1日歩けば大森林の中に連なる標高1000メーテ程度の低い山脈に到達できる計算になる。


 エバンの町から100キロメーテ程度の距離にあるその山脈沿いにもし洞窟が無ければ、南北に数十キロメーテ、東西に1000キロメーテある山脈を縦断し、南のシュトレイ山脈までは更に200キロメーテ以上も歩かなければならない。



「身を隠せる場所は地図ではこの南の山脈か、もしくはどこかに岩場でもあるのか、それ以外に無さそうよ。この子、南の山脈まで行っていたのかしら」


「距離……結構ありますよね、モンスターに遭遇しないでここまで来られるとは思わないんですけど」


「モンスターがいない空白地帯があるのかもしれないわ。もしそうであればマズいわね」


「モンスターが居ない方が楽だと思うんですけど、何が……あ、強いモンスター」



 ゼスタは最初にウォートレントに遭遇した時の事を思い出していた。弱いモンスターは時に強いモンスターに捕食される事がある。


 ネオゴブリンがウォートレントから逃げていたように、モンスターがいないという事は強いモンスターの縄張りになっている可能性もあるのだ。



「いずれにしても、注意しないといけないわ。洞窟の場所も定かではないし……」


「そうですね。もう少し追加でテディさんから事情を訊きたいところです」



 モンスターの襲撃は無く、ゼスタとリディカの見張りの時間も夜明けとともに終わった。


 立ち込める霧が白く姿を現す森の中で、皆が光を感じて目覚める。テディを起こしてシークが皆にテディの事を話すと、皆はもう一度テディに詳しく説明を求めた。



「お、俺は5人組で旅をしていたホワイト等級のソードです。エバンから南下し、強いと判断したモンスターからは逃げつつ、レインボーストーンを求めてなんとか進んできたんです。ここよりも南に行った場所で、遠くに山脈が見えたのでそこを目指していたんですが……」


「この南、低い山脈がある場所だな」


「そうです。その山脈に登る所で低い唸り声が響いて……予定通り強いモンスターだろうという事で回り道を始めたんです。そうしたら……も、モンスターの大群が山から下りて来て……俺達は逃げ切れず……!」



 テディはその時の光景を思い出してガタガタと震えはじめる。リディカが背中をさすり、ゴウンは湧かしていたお湯でココアを作り、砂糖を入れてテディに渡す。それを少しずつ口にしながら落ち着いたテディは、深呼吸をしてからその続きを話しだした。



「無我夢中で逃げている中、仲間は大群にやられ、俺だけがなんとか逃げる事が出来ました。けれど、そのモンスターも俺達を襲うためという訳ではなく、どこかに向かうように見えました。たまたま俺達が遭遇してしまっただけかのような」


「モンスターが、その咆哮の主から逃げていた、ということか」


「詳しくは分かりませんが……」


「でも、俺達は南に向かわないといけませんよね」


「向かいたいところだが、モンスターの正体に不安があるな」


「聞いたという咆哮の主は、他のモンスターが逃げる程の強さ……とても貴重な情報だ」



 ゴウンは髭を触りながら考える仕草を見せ、テディとシークを交互に見る。進むべきか、一度戻るかを考えているのだろう。地図を見たり、アイテムや食料を確認し、ゴウンは「よし」と言って手を叩いた。



「よし、武器もない状態で連れて行く訳にはいかない。皆、悪いがいったん戻ろう。傷ついた者を1人置いて行く訳にはいかないだろう」


「……そうね、仕方ないわ、戻りましょう。シークちゃん達も、それでいいかしら」


「元々期限がある目標ではありませんから、森に慣れる意味でも異存はないです」


「みなさん、本当にすみません、目的があってこの森に入ったのでしょう? 俺達が不用意に森に入らなければ……」


「テディさん、それは違います。俺達は1人でも救うことが出来て良かったと思います。こんな広いシュトレイ大森林で、お互いに出逢う確率なんて0に等しいんですから」


「シーク君……有難う、いつか恩返しをさせて欲しい。みなさんも、このお礼は必ず!」



 テディは頭を下げ、そして町へと送り届けてくれるという皆に感謝の言葉を伝えた。リディカがテディの目立った傷を癒すと皆は歩き始める。


 武器を落とし所持していないテディを守りながら、一行は睡眠を取らず時々の休憩だけで済ませ、翌日の昼間にはエバンに戻る事が出来た。


 その道中、時々遭遇するモンスターを次々と瞬殺していくゴウン達。そしてテディよりも3つ歳が若いシーク達が、勇敢にもモンスターを退治していく。


 その姿を見て、テディは自分達がいかに相応しくない場所に足を踏み入れていたのかを思い知る事となった。



「じゃあ、俺達はテディくんを管理所に送り届けてくる。皆とりあえず今日は半日の休息、明日の朝6時にまた門に集合だ。シークくん達も少し経験を積んで、動きが良くなった。明日からは戦力として期待しているよ」


「あの、本当に有難うございました! 今は何も持っていないのですが……皆さんには、いつか必ずお礼をさせて下さい!」


「お気になさらず。もし……仲間の皆さんの装備やバスター証を見つけたらお届けします」


「有難う、君達の事は噂で知っていたんだ。本当に噂通りのいいバスターなんだね。仲間の事まで気遣ってくれる、そんな君達が今の俺の救いだよ」



 テディはシーク達に頭を下げてゴウン達と管理所へ向かう。何度感謝されても照れるもので、3人はにやけた顔を見比べている。


 このまま携帯食料などを買いに出るには格好が酷過ぎる。まだ太陽が天高いところにある時間だが、シーク達は一度宿屋に向かい、汗と土埃で汚れた体を洗うことにした。




 * * * * * * * * *




「やっぱりゼスタとビアンカも装備を更新しようよ。宿代は確保しているし、命あってこそだよ」


「でも買ったばかりなのよ? 勿体ないというか……」


「一式買い揃えるとなると、結構な出費になるんだぜ」



 宿で一息ついた頃、携帯食料を買うため普段着のままで掛けようとするゼスタとビアンカに、シークがちょっと待った、と声を掛けた。


 持ち金はギリギリだが、今回も下取りがあれば買えない事は無い。それなら装備を更新するべきだと思ったのだ。


 万が一の際の治療費や滞在費のためと言っても、そうならないような対策を取るべきだ。そう主張するシークに、ゼスタとビアンカは根負けして再び装備に着替えた。


 海沿いの潮風が吹く通りを歩き、管理所の傍から1つ路地へと入ると、シークの防具を買った店がある。ゼスタとビアンカは店主へと挨拶をして、今日は自分達の装備を買いに来たと伝えた。


「ほう、やはり皆揃ってブルーランクか。どれ、ブルー等級装備で一番いい物を見せよう」


「あの、宜しければ僕が目利きをしても?」


「バルドル、助かるよ。ちょうど聖剣の手を借りたいと思っていたんだ」


「手はないから柄で代用が利くなら喜んで」



 店主が店の奥から持ってきたのは、シークにプレゼントした防具とよく似たデザインのものだった。灰色のプレートは艶消しされ、青いラインで縁取られている。


 軽さ重視のゾディアック合金製の鎖帷子の比率が高いものと、女性用で赤い縁取りのデザインのもの。それぞれにゼスタもビアンカもパーティーでお揃いだと喜ぶ。バルドルから合格点も出て、更には武器も見せてもらい、結局武器も防具も新調することとなった。



「この槍すごく軽いわ! それに力が込めやすいの」


「この双剣も軽くて手になじむ。軽鎧も動きやすいし、大森林でもなんとかなりそうだ」



 下取りと同時にかなりの値引きをして貰い、手元にまだいくらかの金が残った3人は、店主に礼を言うと気分よく携帯食料の店などにも立ち寄った。本当はお金が足りず、最悪ゼスタかビアンカ、どちらかが更新を我慢しなければならないと思っていたくらいだ。


 それは単純に下取りが想像以上に高かったおかげなのだが、きっとシーク達は知らない。


 自分達の使っていた装備がギリングでは高い金を積まれても絶対に店主が譲らないと言って飾っていて、先程下取りに出したゼスタとビアンカの装備が、これから管理所に引き取られ、資料室に並べられることを。

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