New World‐11

 

 全員で2階にある南向きの明るい個室に向かうと、そこで看護士が急ぎでシーツなどを取り替えてくれ、シークがゆっくりと担架から移された。


 ベッドの周りを数人で囲んでもまだ余裕のある広さで、皆は椅子やソファーに座り、鞄などを部屋の隅のクローゼットへとしまうことにする。


 そしてカイトスターがシークに掛けられたシーツを捲り、抱えていたバルドルをシークの横にそっと置いてやると、バルドルはそれ以降ピクリとも動かせなくなった。


 どうやらバルドルの意識はちゃんとあるようで、傍を離れたくないという意思表示なのだろう。



「入院手続きしてきたぜ、検査が終わったら手術するかどうかの判断をするってさ。治癒専門の魔法使いをえっと、10人だっけ? 病院からバスター管理所にクエスト出してもらうところまでやってきた」


「あとは検査結果次第ね。シーク大丈夫なのかしら、もう丸1日は目覚めてないわよね」


「バルドルも喋らないし、2人……いや、1人と1本がどういう状況なのか全然分からないな」



 30分程してから慌しく看護士がやってきて、再びシークが担架に移される。検査のために1,2時間掛かると言われ、皆は一旦バスター管理所へと向かったゴウンとレイダーと合流する為に部屋を出た。


 歩いて10分程の場所にある海に面したバスター管理所は、首都のヴィエスやリベラ程の大きさは無く、石油や貿易拠点として発展している町にしてはやや小さい。ギリングと同程度の規模の建物だった。


 他の町同様の石造りで、中に入ると見慣れた光景が目に映る。やはりどこに行っても基本的な構造などは統一されているらしい。



「バルドル、今更だけど連れてきて良かったよな? 素直に俺に持ち上げられたってことはそうだと思うけど」


「……」


「喋らないと普通の聖剣ね。鞘から抜けないし意識はあるんだろうけど」


「やあ、皆の方が早かったか。荷物は全部預けた、マジシャンの募集についても確認をしていたところだ」



 管理所のロビーにはゴウンとレイダーがおり、到着報告と荷物の預かり依頼、それに負傷者のための治療相談を行っていたという。ゼスタがゴウンへ病院から管理所へと連絡が行くと告げるとホッとしたようだ。


 暫く色々な情報を確認し、そしてシークの検査が終わるまでどうしようかと相談していると、後方から階段を駆け下りる足音が響いてきた。



「皆さーん!」



 自分達の事だとは分からず、誰が誰に呼ばれているのかと皆で辺りを見回すと、港で別れたばかりの商人が数人、駆け寄って来た。



「皆さん、ハァ、ハァ、そろそろいらっしゃると思っていました!」


「何かありましたか」



 ゴウンが商人に尋ねると、商人は「はい!」と言って歩み寄り、そしてビアンカの目の前に立ってニッコリとした。



「あなたを見て思い出しましたよ、ビアンカお嬢様。ユレイナス商会のビアンカお嬢様ですよね」


「え、あ~……はい。そうですけど」


「いやあやっぱり! 流石ですな、バスターになったと聞いておりましたが、こんなにも勇敢で強くなっているとは!」



 商人の男はビアンカの手を両手で握りってぶんぶんと振りながら挨拶をする。


 あまり身元を知られたくないビアンカは、どう反応して言いのか分からずに苦笑いをしていて、その横ではゼスタが思わず「お嬢様……ブフッ」と噴いている。



「ちょっとゼスタ。何よ」


「ごめんごめん。ビアンカお嬢様って……いや、知ってたけどさ、いざお嬢様って呼ばれてるの聞くと笑いが止まんねえ……ククッ」


「酷い!」



 頬をムッと膨らませてゼスタを睨み、ビアンカは商人に愛想笑いをする。商人は何か言いたいことがあるようで、ビアンカの手を放すと鞄から1つの紙を見せた。


 そこには運搬証明書と書かれており、商人の会社、氏名、そして運搬する会社の名前、そして品物のリストが載っている。



「私、ジルダ共和国のヴィエスで商売をしている、ノモス社のマイオットと申します。お嬢様のお父様とは、古くから親交がありましてね。まだ幼かった頃のお嬢様にも何度かお会いしているんですよ」


「え、そうなんですか!?」


「はい、ユレイナス商会の運送は確実で早いですからね。積荷の紛失が無く、壊れも殆ど無い。生憎便があるのはカインズまでで、船便までは手配頂けませんが、道中も、あなたのお父様の会社にお願いしていたのです」


「そうですか、ご贔屓に有難うございます」



 従業員ではない為何と答えて良いか分からず、ビアンカはとりあえず礼を言う。マイオットはまたニッコリと笑うと、また鞄から1つ、布にくるまれた手のひらに収まるサイズの塊を差し出した。



「差し上げます」


「え、何でしょうか」


「私にも分からないのですが、バスターの役に立つものだと聞いております。まだバスターという職業が定着していなかった時代に、資質ある者を選別する為に使われたものだと」


「え、それって……ちょっと見せて下さい!」



 ビアンカが包み布を開くと、そこには珍しい青みがかった石があった。



「これ、レインボーストーンの、ブルー等級用じゃないかしら! これをどこで……」


「宝石商から、宝石としての価値がないからと、捨て値で押し付けられたものです。古い鑑定書には南に広がる広大な森、通称『シュトレイ大森林』の山肌近い所だと。昔は宝石の採掘技術も未熟でしたから、このような色のついた石も宝石として扱いされていたようです」


「そうか、そういう所から広まった石なのか!」



 ゼスタが手の平をポンっと打ち、理解した事を示す。宝石として広まった変わった色の石を、たまたま等級相当の力を持ったバスターが手にしたところ、色が変わった、という事なのだろう。


 色が変わる条件を研究するうち、バスターの強さによって反応する石の色と、変化する色が変わる事に気付き、魔石の類としてバスターの資質を計るため、使用されたと推測される。


 しかし、大森林にモンスターが溢れ、採掘地を知る者がいなくなると流通は止まり、そのうち使用している石が欠けたり割れたりして数を減らすことになる。



「ついには公に使われなくなると、いざ見つかった時に『この石、変な色だね』程度の扱いをされてしまってその価値を分かって貰えなくなって……」


「そうして今や『知っている人しか知らない石』となってしまった、というのがおおよその流れかな」


「その流れの中で等級制だけが残って、今では基準が貢献度やクエスト数などになって、元々の色による区分けとは違うものになってしまった、というのが今のバスターの実情って事よ、きっと」



 ビアンカはそっと手に取り、角が取れ切っていない石ころをつつき、反対の手に持ち換える。



「これ、石がブルーだから……あれ?」


「おい、なんか青と言うより黄緑? 変な色になってねえか?」


「何言って……そうね、黄、緑ね」


「ちょっと待ってくれ、触った石の色が変わったよな?」


「そう……ね」



 ビアンカが握っている石は青ではなく黄緑色と言う方が相応しい。それを見てゼスタは確信したようだ。



「お前、それの色が変わったって事は、ブルー等級相当、ってことじゃねえの」


「わ、私が!?」



 ビアンカは自分の持っている石を見つめ、そして色が青から変わった意味をようやく理解する。この石がレインボーストーンの1つなら、つまり最初が青、ブルー等級が持って色が変わる石であるなら、ビアンカは既にブルー等級相当という事だ。



「え、やっ、まだ、まだ管理所が認めてないから、ホワイト等級だけど、でも、えっ、うそ、やだ私もう上のランク!?」



 ヒャッホーイなどとお嬢様らしからぬ喜び方でくるくると回転するビアンカにゼスタもゴウン達も笑う。商人もそれなりの価値があって良かったと、安心したように笑顔になった。



「お父様にも、これで少しは恩を返せているといいんだけどね。それではお嬢様、少年、それに強者の皆さん。私はこれにて」


「あ、有難うございました!」



 ゼスタと共にビアンカも喜びを抑えて頭を下げて見送る。管理所の扉が閉まると、ゴウンがビアンカの手から石を受け取り、そしてゼスタにも調べるように告げた。



「君もやってみるといい。なに、試しだ」


「あ、はい。どうしよう、俺のは色が変わらなかったら」


「いいから握ってみなさいよ。ほら」



 ゼスタは目を瞑ってゴクリと唾を飲み込み、そして石を握り、薄目を開いた。



「色は……み、どり? って事は、俺もブルー等級相当か! やったー!」


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