New World-03

 

「じゃあ、バルドルは留守番かな。食事を御馳走になったみんなで行ってくるとするよ」


「こんなに面白そうな展開で留守番なんてヒトデナシだ! 鬼だ! 僕の知っているシークはどこに行ってしまったんだい」


「人聞きの悪い。君が御馳走になってないと主張する『剣デナシ』だからさ」


「シークこそ『剣聞き』の悪い事を言ってくれるじゃないか。僕と一緒に行きたいって、そう言ってくれると思ったのに」


「言わなくても一緒に来てくれると信じていたんだよ、バルドル」



 シークがバルドルの鞘をポンポンと優しくたたき、口角を上げてニッと笑う。この掛け合いはどうやらシークに軍配が上がったようだ。


 バルドルはまんざらでもない気持ちと、シークに言いくるめられた敗北感でモヤモヤとしている。町長はその様子を見て笑ってから、安心したようにシーク達に頭を下げた。


 行かないという選択肢を全く考えていないシーク達は、報酬の話もせずに食事を再開する。町長は噂通り、新人としては異例の扱い、異例の評価、それらは本当に信頼されているからこそのものだったと理解した。


 普段バルドルからお金の事をすぐに考えると言われるビアンカも、報酬という言葉は頭にないようだ。



「大森林はどうせ向かうつもりだったし、ついでにそんな面白い目的も出来たら楽しみになるぜ。シークがその石を触ったら何色になるんだろうな。魔力と物理攻撃力、どっちに反応するんだろう」


「あー、確かに。魔力があって武器を使うとどうなるんだろうね」


「力がある人は赤、魔力がある人は黒、という事は赤黒くなるのかしら」


「えー、なんか俺だけ汚い色なのは嫌なんだけど」


「熱を加える前のアダマンタイトは赤黒いんだよ。熱で組織が変化して、ミスリルと化学反応を起こした結果が僕の色なのさ」



 バルドルは君に相応しい色だと言いたかったのだが、どうにも伝わっていないようだ。シークは首を傾げ、やや眉をひそめて「つまり?」と訊ねる。



「アダマンタイトの色と一緒だから、僕とお揃いだねって、お似合いだよって言いたかったんだよ。自分で説明するのは恥ずかしいから察してくれると嬉しい」


「あ、そうだったのか、ごめんよ」


「そういえば、私達以外にも依頼を受けて向かったバスターはいるのですか?」


「2組依頼し、2組とも断られました。そしてその後……エバンの町に立ち寄った後、消息が分からない、と」


「恐らく魔石を自分達のものにしようと思ったんだね」



 シーク達は大森林に入ってから行方不明になった者達のリストを手渡される。その中にはオレンジ等級のバスターなども含まれている事が分かった。その数は過去3年で100名を超えている。



「とにかく、今日はゆっくりとお休み下さい」



 その後、シーク達は町長の厚意で会食場の上にある宿泊部屋も用意して貰うことになった。実家が裕福なビアンカや中流家庭のゼスタはともかく、一流のホテルはシークにとっては夢のような部屋だ。


 そもそもバスターは歓迎されない為、装備をどこかに預けでもしない限り、基本的にはお金を持っていてもホテルに泊まる事などない。7人(1本はシークと相部屋だ)は嬉しさを隠せない笑顔を浮かべ、それぞれに用意された部屋へと消えていく。



「じゃあな、シーク、ビアンカ。おやすみ」


「おやすみゼスタ、ビアンカ。ゴウンさん達もおやすみなさい」


「ああ、おやすみ。ゆっくり休めるといいね」



 シークも部屋の扉を押し開けて中へと入る。ランプのスイッチに手を伸ばし、照らされた室内の様子にシークは一瞬動きが止まった。


 床には白く毛の長い絨毯が敷かれ、壁はクリーム色の壁紙、絵画が花が飾られていて、大きなソファーも置かれている。3人程なら一緒に寝られるのではないかというベッドが2つ、深紅のシーツを掛けられて用意されていた。



「凄い部屋……うわぁ、このお風呂凄いよ! 見てよバルドル、つるつるの石!」


「大理石だね」


「大理石! へえ、凄いや! ゆっくりと浸かりたいところだ」



 壁にも大理石のパネルが張られた上品な浴室で、蛇口をひねると適温のお湯が出て湯船を満たしていく。シークにとっては豪華過ぎて、もはやどれ程豪華なのかが分からない。



「これ、1人で1室?」


「そのようだね。これはきっと新手の詐欺だ。明日の朝、旅立とうとしたら会計を要求されて、払えないなら代金分のモンスターを倒してこいと言われるんだ」


「え、そんなことは無い、と思うけど」


「君はお人好しだからね、もしそうなっても怒らないで、外のモンスターを倒しに行く気がするよ」


「その時は『お剣好し』なバルドルも一緒に来てくれるんだろう? 先に言っておくよ、有難う」



 シークは風呂の湯が溜まるまでの間でバルドルを丁寧に拭き、鞘を濯ぎ、そして服を脱ぎながら風呂場へと向かった。裸にはなったが、手にはバルドルを持っている。



「君も入ってみるかい? 成分に不安があるならやめておくけど」


「聖剣を風呂に入れようとするバスターは君くらいなものだろうね。ん~このお湯は大丈夫そうだ、鞘はふやけるから外して、あと僕で体を切らないようにね」


「うん、一度入れば君もお風呂が好きになるよ」



 シークは自分がまず湯に浸かり、バルドルをゆっくりとお湯の中へ沈める。きっとこの為にわざわざバルドルを先に綺麗に拭いたのだろう。バルドルが気に入るなら、今度から先にお湯の中で汚れを落とし、後で拭き上げる事も出来る。



「どうだい?」


「ブブブ、ブブブブ……」


「あ、もしかして息が出来ない? そもそもバルドルって息するのか?」


「ブブブブ、ブブブブブブ!」


「え? 何?」



 お湯の中で声が振動し、よく聞き取ることが出来ない。シークはバルドルをお湯の中から持ち上げ、何を言っていたのかと訊ねた。バルドルは特に荒い息をする様子はない。



「お湯の上から声を掛けられても何を言ってるか分からないから、『何をゴニョゴニョ言ってるんだい』って言ったんだよ」


「同じフィールドに立たなきゃ会話って成り立たないものなんだね」








 * * * * * * * * *







 翌朝、朝食まで御馳走になり、シーク達は町長と町の職員に見送られてリベラ駅から汽車に乗るためにホームの椅子に座っていた。


 町長があからさまに若いバスターの見送りをしている様子に野次馬ができ、そのうちの誰かが「あ、シーク! シーク・イグニスタだ!」と叫んだ事で、シークを知るバスターが驚いて駆け寄ってくる。


 町長の周りには何故見送りをしているのかと詰め寄る者もいて、町長は「依頼をしたんです!」としか言えずに困っていた。やはりバスターの間でシーク達の名前はそれなりに広まっているらしい。


 もっと有名なはずのゴウン達よりも、今が旬のルーキーの方が注目を浴びやすいようだ。


 汽車が来るとシーク達は町長へ頭を下げ、そして詰め寄るバスターから逃げるように客車へと乗り込んだ。大森林で行方不明者のバスター証を回収し、更には魔石を持ち帰る事で、町長は報酬だけでなく、バスター管理所への推薦をしてくれるのだという。


 そんな事を周りに知られたら、間違いなく付いてくるか、町長に依頼を寄越せと迫るバスターが現れる。


 シーク達7人と1本はこれからの予定を打ち合わせる事も、大森林についての情報交換をする事も出来ず、聞き耳を立てるバスター達を気にしながら汽車に揺られて国境を目指していた。



「鉄道って凄いや、あり得ない速さで木や動物やモンスターが窓の外を流れていくよ」


「これをもし歩こうって言うんなら何週間かかることか。多分こうやって2、3分話してる時間でも、歩いたらきっと1時間以上だぜ」


「うえー、楽を覚えると後が怖いね」


「前に言ったじゃないか、楽をするために頑張る、楽をするためにお金で解決! 先に楽をしたらあとで頑張る事になるって」


「そういえばそんな話もしたね」



 バスターの目的が段々とお金を稼ぐ事に移行していく傾向があると聞いていたシークは、それはそうかもしれないと思いはじめていた。歩かなくて済む、汚い川の水を飲まなくて済む、毎日美味しい食事と酒が楽しめる……バスターは上手くいけばある程度で挫折しても稼げる職業だ。



「シークはお金より僕が一番だから、楽より苦労を優先してくれると信じているよ」


「でも、お金があれば昨日みたいな生活が出来るよ? それは魅力的じゃないかい」


「モンスターをしっかり倒し終わったあとなら魅力的だけれど、モンスターを斬り続ける生活には劣るね。僕はお金には勝っていたい」

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