New World‐02

 

「お願い……?」



 シークはベーコンを咥えたまま食事の手を止めて町長の言葉に耳を傾ける。他の者もお願いという言葉を聞いて食事を中断しているようだ。



「はい、その……この町は鉄道が延びるおかげで人の往来も多く、天候も安定してとても栄えております。山を隔てた東の首都に比べれば見劣りしますが、周囲の平原は強力な魔物も殆ど出ずにとても住み易い土地なのです」


「それは知っている、俺達は何度もここを訪れた事があるんでね」



 ゴウンはカイトスターと何度訪れたかを指折りで数えている。20年近くバスターとして活躍していれば、おおよその主要な町には行ったことがあるだろう。



「ではご存知かもしれませんが、その……この町は人口に比べるとバスターの数が非常に少ないのです。ギリングの北東や、南東のアスタ村の南の砂漠のようにモンスターが強い訳もなく、活躍の場が無いせいでバスターが多く訪れても留まってはくれないのです」


「まあ、そうだろうな。俺達も物資の調達だけして通過するつもりだった」



 カイトスターが苦笑いをし、町長に申し訳なさそうに頭を掻く。リベラから鉄道に乗れば隣の町、そこから山の合間を川沿いに続くなだらかで平坦な街道に差し掛かり、隣国に直通できてしまう。


 ちなみに、世界的に中規模都市扱いされるギリングも、ジルダ共和国内では鉄道が通っていないせいで田舎扱いされている。


 シーク達のような有望なバスターがギリングのバスター管理所から過度に期待されたのは、きっとギリングの知名度を上げたいという思惑もあったのだろう。



「やはりそうでしたか。それならばご覧になられたでしょう、バスター管理所の閑散とした様子を。モンスターが弱いと言っても、外の放牧地や街道で怖い思いをする者はいるのです。しかしながらクエストを受けてくれるバスターの数が足りないのです」


「え、俺はリベラはバスターも多いって聞いたんですけど。ゼスタ達とも、クエストの争奪戦が熾烈だろうなって話をしていたところです」


「だって、やっぱりボアとかゴブリンなんかは出るんですよね? 俺達みたいな駆け出しが経験を積むのに困るという訳ではないと思うんですけど」



 シーク達は自分達が聞いていた前評判と、町長の言葉が随分とかい離していると気付いて首を傾げた。


 人口で言えばはるかにギリングより多く、バスターになりたい者の絶対数も違うだろう。事実、バスターを目指したい者も多く通う職業校の数は、ギリングより2校多い。



「確かに、経験を積むのに困るという程ではないでしょう。冒険等ではなく、日銭を稼げたらそれでよいと思ってバスターをしている者が生計を立てられる程ですし。ですが、殆どの若者はバスターになるとすぐにこの町を出てしまうのです」


「この町を……出ていく?」


「はい。バスターにとっての醍醐味は、やはり強いモンスターとの戦闘、未踏の地への到達でしょう。同じ経験を積むのなら、さっさと新しい土地に行く、それがこの町の新人の傾向です」



 それは確かに分かる、と言いながらシーク達は頷く。もし装備や金に余裕があれば、シーク達だってどんどん行ったことのない土地へ行きたいところだ。大きな町なら中流家庭でもある程度の余裕があり、バスターを目指す若者も旅立ち段階で躓くことは無いだろう。


 そうなれば、早々に新しい土地に向かうのは仕方がない事だ。ギリング出身者も、モンスターの等級差が無いのならわざわざ物価の高いリベラを目指す必要がない。故郷で強くなればいいだけである。


 この町のバスター管理所は、いつ訪れてもクエストが一定数残っている。地元の出身者が殆ど留まらず、また弱いモンスターを狩る為に余所からバスターがやって来たとしても、今度は滞在費が高くなる。


 ギリングで3000ゴールドの食事つきの宿があるとして、この町の同等クラスの宿は5000ゴールド食事なしが最低ライン。おまけに外食の飯代なども高い。


 クエストの報酬も多少高いとはいえ、目論見ほど金が貯まらないのだ。



「……ということは、お願いというのはこの町の外のモンスターを一掃して欲しい、という事ですか?」


「1日くらいならいいけど……ずっとって訳にもいかないわ。私達はエンリケ公国まで行って、カインズの港から大森林を目指すんです」


「大森林ですか、いえ、それならば尚更お願いしたい」


「何をすればいいんでしょうか」



 シークは困った表情のままの町長へと尋ねる。それなりに上等な服に対して、似合わない程の人の良さ、そして威厳ではなく低姿勢を保って頼ってくる町長を、シークはなんとなく放っておけないようだ。



「はい、実は先程の理由により、大多数の新人が町を離れるのですが、1年以内に安否不明となるバスターが2割を超えるのです。ある程度はその後現れるのですが、バスターがあまり訪れない北方のエバンに向かい、大森林に入ってそのまま戻らない者がそのうちの3割を占めます」


「未経験のバスターが訪れるような場所ではないと聞きますが、なぜ大森林に行くんでしょうか」


「それは、勇者ディーゴが大森林で能力を開花させた、という伝説のお話が原因なのです」


「え、そんな伝説あるの? バルドル、知ってた?」



 シークがバルドルに尋ねるも、バルドルは首を横に振る代わりに「知らない」と言う。



「確かにディーゴは大森林で特訓をした事がある。もしかして、自分の能力に反応して色が変わるという魔石の事じゃないかな」


「え、何それ」


「僕とディーゴ達は、戦い難い森という地形で確かに特訓をしたんだ。その時に山肌の洞窟で不思議な石が転がる場所を見つけた。その石をディーゴが持つと赤色に、でも他の人間だと緑や黄色になったりした」


「石が生きてるってこと? 石の色が変わるなんて、なんか気持ち悪い」



 シークは身震いをし、まるで怪談でも聞いたように体を両手でさする。ゼスタとビアンカは初めて聞いたという顔であまり信じていないようだ。ただ、ゴウン達はその話を知っているようで、リディカが代表してバルドルの話を補足した。



「その魔石はね、レインボーストーンと呼ばれているの。私達も過去に占い屋で一度だけ本物を見たことがあるわ。持った者の能力値を測る事が出来ると言われている石よ。バスターの等級の色、覚えているわよね」


「あ、はい。グレー、ホワイト、ブルー、オレンジ、パープル、シルバー、ゴールド……」


「レインボーストーンが元になっているのよ、その色は。石の色が7種類あって、グレーのレインボーストーンが変化しない者はバスター適性が無い者。ホワイトの色が変化すればその人はホワイト等級相当、ブルーの石の色が変わればブルー相当」


「俺達はブルーの時にその石を見せてもらった。ゴウンが赤、リディカは黒に、カイトスターと俺は黄色に変化した」


「変化する色で何が分かるんでしょうか」



 リディカの話に続いたレイダーは、色の意味は推測だが、と付けたし、その色の説明をした。



「能力の高低だけではなく、力の強さや伸びしろを表しているんじゃないかと思う。試しに他の奴で試させると、ソードやアックス、ランスは赤や黄色、ダブルソードやボウは黄色か緑、リディカのような魔法使いは全員が黒になった」


「そう。だから私達は色がその者の力強さを表すんじゃないかと考えたの。同時に、黒くなるのは魔力を感じ取ったからじゃないかと」


「そんな物があるんですね、等級の色の決め方にそんな意味があったなんて知らなかったわ」


「えっと、それはつまり、大森林に向かった新人たちが、リベラの町でその話を聞いて、魔石を探そうとして遭難したりモンスターにやられてるって事ですか?」



 ゼスタが町長に確認をすると、町長は申し訳なさそうに頷いた。



「帰還できた者によればその通りです。しかし、その石がどこにあるのか無いのかもはっきりしない中、石を探しに大森林に行ってはいけませんなどと言えば煽るだけです。ですから、それならばいっそこの町にその石を置き、自身の実力を調べたいのなら自由に調べられるようにすればいいと考えたのです」


「新人が焦って実力を知ろうと危険な場所に赴くなら、赴く理由を1つ減らせばいい、ということだな」



 カイトスターはその考えは現実的だと頷く。



「しかし、問題は……誰にその石を持って帰るように頼むかです。そこで私は考えました。我が町の者を救い、他の村からも感謝され数々の報告が上がっているイグニスタさんと、名声が各地に轟くスタイナーさん達が一緒に行動している今、是非最も信頼できそうなあなた方に縋りたい、と」


「あらら。シーク、『タダより高いメシは無い』になっちゃったね。僕は食べていないけれど」

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