Interference-09


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 すっかり晴れて地面も固まりだした頃、シーク達は町へと戻り再び管理所を訪れていた。今回の事件を整理するため、事情聴取に呼ばれたのだ。


 管理所として不名誉な噂を流された上、加害者も被害者もバスターとなれば、たとえシーク達から警察へと被害の届が出ていなくても管理所は動く。ガードも着けずに刃を向けて襲い掛かったとなれば殺人未遂だ。


 管理所の担当は、今は警察へと通報してミリットへの事情聴取を行っている。


 シーク達は自分達の事情聴取の番が来るまでの間、管理所の休憩スペースで今後の予定を話し合うことにした。4人がけの大きな赤い革製のソファーの、テーブルを挟んで向かい側には鍛えてくれると約束したゴウン達もいる。



「いやあ、君達も災難だったね」


「こんな分かりやすい逆恨みも、そうそう無いなと……参りました。ビアンカ、いったいあいつにどんな殴り込みをかけたんだよ」


「え!? いや、私は抗議しただけよ。依頼奪った上に依頼人を放置するなんて許せないじゃない。管理所に報告するって言ったら自分達の口で報告するって言ったから、一緒に管理所に向かって頭を下げさせただけよ」


「理由はともあれ、あれじゃあバスターとしての登録は抹消されるだろう。人に刃を向ける行為は規約の禁止事項に書かれているし、刑事罰の中でも殺人、殺人未遂、恐喝、強盗の類は資格剥奪に値する」


「シークが鞘で応戦したのは問題無いんですか? 俺やビアンカは鞘も無いし、あんな時どうしたらいいのか」


「攻撃せずに防御するなら正当防衛だ。場合によっては相手の動きを止めるための攻撃は許される。さっきのシークの場合もそれに該当すると思うから、聴取を受けても素直に話せばいい」



 まだ法律やバスターの決まり事を全て熟知しているとは言えない少年少女ならば、不安になっても仕方が無い。ゴウンは先程のミリットの行動が何に抵触するのか、そしてその対応として3人が取った行動が問題になるのかならないのかを丁寧に教えていく。


 シーク達にお咎めは無いだろう、というゴウンの言葉にようやく安心したのか、3人ともソファーの背にもたれ掛かり、大きく息を吐いた。



「ホッとしたところで、それじゃ、これからの君達の旅を考えていこうじゃないか。今日、ミノタウロスと戦ってみて、感想は? どうだったかい」



 顎鬚を触りながら問いかけるゴウンに対し、まずビアンカが両手の平で首回りを抑えながら考える仕草を見せ、自分の考えを話しだした。


「正直、ミノタウロス戦は今のままじゃ1日1度で限界と思いました。武器の性能より、根本的に私達の力や攻撃の重さが足りてないと感じました」


「俺もそれは思った。バルドルはミノタウロスにサクッと刺さるんだけれど、そこから先に斬り進む力が出てこないんだ。魔法剣を発動させても傷口にファイアボールを撃つのとまだまだ大差ない」


「俺も、剣を当てるだけじゃ体表に傷がつく程度で、しっかり斬るには立ち止まるか体重を全部乗せないと無理だったな。あいつの攻撃を喰らった時は、攻撃が重過ぎて吹き飛んじまった。双剣の防御は全力でも圧されたぜ」


「私は動きを見切れなくて、小手と鎧の間を引っ掻かれたわ。動作と動作の間が私の場合まだまだ緩慢過ぎる気がする」



 3人はミノタウロスに対しての感想と、自分に足りない所が何かを分析する。そこまでの考えを3人が述べるとは思ってもいなかったようで、ゴウンは流石だなと呟いた。左隣りに座っていたカイトスターは頷きながら、地図は持っているかと3人に尋ねる。


 ビアンカがそれに答え、昨日買ったという赤い肩掛けのバッグから、1か月間しっかり使い込まれた地図を取り出して広げ、ギリングの位置を指で示した。その地図を使い、カイトスターも説明の為に指で地名を指した。



「俺達と出会った北東のイサラ村がここだ。その北にシュトレイ山がある。この山道を抜ければ大森林があって、こことは全く違うモンスターの生態系がある」


「でも、北東の山越えも、南東の砂漠もまだ私達には無理だと思います。アスタ村の先の草原は進めるけれど、シークが言うにはオーク以上の強い魔物が出ないから成長出来ないって事だし、その南の集落の少し先から海まで続く砂漠は危険です」


「海か、俺海なんて見たことが無いや。砂漠も見た事ないし。ミノタウロスみたいな強い魔物の生息分布ってどうなっているんだっけ? ゼスタ知ってる?」


「いや、流石にまだ相手に出来るなんて思った事もないからノーマークだ。バルドル、俺達に相応しい練習場所って分からないか? ミノタウロス程じゃなくていいんだけど」



 バルドルは考えるふりをして(いるのだが、恐らく誰もそうは見えないだろう)、シークの指を借りて自分が考えるおおよその場所を伝えた。



「さっきカイトスターさんが言った大森林は経験を積むにはピッタリだ。ホワイト、ブルーの等級で狩るなら、視界が悪く動き方を考えないといけないし、見えない気配を探る為の神経を研ぎ澄ます事が出来るよ」


「地形的にってこと?」


「地形もそうだけど、北に行く程モンスターは大型化するんだ。大森林の北東に『エバン』って町があるだろう? そこは栄えた町なんだけれど、北北西から北にかけては海に面している。東・西・南の3方を森に囲まれ、山越えするバスターが少なくて、バスターは用が無ければ海路を使ってまで立ち寄らない」


「つまり、モンスターは手頃な強さで、バスターは少ない、ってことか」


「流石は僕の持ち主、その通りだよ。僕が選んだだけの事はある」


「俺の膝元から『上から目線』をどうも。300年前と今じゃ様子が変わっているかもしれないよ」



 勇者ディーゴと300年前に立ち寄り、その周辺でモンスター討伐をした事があるバルドルは、当時の様子からシーク達に最適な場所だと考えたようだが、なにせ300年もあれば世界の情勢も生態系も大きく変わる。最新の情報がどうなのかは、ゴウン達の方が詳しい。


 シーク達の目線は、自然とバルドルから離れてゴウン達へと向けられる。バルドルはさめざめと泣くフリをして(いたのだが、恐らく誰もそうは見えないだろう)時代遅れな聖剣だと思われるのは悲しいとしょげた声で呟いた。



「いや、バルドルのいう事は合っているよ。エバンは今、船の燃料補給基地としても栄えている。それに油田があってね、この大陸の国々と、南東の大陸の国にも輸出されているんだ。重要な場所なんだが、行商人やバスターにとってはあまり用があるとは言えない」


「ほら、僕の言った事に間違いは無かった!」


「君が『ほんとつき』なのは分かってるよ、300年前に本当だったことが、今も変わりないか確認したかっただけさ」



 バルドルの知識は今でも役に立つようだ。刀身が柔らかければきっと今、バルドルはふんぞり返っていたことだろう。



「ということは、山越えをせずにエバンに行くというのが現実的と言えるな」


「西の隣町を抜けて、しばらく鉄道で西に行き、隣国に抜けてから港を目指すのさ」


「この国を出る、ってことですか」


「そうだ。ジルダ共和国から出てエンリケ公国の港、カインズまで。結構な長旅だが、それが一番いいだろう」


「そうね、北の山道を守られながら進むのは違う気がする。強くなる為に教えてもらうのと、旅を進める為に代わりに道を作ってもらうのは同じじゃないわ」


「俺も同感。シーク、バルドル、いいかな」


「あ、えっと、そう……だね」



 シークはバスターになるまで、アスタ村から北はギリングの町まで、西は草原の真ん中、南も草原の真ん中、東は村から数キロメーテ先にある大きな川の岸までという狭い範囲しか動いたことが無かった。


 そんな自分が今は新しい土地はおろか鉄道にまで乗り、隣の国に入ろうかという次元の話をしている事に、頭がついていってないようだ。


 大森林と、村と町の間にある森の違いが分からず、川と海の違いも聞いたり習っただけの事で実はあまり分かっていない。鉄道は知識として知っているだけで、この国の外に他の国があるなんて事は、地図の上での線引きしか感覚として持ち合わせていない。


 全くピンと来ていない、そんな狭い世界をのんびり生きてきたシークを気遣ってか、バルドルはその気遣いがあともう少し足りていないような申し出をする。



「ごめんよみんな。僕の持ち主は旅のスケールというものについて行けてないんだ。多分、鉄道も国境も、海も船も見たことが無い。だからとりあえず、想像し易いような、例えば最寄の目的地の話をしてくれると有難い」

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