Interference-07

 

 ミノタウロスと対峙したまま、シーク達はどうやって口の中へと魔法剣を突き刺すかの作戦を立てる。


 自分の武器で、自分の動きで何が出来るか、それぞれが考えをまとめようとしているのを見て、バルドルは最適な方法をあえて言わずに3人に考えさせる事にしたようだ。


 その間にも、ミノタウロスは暴れ、突進したり斧を振り回したりと、立ち止まったまま考えるような暇をくれることは無い。



「うわっ!」


「ゼスタ! 大丈夫か!?」


「斧が掠った! か、買ってて良かった新装備……!」


「それ店にあった広告ポスターのキャッチーコピーじゃん!」


「もう! こんな時に笑わせに来ないで!」



 ゼスタが攻撃をギリギリで避けて思わず溢した言葉に、シークとビアンカが猛抗議する。バルドルが「ミノタウロス……牛だけに『モウ』なのか」と呟いたのは誰にも聞こえていない。


 その様子がどこか楽しそうにも見え、観衆達は内容までは聞き取れないのか、「この状況を楽しんでやがる……」と開いた口が塞がらない。


 ミノタウロスの攻撃パターンを見切り、致命傷を負うことなく少しずつ弱らせていく戦い方を見て、苦戦していると思っていた者達は次第に応援を始める。



「これさ、一斉に斬りかかるっての駄目かな、吠える瞬間を狙って一気に違う方向から!」


「私斬りかかれないんですけど!」


「あ、ごめん」


「私、こうなったら心臓一突きで仕留めたい気分! ……ちょっと斧、危ないでしょもう! ぎゃっ、痛っ!」


「ビアンカ大丈夫か!」


「爪が、掠ったの! 大丈夫!」


「俺が頭上に跳んで攻撃仕掛けるから、目で追うミノタウロスの死角から思い切り突け! その後はシーク、任せたぞ!」


「分かった! いくよバルドル!」


「準備おっけー、お好きなタイミングでどうぞ」



 作戦のタイミングはゼスタに任せ、皆がいつでも大技を仕掛けられるようにその時を待つ。


 シークが顔の正面に立ち、噛み付こうとするミノタウロスの鋭い牙をジャンプしたり、しゃがんだりして避ける中、防ぐ為に構えた剣……すなわちバルドルにミノタウロスが噛み付いてしまう。



「ゼスタ! うっわ、口臭っ!」


「シーク! やべえ、振り落とされるなよ! 俺行くから隙見て発動しろ! 跳ぶぜ!」


「私が思い切りスパイラル繰り出す! そしたらシーク、お願い!」


「うん、いつでもいける!」



 ゼスタが助走をつけて思いきり高くジャンプし、攻撃を仕掛ける。ビアンカは足と腕に注意しながら槍を構え、ゼスタが剣をミノタウロスに突き立てる瞬間に合わせるようにタイミングを計っていた。



「ゼスタとビアンカ、2人からの責任重大だね、二重だと……10代の君に対しても責任『20代』と言うべきかな」


「面白くない……余裕が……クッ! あるね、バルドル」


「ミノタウロスに咥えられたままってのも暇なものでね」



 バルドルの言葉に気が抜けそうになり、シークが慌ててバルドルの柄を握り締めている間にゼスタが高く跳び上がる。空中で一回転して角が折れたミノタウロスの左側頭部を一撃、そしてすぐに脳天にもう一撃を振り下ろした。



「脳天割り!」


「アァァァァ! グァァァァ!」


「よし! 今……! スパイラル!」



 ゼスタが頭部を深く斬りつけてそのままミノタウロスの上でくるりと回り、背中を蹴りながら距離を取る。その間にビアンカが捻りを加えた渾身の突きでミノタウロスの胸を刺して抉った。



「ウグゥ!?」


「シーク!」


「ああ! ファイアーソード!」



 シークが唱えたと当時にバルドルを炎が纏い、その炎がミノタウロスの体の中を一瞬で駆け抜けた。えげつない熱さと痛みでミノタウロスが悲鳴を上げ、口を大きく開けてのけ反ったところで、シークは上顎めがけて一気にバルドルを突き立てた。



「これで……終わりだ!」



 叫び声を上げる事も出来ないまま、ミノタウロスの巨体はシーク達の方へと倒れ掛かる。シークは慌ててその場から離れ、ビアンカも槍を引き抜いて躱した。


 僅かに地面が揺れ、乾ききっていない地面でミノタウロスがベチッと鈍い音を立てて横たわる。


 それ以上動くことがない肉の塊と化したミノタウロスを見ながら、3人はバクバクと脈打つ心臓を抑えながら、ただ終わったという事実だけを確かめていた。



「た、倒した……」


「倒せた! 倒せたわ!」


「やったぜ! 見たか!」



 3人の顔に少しずつ喜びの表情が見えだす頃、はるか後方で見守っていたバスター達が歓声を上げて駆け寄ってきた。何人かは見に来ていただろうと思っていた3人は、その方向へと顔を向け、予想以上に観客が多かった事に驚く。


 ざっと見るだけで4、50人はいるだろうか。



「すげーなお前ら! 時間はかかったけど、倒しちまうなんてな!」


「悪い! 俺達こんなすげえ奴だと思ってなくて、何かズルしてるんだろうなんて思っちまった」


「ミノタウロスだぜ? オレンジに上がった5人パーティーでさえ気を抜けねえってのに」


「盾のガード不在で攻撃を殆ど躱して、全員が時にガードして……なんて戦い方だ、感動したぜ!」



 シーク達は抱きつかれ、頭を撫でられ、その健闘を大いに称えられた。その顔は困惑しているようでも、満更でもないというようでもあった。


 そんな中、活躍をしたにも関わらず、その輪に中に入れない1本……つまりミノタウロスの上顎を突き刺したまま埋もれているバルドルは、できるだけ小声で「シーク、シークってば!」とずっと呼び続けていた。



「あ、まずい、バル……俺の剣がまだミノタウロスに刺さったままだった!」


「あっ! 急いで助けなきゃ!」


「そっち持て、いっせーの……重いっ!」


「ぐぬぬぬ……! っと! 抜けた!」



 ビアンカとゼスタがミノタウロスの頭を持ち上げ、シークが足でその頭を蹴って支えながら思いきり引き抜くと、ズルッという音と共に、真っ赤に染まってしまったバルドルがようやく救出された。



「ごめんバルドル、きちんと洗って、新しいクロスで拭くから」


「まったく、僕が黙っていたらいつ助けてくれたんだか」


「ごめんってば」


「君が思わず臭いと言ったところに、僕はずっと我慢して入っていたんだ。僕を真っ先に称えてくれてもいいと思うのだけれど?」


「そうだね、君の言う通りだよ。君がいなきゃこんなに自信を持って戦えないよ」



 小声で話すシークとバルドルを隠すようにビアンカとゼスタが立って並び「ははは、ははっ……」と下手くそな愛想笑いをして誤魔化す。


 そんな3人に対し、一番前に立っていたゴウン達が声を掛ける為に半歩歩み寄ろうとしたところで、後方から大きな声がした。



「い、インチキだ! 全部インチキだ! バスターになって1ヶ月でミノタウロスを倒すだと? 有り得ない! オーガ退治すら受注出来ないのが普通だろ? そんな強いモンスターを倒すなんて、カラクリがあるに違いない!」


「へっ!?」



 突然の大声と、その内容にビアンカとゼスタは本当に心の底からの驚きで変な声が出てしまった。シークは背を向けてバルドルを宥めていたために、何事か分からずに固まっている。周りの者達が「今見た通りだ」「間違いなく倒したじゃないか」と言ってもその声は収まらなかった。



「絶対にランク違反の武器と防具を使っている! もしくは何か体に作用する違法な薬でも使っているんだ!」


「ちょ、ちょっと何言ってるのよ! 私はさっき店で装備を買ったばかりよ? ちゃんと等級の認定証もあるわ!」


「そうだ、俺も双剣はさっき買った、防具もバスターになった時に武器屋マークで買ったものだ!」


「そんなの口でなら何とでも言える!」



 そう言いながら出てきたのは、バスターの装備を身に纏った1人の赤髪の青年だった。背中には大剣、通称「バスターソード」を携えている。



「あんた……ミリット! 依頼主放り出して逃げて、私達に尻拭いさせたあんたが何言ってんのよ!」



 そうビアンカが反論した相手、それはバスターになってわずか2日目に、取水の機械を修理する作業員達を見捨てて町へと逃げ帰った青年、ミリット・リターだった。


 彼はバスター管理所から謹慎を言い渡され、パーティーは解散。2週間前にようやくパーティーへの応募登録をして活動を始めたところだった。



「うるせー! あんな初日にオークを倒してる時点でおかしかったんだ! こんな皆の目の前で堂々とインチキやって褒められて嬉しいか!」


「インチキって言うなら、どこがどうおかしいのか、言ってみなさいよ!」

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