Interference-04

 

「それは私達も悩んでいる所でね。何せ近隣の町や村からの表彰まで疑われ、誰の証言でも埒が明かなくて」


「えっと、俺達は直接言われた事ないけど、実際に言って来た人は分かりませんか?」


「電話や投書で、面と向かっての苦情は今のところないんだ。君達が悪い訳でもないんだが、早めに解決しないと嘘が本当のように信じ込まれると後が大変だと思ってね」



 シークが確認しても、マスターはそれが誰なのか分からないと首を振る。誰かの僻みか、あまりにも早すぎる昇級を怪しいと思っただけなのか。


 苦情を言う人々の顔が見えないのは少々面倒だ。


 認めるしかない状況を作ったとしても、それが伝わったかが分からない。後から理由をつけて認めない事を正当化するのは容易く、陰謀説、不正説、根拠の無い批判にはそれが付き物だ。


 何か迷惑をかけたのなら別だが、勝手に不満を持たれ、挙句、疑われた方がその説明と解決方法を提示しなければならないとなれば普通は納得できない。


 どうせ何をしても批判する人はするし、必死に弁解する姿を楽しむ為だけに濡れ衣を着せる悪人もいる。


 ただ、そこは若い3人 (1本はこの場合除いておこう)の元気なところ。「腹が立つ!」と口を揃え、自分達が何も悪い事などしていないと証明する気は満々のようだ。



「俺の考えとしては、早く強くなって見返すとか、もっとすげー事するとか! 割と現実的だと思うんだけど」


「それだと、『ズルしたから強くなった、ズルしたから出来た』って言われて終わりじゃないかな」


「その人と決闘をして勝つってのはどうかしら」


「決闘相手が分からないからなあ。噂を流した張本人ですって名乗り出るような人なら、俺達に直接言ってると思う」



「質のいい人工ミスリルソード」以外の3人は色々と打開策を話し合った後、マスターにこれまでの日々の事や、ベテランのパーティーに戦い方を教わっている事などを報告し、方針が決まらないまま応接室を後にした。


 装備を新調し、気分が良いはずのビアンカとゼスタの表情はずっと曇っている。「このままクエストを受けて外に行こうぜ!」と言わんばかりの士気だったはずが、今は「どこかでいったん落ち着こう」という雰囲気だ。


 管理所の中でシーク達に気付く者達をよく見ると、本人を見れたと喜んでいる者と、胡散臭そうな視線を向ける者がいることに気が付く。


 陰口を言われて自分達の強さが消える訳ではないにしても、言われっぱなしは気に食わない。管理所の外に出ると、3人は合わせたように同時にため息をついた。



「あの、そろそろ『質のいい人工ミスリルソード』ごっこを止めても?」


「ああ、もう大丈夫だよ、有難う。なんだかなー、そんな変な話になってるとは思ってもいなかったよ」


「俺達が巻き込む形になってしまうし、誰かに頼る訳にはいかねえよなあ」


「あの3人組に賄賂を貰ったんだとか、思われたら申し訳ないもんね」


「警察に相談するってのもアリかな? いや、僻まれて変な噂を立てられていますなんて、笑われるだけか」



 3人は名誉挽回の奇策など思いつかず、ただ何となく管理所前の大通りを北へと歩いていく。あまり考え過ぎるとすれ違う人が皆、実は自分達をインチキだと思っているのではないかという疑心暗鬼に陥りそうだ。


 そんな3人に、バルドルはとてもはつらつとした声で呼びかけた。



「僕が思うに、単純に強い所を見せればいいと思うのだけれど」


「いや、見せるって言ったって……」


「この辺りで一番強いモンスターを、出来るだけグレー等級、つまり君達とスタート時期が同じバスターがいる所で倒すんだ」


「違いを見せつける、みたいな感じ? 見せびらかして嫌な奴! って思われて終わりじゃないかしら」



 シーク達はもうネガティブな思考のスパイラルに陥っているようで、何をしても駄目な理由しか思い浮かばないようだ。


 せっかく上がった雨の後、戦えばまだ地面はぬかるんでいて泥だらけになるとしても、少しは気分が上がっていくはずなのに、空ではなく足元の少し先を見下ろすだけ。今はバルドルと軽快な掛け合いをする気力もないらしい。



「僕がもし『悪い剣』だったとして、そうすると多分君達が困っている姿や潰される姿を絶対確認したいと思うはずなんだ」


「まあ、陥れるんだから、その様子は見たいだろうねえ」


「という事は、この街の中や町からそう遠くない場所では君達は見られている可能性があるって事になる。何か悪い事をしていないか、していたらすぐに周りに広めようと」


「まるで、やった事があるかのような口ぶりだね」


「いいかいシーク。僕は聖剣なんだ。聖剣を名乗るにはまず敵となる悪を知る所から始めなくちゃ」


「なるほど」



 バルドルが言う事にも一理あると、3人はそれならば明日からは町の近くでなるべく難易度が高いクエストを受け、不正をしていない事を証明しよう! と意気込んだ。そしてすぐに管理所へと戻り、期限が当日限りではないクエストを見て回ることにした。



「ん~、グレー等級で難しいクエストなんてそうないよな。オーガがせいぜいって所だが、クエストが無い」


「バジリスクの生息地までは歩いて2日、流石にそこまでは来てくれないね」


「なんつうか、都合よく『きゃー、強いモンスターが町に近づいて来ているわ~、誰か強いホワイト等級のバスターがいたら助けてえ』みたいな状況来ねえかな」


「え、ゼスタ何その汚い裏声、何の真似? 猿?」



 ゼスタが困ったか弱い女性という設定で声真似をするも、どうやらすべってしまったらしい。シークが怪訝そうな顔でゼスタにツッコミを入れると、ゼスタは膝から崩れ落ちて激しく後悔する。



「シークって容赦ないわね」


「昔からこんなだよ、こいつは」



 ゼスタは場を和ませようと無理をし過ぎたようだ。


 その時、管理所の1階の職員が慌ただしく動き回る足音が聞こえ、急に建物内がざわざわし始めた。朝や夕方ほど多くないにしても、他にもパーティーは数組程いる。


 彼らが集まって何かを話しているのを見て、何か事件でもあったのかと首を傾げていると、管理所の屋根に取り付けられているサイレンが鳴った。



「『ただいま汚い裏声が発生しました、みなさん、危険ですので耳を塞いでください』ってアナウンスかな」


「そんな訳あるか! 学校通ってる時にも何度か聞いたことあるだろ。警戒の合図だ」


「ゼスタの願いが通じて、本当にモンスターが来ちゃったのかしら」


「別にそんな、え、俺のせい!?」



 3人が緊張感のない焦り方をしていると、サイレンが止み、管理所の職員による非常事態のアナウンスが流れだす。シークはその内容を聞き逃さないように、さっとメモを取り出し、要点を書き出していく。



『ギリングの外壁の北側、1キルテ以内の地点で馬車が襲われる事件が発生。襲ったのはミノタウロス1体。住民は屋内に避難し、外壁の外にいるグレー、ホワイト、ブルー等級のバスターはクエストを中断し、町へとお戻り下さい。繰り返します、ギリングの……』



「ミノタウロスって、等級は何?」


「確か…オレンジ等級の掲示板でクエストを見かけたわ」


「オーガっぽくて顔が牛で、角が2本生えたみたいな奴だよな。等級ではイエティ並みか……」


「ゼスタ、モンスターを本当に呼び寄せるなんて……というのは冗談で、襲われた馬車の人は大丈夫なのかな」



 シーク達は格上でしかもまだ見たことが無いミノタウロスが相手では、流石に都合がいいと言う事も出来ず、その場から動くことなく情報に耳を傾けている。


 すると、そんな3人に向かって、バルドルが「さあ」と背中を押す。その、念力か何かできっと押したに違いない。



「行こうか。君達の戦いを見せつけるチャンスだね」


「はっ!? いやいやいや、何言ってんの? 何言ってんの!」


「ブルー等級までのバスターは逃げなさいって放送で言われてたじゃないか!」


「禁止なのかい? 戦っては駄目なのかい? イエティと同じ難易度で逃げ出す理由がどこにあるのさ」


「いや、それはそうだけど……」



 シーク達はイエティと同じ等級なら倒せなくはないのかもと思い、行くかどうかを迷っている。先程言ったような、みんなに分かって貰える絶好のチャンスでもある。


 このままここに居れば、オレンジ等級以上のバスターが駆けつけ、何事も無かったかのように退治してしまうだろう。



『現在、オレンジ等級以上のバスターの方を探しております。いらっしゃいましたら至急、バスター管理所のカウンターまで……繰り返します、現在、オレンジ等級以上の……』



「ねえ、行ってみない? 倒せないかもしれないけど、馬車の人だけでも助けられないかな」


「そうね、何か出来る事があるかもしれないわね。オレンジどころかブルーですらないけど、どの地点なのか聞いてみましょうよ」


「わかった。2人が乗り気なら行ってみようぜ、危なそうだったらすぐに中止、いいな」

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