Vow-11


 部屋に戻ると、シーク、ビアンカ、ゼスタ、それにバルドルの3人と1本はバルドルを拭いたり、満腹感でベッドに横たわったり、地図で今後の進路を考えたり、シークに綺麗に拭き上げられたりと、それぞれの過ごし方で一休みしていた。


 と言っても、その間考えている事は、皆同じだった。


 それは「装備が追いついていない」という事だ。今日ゴウン達に指導を仰ぎながら戦った結果、朝と夕方では全く動き方が変わり、同時に攻撃するような場面が増えた。


 カイトスターとゴウンに習ったゼスタは、盾役として踏ん張る際の立ち方、攻撃の受け方が見違えるほど良くなり、最後に戦ったイエティの攻撃では圧される事なく2人を守り切った。


 ビアンカは槍での突きや薙ぎ払い以外にも鋭い矛先で斬る、投擲を行うといった攻撃が随分と上手くなった。


 力の込め方はレイダーが弓を射る際のイメージと似ていて、矛先を安定させる訓練をした結果、その威力は格段に高くなっている。


 そしてシークは初めて『他人』から本格的に習う剣術によって(バルドルは『人』ではないのだから)剣の刃の使い方、力の込め方の基礎、攻撃の種類を教えられた。



「僕が教える時にやってみせてあげられないのが申し訳ないね」


「あっ、心の中を読んだな?」



 実践というゴウンの手解きを受けた後、リディカによる魔力の物体への効率的な流し方、武器から解放するタイミングをしっかりと教わった。


 その結果殆ど詠唱が無いと言える程に魔力の解放がスムーズになった。剣を構え、どんな攻撃がしたいかを頭に描いた瞬間には、もうバルドルに魔法が宿っているという程だ。


 そんな実力が上がった3人も、あまり実力通りに攻撃を行おうとすると装備が言う事を聞かない。剣の斬れ味、槍の鋭さ、もっと装備が良ければという場面が圧倒的に増えてきたのだ。


 おまけに、防具が貧弱なせいで攻撃を絶対に喰らわないことが前提の戦いになってしまっている。避けるだけでも大したものだが、回避前提の安全圏からの攻撃では思い切った攻撃は限られてしまう。



「……あのさ」


「ん?」


「やっぱり、装備を揃えたいよね」


「そうだな、ブルーランクに劣らないとまでゴウンさんに言って貰ったけど、上に行くには装備を更新しろって」


「正直な事言うと、私、もうオーク退治くらいから武器と防具には不安があったのよね」


「えっ? そんなに前から?」


「そう。私の防具を心配してくれる2人の言葉で確信に変わったってだけ。お金貯めなきゃ」



 装備の更新という次の課題が、まさか旅立って1か月もしないうちに訪れるとは全く思っていなかった3人は、手持ちを持ち寄ってその合計を数える。


 イサラ村からのクエストは無いに等しく、道中と合わせて数日は一切稼ぎが無い。


 消耗品代などで、3人の手持ちは全部を足しても20万ゴールドに満たない。これでは誰か1人の防具ですら、ホワイト等級で買えるものは限られてしまう。



「全員ホワイト等級に上がってるんだし、多少はいいクエストも受けられると思うんだ。ここに居たらゴウンさん達にもお世話になりっぱなしだし、一度意地を張らずにギリングに戻って、管理所に寄ってみようよ」


「そうね、こういった悩みの相談にも乗ってくれるみたいだし」


「なあ、それじゃあゴウンさん達に挨拶しておこうぜ。明日村を出て町に戻るって」



 そう言って3人は立ち上がる。とそこで、その場で立ち上がらなかったバルドルが3人を呼び止めた。



「ちょっと待った」


「どうしたの」


「僕も連れて行っておくれ。そして、あの4人と僕だけにさせて貰えないかい。少し話をしたいことがある」


「……まさか、俺とじゃなくて向こうのパーティーで旅をしたいとか」


「冗談じゃない。僕は『聖剣の手も借りたい』君達を見捨てるような『剣でなし』じゃないよ」


「時々新しい言葉を混ぜるのやめてよ、バルドル。でもそういうことなら良かった。その話は俺達が聞いちゃ駄目なのか?」



 バルドルが何故シーク達に話を聞かせないようにするのかが分からず、シークはバルドルに尋ねる。それを言うのはつまり理由を言ってしまうようなものなので、バルドルは少し考えた。



「じゃあ、あの4人がいいと言えば同席していいよ。きっと気分の良い話ではないけれど、いいかい?」


「え、まさか俺達への指導に抗議するとかじゃないよね。それなら連れて行かないよ」


「それはない。君達の動きはとても良くなった。手取り足取りが出来ない僕では限界があるからね」



 バルドルの言葉に少し安心した3人は、よし、と言って部屋の扉を開け、隣に泊まっている4人の部屋の扉をノックした。



「はい……ああ、君達か」


「こんばんは。あの、改めて今日までのお礼と、そして……俺達、明日この村を出て一度町に戻る事にしました」


「そうか、それがいい。さ、入ってくれ」



 扉を開けて出てきたのはレイダーだった。半袖のシャツからのぞく弓を射る腕はとても太く、お手本と言って矢を放った瞬間にイエティの首が吹き飛ぶ程の威力も納得だ。


 レイダーに案内されて部屋の中に入ると、リディカが一番奥、その手前にゴウン、そしてカイトスターと、それぞれがベッドに腰掛けて雑談をしていた。



「やあ、どうしたんだい」


「フフッ、改めてそうやって防具を脱いで並ぶと、まだまだ若いわね」


「そうだなあ、俺達にもこんな頃があったよな」



 3人の姿を微笑ましく見つめる4人に、シーク達は改めて礼を言い、そして頭を下げた。誠実で真っ直ぐな若者達だという印象は間違っていなかったと、4人は笑顔で目を細める。



「俺達、一度装備の新調を視野に入れて、ギリングに戻ろうと思います。色々順調過ぎて、何でも出来る気になっていたんです」


「装備の事もなんとかなると思ってました。でも、私の槍じゃこの山を越えられないって、気づいたんです」


「強いモンスターを倒して稼いで……って、甘く考えていたなと分かったので、一度管理所に相談してみようかって」



 ゴウン達に教えを乞い、そして自分達の弱点をいくらか補って自信をつけるのではなく、かえって自分達に足りない物を自覚したという流れ。ゴウンはそれに「そういう事か」と呟く。


 強さを得てなお謙虚な姿勢は、4人からの印象を更に良いものにしたようだ。



「俺達も、またこの山で暫く目的のものを探そうと思っていてね。そろそろかなと思っていたんだ。君達のように有望な新人と出会えて、少しでも役に立てて、本当に嬉しかったよ」


「そうね、立派なバスターになってちょうだい。応援しているから」


「有難うございます!」



 シーク達は笑顔でその期待に応えるという意志を表すように力強く返事をした。ただ、その中でバルドルだけは違った。



「ところで、僕から『昨日の話』をさせて貰えたらと思うんだけど、このまま続けていいかな」



 バルドルが言う「昨日の話」というものが何か、シーク達はさっぱりわからず、「練習の事?」などとヒソヒソ話している。一方、リディカを除くゴウン達は何の事か分かったようで、少し悩んだ後、「いいよ」とバルドルに話を促した。



「どうもね。えっと、昨日の話で察したのだけれど、この後、ヒュドラを討伐するつもりだね」


「え、ヒュドラ?」


「それって伝説のモンスターの1体だろ? どういうことだ?」



 シークとゼスタが思わずバルドルに聞き返す。ビアンカはその話をリディカから簡単に聞いているため、あまり驚いていないようだ。バルドルはシークとゼスタの問いには答えずにじっとゴウンの言葉を待った。



「……その通りだ。この辺りの岩には昨年辺りから異変が出ている。何もない場所なのに黒く焦げた岩、何かで溶かされたような地面、それに崩れる場所が増えてきた。そして、先日……シュトレイ山の火口湖の手前で、バスターの遺体を発見した」


「バスターの、遺体?」


「ああ、それも1人や2人じゃない。数えただけで15人、3パーティーだ。肉が食われている遺体が殆どで、残りは真っ黒に焦げていた。何個か判別できたバスター証で、オレンジが1組、パープルが1組、シルバーが1組……と分かった」



 ゴウンの話に、3人は驚いて顔を見合わせる。今日の昼間、この山には火属性のモンスターがいないという話を聞いたばかりだったからだ。それに、火山はすでに活動を終了していて、噴火などの活動はない。黒焦げになるような現象は説明がつかなかった。


 シルバー等級で勝てないモンスターなど、想像すらできない。



「この北のシュトレイ山、恐らくそこが、かつて勇者ディーゴが魔王アークドラゴンの手下とも呼べるヒュドラを倒した……いや、封印した場所だ。そうだろう、バルドル」


「……その通り。それだけの手がかりでヒュドラに辿り着いた理由を伺っても?」


「え? ちょっと、封印って? この山に?」


「どういうこと? 倒したんじゃないの?」



 シーク達は新事実が多過ぎて話についていけないのか、ヒュドラとはどんなモンスターだったか、封印とは一体どういうことか、北の山にその伝説のモンスターが復活したとはどういうことか、そんな疑問がぐるぐると頭の中を回っている。

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