Magic sword-14


「多分、魔術書を持ってたからだと思う。魔力も筋力や技術力と一緒で、こんなに急に上がったりはしないんだ」


「そういう事か。このまま貰っておく事は出来るのかな、流石にまずいか」


「遺品だからね……ちょっと、窓口に行ってくる」



 シークは窓口に行き、女性職員に魔術書を持っている経緯を説明した。洞窟で緊急的に拾い、戦闘で使ったことまでを素直に伝えると、中年の女性職員は他の職員と相談を始める。


 カウンターの奥の小部屋に数人が集まった後、暫くしてからシークが待っている窓口に戻り、そしてニッコリとほほ笑んだ。



「事情は分かりました。明日の朝、またこの窓口に寄って頂けますか? 届けて下さったバスター証で身元を調べましたから、ご家族の方に報告いたします。心配ありません、拾得物の横領にはなりませんから」



 横領にはなりませんと言われて笑顔を見せられても、シークのドキドキは止まっていない。


 拾ったものは届けなければならないというのは勿論当たり前だとして、バルドルを拾って使っているシークにとっては現在進行形の話なのだ。


 ついでにシークは、もし魔術書を貰えるのなら貰いたいとも思っていた。今日オーガに放ったファイアボールは、とても威力があった。火球というよりは砲弾だと思ったシークの言う通り、ビアンカやゼスタから見てもまるで別の魔法のようだった。魔術書があれば旅も楽になる。


 だが故人の持ち物を、図々しくも下さいなどとは言えない。


 窓口から戻ったシークが魔術書を持っていない事に気付き、ビアンカとゼスタはガッカリしている。そのまま持っていていいと言われるだろうと予想していたのだろう。


 魔術書の事は残念だと肩を落としながら暫く色々と話をしたのち、シークはそろそろお開きにしようと地図をしまう。そして明日また集合する事を確認して解散となった。


 宿に着くとシークは装備を脱いで食事や風呂を済ませてくつろいでいた。


 白いシーツが敷かれているのを見ると、ついベッドに倒れ込んでしまう。その様子をバルドルが「毎日の事だけれど、それは今の流行りかい?」と聞いてくる。


 ゆっくりと時間を過ごし、時折地図を見ながらベッドに腰掛け、明日以降の旅程をどうするかと考えていると、壁に立てかけられているバルドルが話しかけてきた。



「シーク」


「ん?」


「僕が思うに、君たちの実力は新人にしてはとても高い」


「そう? 有難う」


「ただ、僕としては不本意なのだけれど、君は剣術というスキルが育っていないせいで、僕を完全には使いきれていない」


「……魔法使いだからって、言ってるはずなんだけど」



 バルドルの言葉に、シークはいつもの通り自分が魔法使いであることを主張する。



「それは分かっているとも。だからこそ、魔法と剣を一緒に使うという方法で補ったんだ。違うかい」


「そうだよ。両方を使う魔法剣士って、そう確かに言った」


「君の魔法はファイアーボール、エアロ、他には?」


「サンダーボール、ストーン、アクア、アイスバーン……あとは軽~い回復魔法かな」


「そうか……全部前衛職がいる間には攻撃出来ない魔法だね」


「うん、一度離れて貰う必要がある」



 バルドルはシークが今できることの確認、戦い方の確認をしていく。シークも今までどう戦っていたのか、1つ1つを振り返っていく。


 1人で戦う時と、パーティーを組んで戦う時は確かに魔法の使い方が全く異なっていた。


 魔術書を持たず、威力があまりないシークの魔法はそんなに出番がないまま、陽動や先制攻撃でしか使用していない。その魔法も、モンスターの傍にビアンカやゼスタがいない時しか放つことが出来なかった。



「そこで、君は考えるべきなんだ。魔術書は魔法を強化する。杖は魔力を込めて放つ、それは知っているね?」


「うん、邪魔になるからって杖やロッドを持つバスターは少ないけれど、同時に持つ人もいるらしい」


「それなら魔力を、僕に溜めたらいいのさ」


「え、でも魔力を込められないからオススメしないって、管理所で言われたよね」



 シークは管理所で言われたことを思い出す。バスター登録でバルドルを窓口に置いた時に、驚かれると共に言われたのだ。



『失礼ですが、魔法使いで剣を使うというのは……魔力増幅が出来ない武器はあまりお勧めしません』



 つまり、ロングソードは杖のような魔力増幅に対して不向きという意味に思える。



「シーク、君は僕を何だと思っているんだい? その辺のアイアンソードとは一緒にしないで貰いたいね」


「どういうこと?」


「杖だから、ロッドだからという形状ではないんだよ。グレー等級に許されているアイアンという材質が駄目なのさ。杖は神木と言われる素材、ロッドは宝石の部分が魔力を増幅するに過ぎないんだ」


「……つまり? バルドルって、木製じゃないよね。まさかその刀身って宝石?」



 バルドルは見当違いな事を言うシークに対し、あからさまにため息をつく。そしてベッドに腰掛けたシークに「僕を手に取って確認してご覧」と言った。シークがバルドルを手に取り、まじまじと見る。


 柄の部分には確かに小さな丸い宝石のような縁取りがあり、それが光の当たり方によっては赤くも見える。ただ、それはバルドルを手にした日に綺麗に洗った後、じっくり見て既に分かっている事だった。



「宝石……と、あとは?」


「それは宝石ではないよ。僕はアダマンタイト、ミスリル、そしてブラックドラゴンと、ブルードラゴンの鱗が使われている。普通だと剣に使われるのはミスリル程度で、アダマンタイトの事をきちんと知っている人なんてそんなにいない」


「そうだね、俺も分からない」


「世界最硬、熱や衝撃全てに強く、加工がとても難しい。そのアダマンタイトは魔力をとても蓄積しやすいんだ。おまけに僅かだけれどドラゴンの鱗も使われていて、僕が作られた頃の世界においては、ドラゴンの鱗は魔具に必須とすら言われていたくらいさ」


「つまり、俺の魔力を込めることができる、ってこと?」


「その通り。魔力を僕に溜めれば、僕の刀身で斬るのと同時に魔法も一緒に掛けることができるって訳さ。魔法の刃、ってところかな」


「え、何それ! めちゃくちゃ格好いい!」



 シークはその場に飛び起きて、バルドルの鞘を握りしめる。魔力を剣に込めるという発想は全くなかったのだろう、可能性に気付いたシークは大興奮のようだ。



「魔法と剣を使い分けるだけじゃ、芸がないだろう」


「俺、本当に君と出会えてよかったよ、バルドル!」


「まったく、僕は出会えた瞬間にそう思ってもおかしくない程の逸品なのだけれど?」


「分かってる。改めて言ったんだよ」


「まあ悪い気はしない。僕を見つけた時に置いていこうとした事は……水に流そう」



 シークはバルドルの黒い鞘に頬を擦りつけながら喜びを伝える。抱きしめられ、頬擦りされているバルドルは、流石に身構えたがまんざらでもない様子で、シークの気が済むまでそのまま文句も言わずにじっとしていた。



「明日から早速練習してみたいんだけど、いいかな」


「僕も初めての経験だから、お手柔らかにね」


「今ならドラゴンも倒せるような気がするよ」


「そう? 多分ドラゴンの方も、君を倒せそうな気がしていると思うけれど」


「喜びとやる気を例えにしただけだよ」


「ふーん、身の程を弁えている持ち主で良かった」



 シークはバルドルを右手に持ったまま、立ち上がって部屋のランプを吹き消した。


 その夜のシークはバルドルを自分の横に寝かせ、緩んだ頬のまま眠りについた。バルドルにも頬があるとしたら、きっとその頬も一晩中緩んでいたに違いない。

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