Magic sword-13


「うおぉぉぉ!」



 ブジュッという鈍い音と共に、オーガの体は真っ二つに断ち切られ、その場に転がった。鼻を突くような刺激臭がするその死骸に目を顰めながらも、シークは一言「終わった……」と呟いた。



「これで、終わり……だよね」


「俺達、オーガを倒せたのか」


「やった、私たちが倒したんだ!」



 ビアンカが両手を上げて喜ぶ横には、オーガから救い出した女性が座り込んでいる。髪は乱れ、白い服は土で汚れてヨレヨレ、泣き過ぎて目が真っ赤になった細身の女性は、顔をいっそうクシャクシャにして、その場にひれ伏すようにして礼を言った。



「有難う、本当に有難う……!」


「大丈夫です、ギリングの町までで良ければお送りしますよ」


「助かります、有難うございました、もう、駄目だと……」



 今になって再び恐怖が蘇ってきた女性は、安堵と共にまた涙があふれてくる。気持ちが落ち着くまでその場で休憩を取ることにし、ゼスタとビアンカは倒したオーガと共に写真を撮り、シークは女性に事情を訊くことにした。



「あの、どこから連れて来られたんですか? 宜しければ教えて下さいませんか」



 呼吸を整えながら、女性はゆっくりと口を開いた。



「この、先の……ターコイ山の、麓の村です。数年に1度、オーガが現れては村人を攫って行くんです」


「それは今倒したオーガですか?」


「恐らくは……」


「これで攫われる事が無くなればいいんですけど。村からギリングに相談すれば、石の外壁を造る職人を派遣してくれるかも」


「そう、ですね。国が直してくれた事もあるんですけど、今はもう国の補助も機能していませんし、村や町の自治に任せっきりで……外壁の事は帰ったら村長に言ってみます」



 会話によって女性が少し落ち着いてきたと判断したシークは、まだ陽が落ちていないうちに戻ろうと、みんなに呼びかけてギリングへと戻る事にした。







 * * * * * * * * *





 ギリングに戻ると管理所で完了させたクエストを報告し、報酬を受け取った。


 オーガの巣について報告した時、管理所の職員達の顔は青ざめ、必ずベテランのバスターと共に現地に赴き、そして必ず供養すると約束をしてくれた。バスター証から身元が分かった者については、家族に連絡を取ってくれるという。


 女性は、管理所の調査の結果発見されたということで保護され、明日には村に送り届けてもらえる事になった。


 シーク、ビアンカ、ゼスタ、そしてバルドルは改めて女性にお礼と、何かあればいつでも村に来て休んで下さいという言葉をもらい、管理所を後にした。



「無事に助け出せてよかったね」


「そうだな、町にいると分からないけど、シークが時々村でモンスター退治をしているって話、結構大変な事だったんだと分かったよ」


「僕とシークは以前にオーガを倒しているからね。今後も広い場所で戦う事をお勧めするよ」


「オーガより強いモンスターもいるんだよな。あんな風に困ってる人もきっといっぱいいるんだ」


「私達、こんな風に町にいつまでもいて、夜は家に帰るなんて事を続けていていいのかな」



 モンスターの脅威を目の当たりにした3人は、町を拠点としたバスター稼業のままでいいのかと迷う。自分達よりも強いバスターが大勢いる中、困った人を助ける役目を担うのは自分達でなくともいい。


 ただ、このまま周辺にいるモンスターを狩るだけでは、バスターとして成長できないばかりか、クエスト数によって昇格できるランクも目指せない。



「ギリングなんてもう守られてるんだし、明日から別の所に移動しない?」


「僕は賛成だね! そろそろこの辺りのモンスターを倒すのも飽きたところさ」


「でも、そう言っても、行き先やこれからの予定とか、きちんと立てないと危険よ?」



 これからの予定を立てる為に、シーク達はバスター管理所でモンスターの情報などを訊き出し、ロビーにある木製の大きなテーブルを囲んで整理する事にした。


 シークが聞き取った情報を地図の上に書き記していくと、比較的強いモンスターが何処にいるのかやクエストの傾向を、おおよそまとめる事が出来た。


 北にある村の付近でオーガ、西や東にはミノタウロスなどの出現情報がある。北東にある標高2000メーテ級の山脈を越えるルート、シュトレイ山近隣の道はあまり使われていないのか、それともモンスターが少ないのか、殆ど印が付かない。



「危ないかな、この北東の方って」


「情報の空白地帯って感じね、モンスターが強いんじゃないかしら」


「でも、村が1つあるよ?」


「何しに行くんだって話だよ。ただ様子を見に行くだけか?」


「強くなって、そしてランクを上げて、武器や防具を買い直すには強いモンスターも倒して、色々と管理所に情報を届けなくちゃいけないと思うんだ」



 この世界の殆どの新人が、まだ登録した管理所がある町から離れていない。それはまだ装備や旅に掛ける資金への不安や、戦闘の経験不足から離れられないという理由が殆どだ。


 その不安が無いのなら、モンスターが弱い地域にいつまでも留まっているのはバスターとして二流だ。シーク達は自分たちがこの町を離れられる状況にあるかを確認する。



「ビアンカ、ゼスタ、幾らずつ持ってる? 今日の稼ぎは結構多いから、1人あたり21000ゴールドある」


「僕の分は気にしないでおくれ」


「心配しなくても俺が必要な時はバルドルの分を払うよ」


「それは良かった。僕はタダ働きにならなくて済むと言う訳だね」



 バルドルが感謝しろとでも言うように偉そうな声を出す。シークが優しく有難うと言って鞘を撫でてやると、バルドルは「悪くないね」と言ってうっとりとした(のだと思われる)表情で会話の続きを促した。



「私は家に置いてる分を合わせると……15万ゴールドくらいかしら。ゼスタは?」


「俺は実質これが初めて見たいなもんだから、今日の分を入れても5万ゴールドいかないかな」


「宿代がかかるから、俺も5万ゴールドくらいか」


「僕のためにシークは高級ナイトカモシカクロスとブラッドフラワーのアシッド液を買ってくれたんだ。貯金が出来なかったのは僕のせいだから、あまり責めないでくれると嬉しい」


「責めたりしないわよ。私は家から通ってるからお金かかってないってのもあるし。これからは宿泊費も気にしないといけないわね」



 3人は懐具合を確認し、まだ装備の更新までは出来ないという結論に至った。


 シークは既にバルドルという武器があり、まだグレー等級のまま武器も防具も今以上のものには更新できないとはいえ、ゼスタの装備もなかなかのものだ。


 それに対し、ビアンカの装備は家に頼らず自分で買った事、それに卒業式の後の装備購入が上手くいかなかった事もあって、性能的には不安があった。


 他の新人バスターに比べて明らかに稼ぎがいい3人の中で、一番お金が貯まっている……と言っても装備更新までは出来ず、これからは更に宿泊費が掛かっていくのだ。



「ビアンカ、心配いらないよ。パーティーを組んでいるんだから、本当に必要な時は融通するよ」


「そうだな、結果的にパーティーの戦力が上がるなら、みんなにとってプラスだ」


「有難う。あ、そう言えば!」



 ビアンカはその場で手をポンとたたいてからシークへと視線を向ける。



「シーク、今日のオーガ戦のファイアボール、凄かったわよね!」


「そうだ、俺、シークがあんなに威力を出せる魔法使いだとは思わなかったぜ」



 シークはそう言えば……と思い出し、そしてハッと気づいて鞄から魔術書を取り出した。

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