TRAVELER-14


「槍を引き抜く! 今度は私が……ちょっとは出来るところを見せなくちゃ!」



 シークの動きの良さはビアンカも感じていた事だった。と言っても同じ新米バスターとして、幾らバルドルという強力な助っ人の力を借りているとしても、剣術をまともに習っていない魔法使いに劣っているとは思われたくないという意地がある。


 ビアンカは日頃のやや迫力に欠ける掛け声ではなく、重く太く圧縮されたような声で勢い良く宙へと飛び上がり、そして3体のキラーウルフへと真上から槍を突き刺した。



「うおー凄い、ビアンカあんな技使えるんだ」


「わぁ、シーク駄目だ! ビアンカに任せたら」


「え? 何、まずいことでも」


「僕の今日の楽しみがなくなってしまう!」



 バルドルは、今日最後の戦闘が他人……この場合、バルドルのいう「他人」とはビアンカが持つ槍のことなのだが、バルドル自身ではない「物」によって終わってしまう事に焦りを訴える。



「ねえ、バルドル。君は本気なのだと思うけれど、本気だった俺は時々君の言葉に力が抜けてしまうんだ」








 * * * * * * * * * * * * * * * * * *






「いやあ助かった! 本当に有難う、命の恩人だ」



 修理屋の3人の作業員を発見してから3時間。


 追加で数体のモンスターを倒して水門の開閉の検査まで付き合い、全ての道具を荷車に載せて一緒に町まで戻って来たシークとビアンカは、バスター管理所の前まで3人を送り、これでクエスト完了とした。



「どういたしまして。それより、先に引き受けたバスターの情報は何かありますか? 名前とか、連絡先とか」



 シークは念のために管理所の中を覗き、逃げた4人のバスターが救援要請などを出しているかを確認したが、どうやらそういったものは何も出ていないらしい。



「その、同じバスターとして、そういう仕事を放り投げる奴らがいるのは許せないし」


「名前、か。今年卒業した新人バスターって事と……そうだ、赤髪のソードの少年は『ミリット』と呼ばれていた」


「ミリット! ミリット・リター! 赤髪のソードならアイツしかいないわ!」



 修理屋が思い出した名前を聞き、反応を示したのはビアンカだ。どうやらビアンカはミリットという名前に心当たりがあるらしい。



「ビアンカ、知ってるの?」


「知ってるわよ、同じクラスだったボンクラソードよ! あいつ親は割と裕福だから装備だけはしっかり揃えたようね。その仲間も大体想像がつくわ。ミリット達は留年で私やシークより4年も多くかかって今年ようやく卒業した未熟者よ」


「そんなに時間を掛けるならバスターになるのを諦めた方がいい気がするけど、今更後には退けないってことか」


「私、あいつに文句言ってくる。シーク、管理所にもこの件を伝えて。ついでにクエストの報酬も貰っといて! また明日! じゃあね!」


「え? ちょっと!」



 ビアンカは怒り心頭な様子でどこかへと駆けていく。残されたシーク達はそれを呆然としたまま見送り、そして苦笑いしながら顔を見合わせた。



「あの子、猪突猛進型なんで……でも、結構強いみたいだし、あの性格だし、むしろ相手が心配なくらいだから大丈夫です。じゃあ、俺は失礼しますね」


「あ、おい! 護衛してくれた分の金を払っていない!」



 修理屋の男は慌ててポケットからお札を数枚取り出すと、シークの手に乗せて握らせた。



「最初に言っていた通りの金だ、受け取ってくれ。この金を浮かせて儲けにする事は出来ねえ」


「いやいや、貰い過ぎです! ほんの何時間か、モンスターを数体倒しただけなのに。こんなに頂けません!」



 返そうとしても受け取らない男に対し、シークは悩んだ結果、「では、倒したモンスターのクエスト報酬の相場分だけいただきます」と言って10000ゴールドだけ受け取り、残りを強引に返した。



「いつかまた外でお仕事があるなら、次は早めに管理所に相談するのをお勧めします」


「この『自称魔法使い』の少年は、近年稀に見るほどのお人好しだからね。他に探そうにもそうはいない。おじさん達は幸運だったよ」


「近年って、300年誰にも会ってないのに何が分かるのさ」


「おや? 『自称魔法使い』ってところは否定しないんだね、いやあソードとしての自覚が生まれて何よりだ」


「『自称聖剣』さん、どうも」



 シークとバルドルのやりとりに3人の修理屋は笑いをこらえる事が出来ず、ひとしきり笑う。改めて礼を言い、そしてこの件の報告は自分達でやると言うと管理所の中へと消えて行った。


 時刻はもう19時、そろそろ職員も帰ってしまうだろうと、シークも急いで報酬を受け取る為に管理所に入って2階の窓口へと駆け上がった。



「さっき貰った報酬と合わせて53000ゴールドだよ、ビアンカと2人で分けて26500ゴールドだ! 急にお金持ちになっちゃったね」


「それは大変だ、早く使ってしまわなくちゃ」


「どうして?」


「君は今、一瞬魔術書を買うまであと幾ら貯めなきゃいけないかを考えた」


「正解」


「とすると、お金が貯まれば僕は用済みになってしまう。それは困るから薬草を買えるだけ買ってみようよ」



 悲しそうな声で捨てられることを心配するバルドルに、シークは悩む素振りを見せた。思わせぶりな言葉の1つでも言ってやろうかと考えたが、それは流石に可哀想だと思い直してバルドルの言葉を否定した。



「魔術書は欲しいよ、正直。あれを持っていれば術の効果は格段に上がる。でもそれは君を手放す理由にはならないよ」


「本当かい? 剣なんて使わなくたって戦えるのが魔法使いじゃないか」


「そうだね、魔法使いは魔法に集中してこそ魔力を最大限に発揮できて、後方に構えて戦局を判断する事を得意とする」


「後方に構えていて、それでも君はロングソードを必要とするのかい?」



 本来は魔法使いに武器など必要ない。魔力を増幅する事が出来る魔術書を持ち、己の魔力で戦う魔法使いは、物理攻撃などする暇があれば術を発動した方が威力も出る。


 武器を手に取る時はすなわち魔法使いにとっては敗北寸前、パーティーが崩壊し最悪の結末になる前の悪あがきでしかない。


 それに魔法使いがいくら打たれ弱いといっても、強くなればある程度のモンスターなど一撃で倒せるため、1人で複数を相手しての戦いを行うことも可能だ。パーティーを組むならより一層魔法使いが前に出る出番などない。


 バルドルはそれをよく知っている。なにせ勇者と呼ばれるソードと共に旅をしたのだから、手練れのバスターがどのように戦ってきたのかはシーク以上にたくさん見てきた。


 そんなバルドルだからこそ言えるのだ。魔法使いはロングソードなど使わない。必要はない。



「ん~、確かに、俺は魔法以外を使う事なんて考えてもいなかったし、学校でも武器を扱うなんて誰も思ってすらいなかったよ。魔法使いに必要かと言われると、必要じゃないかもね」


「うん、本当は認めたくはないのだけれど、僕もそれは分かっているんだ」


「でもね、君を拾ってから魔法使いなのに剣を使って、剣を使いながら魔法を使って、そのスタイルは俺にとても合っているんじゃないかって」



 シークは魔法使いはこうあるべきだ、という固定概念を崩しつつあった。


 魔法だけしか使ってはいけないという決まりが無いのなら、魔力の流れを剣を使いながらでも安定させられるのなら、それは最強で斬新なスタイルなのではないかという気がしていた。


 魔法を使える時は魔法で、そうでなければ剣で、そのような戦い方をしたからといって、誰に文句を言われる事もないのだ。

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