TRAVELER-11


「依頼を横取りされた護衛の仕事って、取水所だったよね?」


「あ、そうだね、給水の機械が壊れてるから部品を交換するって言ってた」


「橋を渡るときにチラッと見えるかな、私が知ってる奴だったら今度文句言ってやろうかと思って」


「いいよ後々面倒になるのは嫌だから」



 取水堰近くの橋を渡る時に今朝のシークと修理工の話を思い出したビアンカは、今更ながら仕事を横取りされた事を悔やむような発言をする。ビアンカの発言から察するに、どうやらシークとは違う学校を卒業したビアンカは、同級生の中ではそこそこに名が売れているようだ。


 町に住んでいて名が通っていて、装備を見る限りは旅立ちの資金にも事欠かない。そんなビアンカが何故バスターとなった後、パーティーを組むことなく1人でクエストを受注していたのか、シークはふと気になった。



「ビアンカはさ、何でパーティーを組まずに仕事を始めたんだ?」


「あ~、えっと、その、信じないかもしれないけど、私をめぐって争いが起こってしまって」


「ふーん、そっか」


「シーク、早くこの子から離れて無駄な争いに巻き込まれない事をお勧めするよ」


「ちょっと! 言ってみただけよ! 発言を流されるのが一番傷つく」



 冗談が通じないんだから、とビアンカは呆れてため息をつく。もちろん、ビアンカは美しさについて問われるとすれば確かに綺麗な顔をしていて、性格も極悪ではない。そんな彼女が冗談でごまかす程の理由とは何か、シークは少し考えたが思いつかなかった。


 一方のバルドルはビアンカが嘘ではぐらかした事に重点を置き、見当違いの結論を導き出したようだ。



「よし、分かった! ビアンカは嘘で身を滅ぼすタイプと見た」


「えっ!?」


「何か嘘をついたために、みんなの信用を失って仲間が居なくなったのだと僕は推理する」


「ちょ、ちょっと何でそんな暴論に辿り着いちゃうのよ! 私、そんな大嘘つき認定されるような事何かした? バルドルも冗談くらい言うでしょ」


「僕は『本当つき』だからね。間違える事はあるけれど」


「えっと、喧嘩の理由がくだらな過ぎるし、『本当つき』なんて言葉はないよ、バルドル。ビアンカ、問題なければ理由を聞いていいかな」



 シークが歩きながら特に興味があって仕方ないという素振りをせずに訊ねると、ビアンカは隠すのも面倒になったのか、素直に理由を話しだした。



「私ね、この歳で卒業出来る位だから腕は多分いいのよ、多分。でも、だからこそ仲間が出来難いというか……」


「え? 強い人は仲間も選びたい放題じゃない?」


「1人で旅を始めたシークが言えることじゃないね」


「うるさいよバルドル。で、どういうこと?」



 ビアンカは『そこなのよ!』と、一体何処なのか話の要点が見えない相槌を打って、話を続ける。



「私より弱い人、とりわけ女だと男が寄ってくるのよ。私を守るとかじゃなくて、私が居れば安泰、みたいな。女の子は私がチヤホヤされてると勘違いして仲間に入れてくれないし」


「あー……そういうこと」


「それで、パーティーを組む相手を選べないうちに卒業が差し迫って、1人で旅をすることになったわけ。こんなカッコ悪い理由、積極的に話したくは無いじゃない」


「夢膨らむ冒険への旅立ちが、そんなに現実的で希望のないものとは。何と戦ってるのかわからなくなるよ」


「うちは家の商売でも名が知れてるし、色々と面倒な事もあったの。ギリングの外から来ていたシークがそこを見ずに一緒にいてくれるのは有難いわ」



 ビアンカは黙っていれば可愛く、どこか気品すら感じさせる。体格に恵まれた者以外では、女で武器を手に取り果敢に攻めていくスタイルのバスターはあまり多くない。力では男に勝てないと早々に諦めてバスターを辞める者もいる。


 バスターとして長続きせず、力任せの攻撃には限りがある。それらの理由もあって、ビアンカのようなスタイルの需要は決して高いとは言い難い。そのビアンカを頼って群がってくる連中と一緒に組みたくないという意見はもっともだ。



「シークはお金との戦いだったね」


「良かったねバルドル、俺がお金持ちだったら、君と旅をする事はなかった」


「それは困る! やっぱり世の中お金じゃないよね」


「調子のいいやつ」



 キラーウルフが出るという場所まで歩きながら、シーク、ビアンカ、そしてバルドルは、まるで昼下がりのカフェにでもいるかのように和やかな会話を続ける。


 キラーウルフという名前は恐ろしく思えるものの、実際には獰猛な狼という程度で、シークやビアンカのように筋がいいバスターが負けるような相手ではない。


 緊張でガチガチになるような素振りもないのは、決して意気込みが足りないのではなく、余裕がある証拠だろう。



「あ、これ……キラーウルフが近くに居る気がする、ガサガサ音がするよね」


「えっ? ごめん私全然聞こえないけど」


「1、2、3……6体いるね、草が生い茂っていない場所まで出た方がいい」


「もうおとり作戦はしないわよ」



 バルドルが耳を澄まし…たかどうかは定かではないが、シークがおかしいと気付いたと同時にキラーウルフの気配と息遣いを察知し、安全に戦える場所を探す。周りで鳴いていた虫の声が聞こえなくなり、何かが近くにいるのは間違いない。



「この先にちょっと開けたところがある、そこまで走ろう!」


「分かった! 私そこまで行ったら振り向いて薙ぎ払うから、魔法で倒して!」


「了解、狙いやすくて助かる!」


「僕の出番は!」


「ご心配なく」



 ビアンカが追ってくるキラーウルフを振り返って止まり、急に止まれないキラーウルフがその場で足をバタつかせているうちにまとめて薙ぎ払う。シークを狙おうとしていた残りの3体は、不意打ちが失敗した事を認識できるのか、その場で唸るだけで威嚇以上の事をしてこない。


 その隙にビアンカはもう1度殴るようにスイングした。



「うおりゃぁー!」


「ウガゥゥ!」


「キャンキャン!」



 ビアンカの低い位置でのフルスイングで足元を掬われたキラーウルフが、3体まとまって転ぶ。そこへシークが魔法を放って一網打尽にする。



「ファイアボール! ……エアロ!!」


「シーク、ビアンカがもう一度槍で攻撃した後で胴体を上から振りかぶる斬撃で狙う!」


「分かった! ビアンカ! もう一度そいつらに技をお見舞いしてやれ!」


「おっけー! くらえ~!」



 今度はビアンカがキラーウルフを掬い上げるように浮かせ、キラーウルフが立ち上がる隙を奪う。そして、地面に再び転がったところをシークが狙って叩き斬る。キラーウルフが牙を見せた瞬間、その口はシークの一振りによって叩き潰された。



「よし……一刀両断!」


「剣術でいうブルクラッシュっていう技だよ、切れようが切れまいが、とにかく思いきり振り下ろす。斬撃でも打撃でも相手を叩く。覚えておくといい」


「ブルクラッシュ!」


「シーク後ろ! ……チャージ!」


「あっぶな、有難うビアンカ!」

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