TRAVELER-09


「分かった、どのみちアテはねえんだ」


「金は20000ゴールドが限界だ、それでもいいかい」


「それだけ頂けるなら喜んでお受けしたいです!」



 シークは修理屋3人衆としばらく話をした後、明日の朝8時前には管理所前で待ち合わせることに決め、部屋へと戻った。






 * * * * * * * * *






 次の日になると、シークは前日の約束の通り、朝8時前には管理所に向かった。


 昨日の修理屋もすでに到着していた。まだ管理所の門は開いておらず、ルーキーやベテランを問わずかなりの人数のバスターも待っている。あいにくビアンカの姿は見当たらない。



「おはようございます、昨日の件、まだ俺の仲間が着いていないんですけど、先に打ち合わせを……」



 そうシークが話を持ち出した時、修理屋の男の1人が済まなそうな顔をしてシークへと頭を下げた。



「悪い! あんたには悪いと思ったんだが、待っている間に別のパーティーに声掛けられて、1日20000ゴールドでいいって言われて……そっちに頼むことにしちまったんだ」


「色々相談にも乗ってくれたのに、申し訳ない、でもこっちも命がかかってるんだ、人数が多い方に依頼した方が確実だと思って」



 見ると、隣には同じ駆け出しのパーティーがいる。ソードが2名、魔法使いが2名のようだ。


 依頼の横取りに対しシークが悔しさをにじませていると、その4人は朝のクエスト争奪戦をしなくて済む幸運と、依頼主を奪われたシークへの挑発でニヤニヤとこちらを見ている。



「……仕方がありません、まだ仲間にも相談していないこちらが確実に受けられるわけでもないですし。お仕事頑張ってください」


「済まねえな、本当に申し訳ない!」


「おじさん達、行こうぜ! 律儀に挨拶する暇ないぜ? 早めに行って仕事に取り掛かった方がいいって」



 そこそこの装備を買い揃えて貰っている4人を見れば、幾らシークが逸品を身に纏っていても4人集まったインパクトに心揺らぐのは無理もない。1人で現れたシークのことを完全に見下しているパーティーに腹は立つが、シークは仕方ないと諦め、ビアンカの到着を待った。



「お待たせ! おはよう!」


「あ、おはよう。もうすぐ開場だよ、どんなクエストにしようか」


「そうねえ、昨日の感じだと何個か掛け持ちしても良さそうじゃない? ところで、さっきは誰と話してたの?」



 ビアンカに先程のやり取りを見られていたシークは、簡単に話をまとめ、ビアンカに告げた。ビアンカは横取りしたパーティーと、何の相談もなくそのパーティーに鞍替えした修理屋に憤慨していたが、仕方ないとため息をついてそれ以上怒るのをやめた。



「実入りの良いものは奪い合いだもんね、しばらく私たちは地道にオークやラビ退治かしら。採取系でも……」


「採取は……」


 ビアンカが言葉を続けていると、町に8時の鐘が響き渡る。それと同時に管理所の門が開くと、バスター達は一気にクエスト掲示板を目指す。



「まずは受注して大丈夫なクエストを2件それぞれ確保しよう!」


「分かったわ! キャッ! ちょっと足踏まれた!」


「踏み返してあげたら? とにかく急ごう!」



 シークは急いで管理所の2階を目指し、そして人が殺到している中を縫うように分け入って掲示板の前に立った。



「うわー、とりあえず初心者向きの奴から……」


「シーク、左斜め上に取水場付近のオーク2体、10000ゴールド。右の赤い紙のものは……あ、取られた。その上に農地拡大のためゴブリン掃討、20体で15000ゴールド」


「凄いなバルドル」


「斬りたい順に言ってみたよ、さあ、取った取った!」



 バルドルが掲示板から瞬時にシークが達成できそうなクエストを見つけ、そしてそのクエストを掲示板から剥すように促す。シークはその紙を見つけると、他の人に取られる前に2つのクエストを確保する事が出来た。


「ビアンカがどんなクエストを選ぶかにもよるけど、ビアンカいるかな」


「あの子、少し鈍臭いけど一緒に旅して大丈夫かい? シーク」


「僕が完璧な訳でもないからね、初心者同士仲良くするよ」


「それは女の子だからという下心?」


「なっ……下心で命まで預けないよ」



 シークがバルドルと言い争っていると、そこへビアンカが紙を2枚握りしめてやってきた。どうやらそれらしいクエストを確保できたらしい。クエストの確保で既に消耗してしまったようなビアンカに、シークは苦笑いする。



「とりあえず、確保したクエストを見てみようよ。俺はオーク2体とゴブリン20体。合わせて25000ゴールド。どうかな」


「私はキラーウルフ5体、オーク1体、合わせて18000ゴールド。妥当と思うんだけど、ちょっと多すぎる?」


「今日中に退治しないといけないのはキラーウルフとゴブリンだけだね、それだけでも十分稼ぎになるから、行ってみようか」


「じゃあ、受注してこよう!」



 シークとビアンカは窓口に並び、2人で4つのクエストを受注した。ギルド管理所から出て、2人はすぐに町の北門を目指した。30分程歩いて門まで辿り着いた後、今度は北西方向へと進み始める。


 キラーウルフとゴブリンは牧草が生い茂る草原によく現れるらしい。どちらも群れで動くため、1体ずつであればそんなに身構える必要はないが、集団で襲ってこられると難易度はオークよりも高くなる。


 その難易度の高い戦闘が訪れないうちにと、シークはビアンカを呼び止めた。



「ビアンカ、ちょっと話があるんだ」


「ん? なあに?」


「実は、俺はソードではないんだ」


「え? 昨日ソードで戦ってたよね? 今日も武器は剣だけでしょ?」


「ん~、実をいうと、俺は魔法使いなんだ。この剣も実は秘密があって……」



 シークはバルドルをビアンカの前に差し出すと、バルドルに「自己紹介をどうぞ」と伝えた。



「いきなり自己紹介と言われてもね。まあいいや、初めまして。僕はバルドル、訳あってシークと旅をしているんだ」


「え、剣が……喋ってる?」


「お決まりな反応をどうも」



 ビアンカは驚いて固まり、バルドルとシークを交互に目だけで確認する。シークは当然の反応だと笑って、説明を始めた。


 出逢った経緯や、バルドルに戦い方を教わりながらモンスターと戦った事……魔術書を買えなかったために弱い魔法しか使えず、ソードとして戦わざるを得ない事……。


 それらの内容はともかく、だんだんバルドルが喋るという事に慣れてきたビアンカは、そういう事だったのかと納得した。



「つまり、剣は使うけど、魔法も使う、ってことでいいのよね」


「そういうこと」


「勇者ディーゴの使っていた剣……私もそういう槍をどこかで見つけられないかなー。それよりも、まずはクエストだね」



 取水場にほど近い草原に着いた2人は武器を構える。町の外壁から歩いて1時間程の場所でモンスターを探していた2人は、背丈が1メーテ(=約1メートル)程の緑色のモンスター、ゴブリンが広範囲に何体もいるのを確認した。



「キラーウルフより、まず先にゴブリンからだね。いける?」


「うん、私がまず出て行って槍で薙ぎ払いながら戦うね」


「じゃあ、シークは後方から不意打ちで魔法を連発して、ビアンカから注意を逸らした後、僕で攻撃。ゴブリンにはどんな攻撃魔法も有効」


「分かった!」



 シークの返事を聞くと、ビアンカは颯爽と駆けていき、やや気合の足りない声で「やぁ~!」と言いながらゴブリンを1体なぎ倒した。続けて声の割になかなかの槍裁きでもう1体を突き、ゴブリンの群れと対峙する。



「いくよ、バルドル」


「いつでもどうぞー」

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