TRAVELER-05


 今までの通学のように森を抜け、丘を登り、川を渡り1時間半歩いて町の門まで来ると、更に30分歩いて母校の近くにあるバスター管理所に辿り着く。


 バスターとしての登録を行い、クエストを受ける資格を得るのだ。


 ここでいうクエストとは、バスターに対しての個人や団体、大きいものでは国からの依頼の事である。つまりはお仕事だ。


 町の外に逃げてしまった猫を探してほしい、職業校を受験するための家庭教師になって欲しいなどの非戦闘型のものから、護衛をして欲しい、牧場に現れるオーク種 (※豚の亜人モンスター)を倒してほしい、ドラゴン種の牙を入手して欲しいなどの戦闘型クエストまで幅広い。


 上位校と呼ばれる職業校、学問校、そのどちらでもバスターになることは出来るが、様々な知識を学ぶ、研究するのがメインの学問校出身の場合、色々な地域に自由に立ち入りするための許可を得るためだけにバスターの登録をする者が殆どだ。


 クエストはそういった、戦う術すべは持たないが、旅がしたいという者達や商人からの護衛という依頼が最も多い。



「こんにちは、あの……バスターの登録をしたいんですけど」



 シークは管理所に入ると、案内係と思われる女性に声をかけた。全体的に白みがかった、天井が高くて広い石造りの管理所の中で、その佇まいに感動している場合ではない。


 全く勝手がわからないのだ。


 どこに行けばなにがあるのか、人が多すぎて案内の看板も見る事が出来ない。


 女性はシークを見ると今年の職業校卒業生だと察し、にこやかに受付へと案内してくれた。その先の登録受付カウンターの前には長蛇の列が出来ていて、並んでいるのは殆どがシークのような新卒の志願者だ。もっと早い時間から来ておくべきだったと、シークはため息をつく。


 1時間ほどしてようやく自分の番が回ってくると、シークは受理担当の女性職員の確認事項に口頭で答えた。



「まず、お名前と卒業学校、職業を教えて下さい。身分証の提示もお願いしますね」


「はい! シーク・イグニスタ、学校はギリング第2職業校、魔法使い志望です!」


「魔法使い……と。次に、魔術書か、無ければ取り急ぎの使用武器を見せて下さい」


「魔術書はまだ買えていないので、代わりにこれをメインの武器にします」



 そういってシークはバルドルを白くてひんやりと冷たい石のカウンターの上に置く。担当の女性職員は、「ロングソードですねー」と言いながら用紙にシークの登録武器として記入していく。が、そこでおかしいと気づいたのか、「ロングソード?」とボソリと呟く。



「え、ロングソード!? あなた今、魔法使いと言いましたよね? ロングソードを使うのですか?」



 女性職員の驚きとともに「まるで意味が分からない、何を言っているんだこいつは」と思っているのが丸わかりの表情に、シークは内心「そう思いますよね」と同意しながら質問に答えた。



「はい、ロングソードの扱いは得意なので」


「失礼ですが、魔法使いで剣を使うというのは……魔力増幅が出来ない武器はあまりお勧めしません」


「駄目という訳ではないですよね?」


「それは、そうですけど……装備購入の資金に関する相談も受け付けていますよ?」


「いえ、ロングソードでお願いします」


「ん~、登録は受け付けますけど……本気、ですよね?」


「もちろん」



 女性職員は納得がいかない様子で、それでも決まりはないからとシークの登録情報にロングソード使用と書き記している。恐らくだが彼女が知る限り、護身用の短剣以外の物理攻撃用武器はそれほど例が無いことなのだろう。



「それでは、登録は終わりです。シーク・イグニスタさんのバスタークラスは一番下の『グレー等級』です。実績の自薦、他薦によって昇級することができ、使用できる装備も多くなります。ホワイト、ブルー、オレンジ、パープル、シルバー、ゴールド、その中でまずは一番需要の高いブルー、またはオレンジを目指す所から始めて下さい」


「分かりました。他薦というのは、誰が推薦してもいいのでしょうか」


「ええ、村人であろうがバスター仲間であろうが、王様であろうが、誰でも可能です。ただし、推薦する人が数人程度の場合は功績に信憑性が無いとして判断が保留される事もあります。最初は幅広く活動することをお勧めします」


「はい、色々説明有難うございます」


「パーティー加入および、パーティー募集は右手にあるカウンターへとお申し付けください。それでは、ご武運をお祈りしております!」



 シークは「ご丁寧にどうも」と頭を下げてその場を離れた。右手に進んだ先のパーティー受付のカウンターも、また長蛇の列だ。


 他にどんな窓口があるのかゆっくりと見学することが出来ないくらいに人が溢れていて、今日このままパーティーに加入するのは無理だろうと、シークは近くのテーブルで加入申請用紙に必要事項を書いて、説明を受けることを諦めて受付のBOXに入れた。


 どのようなパーティーに空きがあるか、どのような加入希望者がいるかを知ろうとすれば、今日一日はそれだけで終わってしまう。今日の泊まる宿さえ確保できないシークにとっては、それよりもクエスト受注の方が先決なのだ。



「さあ行こう、バルドル。クエストの掲示板は2階らしい」


「退治クエストがいいね! これで思う存分モンスターを斬る事が出来る! いやあ、こんな日が訪れるのをどれだけ夢見ていたことか!」



 嬉しそうなバルドルの言葉に、シークはふと思った事をバルドルに質問する。



「もしかしてバルドル」


「なんだい? シーク」


「俺が置いて行ったら次に見つけて貰える日がいつになるか分からないから、仕方なく俺を認めた、とかじゃないよね」


「伝説の聖剣が認めた事を素直に喜んだ方がいいよ、シーク」


「やっぱりね。まあいいけど」



 とぼけるようなバルドルに、シークは果たしてこの剣が目の前に最強の剣豪が現れた時にも、自分の剣でいてくれるのかと心配になる。そしてもし簡単に持ち主を乗りかえるようなら、バルドルを土にでも埋めようかと思っているようだ。



「おっとシーク、階段で鞘の先を擦らないでね、この鞘気に入ってるから」


「分かったよ。掲示板は……あった」


「モンスター退治! ああ、そっちじゃない、探し物クエストじゃないってば」


「うるさいよ、周りの人に聞こえて騒動になるのはごめんだ。戦いどころじゃなくなるかもね」


「……」


「早速静かになってくれて、どうも。そんなにモンスターを斬りたいのかい」


「……」


「分かったよ、それじゃあ……こんなのはどうかな」



 モンスターと戦えなくなるの余程嫌なのか、バルドルは急に静かになる。それに安心したシークは、しばらく掲示板をながめたのち、数多く貼りだされた依頼のうちの1つを手に取って確認を始めた。



「オーク退治……。オークって、オーガの豚バージョンだよね」


「……」


「ねえ、喋って。これ、俺でもいけるかな」


「……」


「たかが聖剣だもんな、出来るか出来ないかの判断なんて無理、か」


「しっつれいな! オークくらい僕が倒させてあげるよ!」


「お、頼もしい」


「ほら早く受けてきておくれ!」


「はいはい」


「受注は横のカウンターに紙を渡すだけ!」


「説明どうも、バルドル」



 シークは受注を宣言するために窓口に行き、掲示板から剥した紙に「受注」と書かれた印を押してもらった。バスターとして最初の仕事は、豚型の亜人モンスター「オーク」退治に決まった。

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