encounter-03


 何を言おうとも『剣』の発言はややズレている。シークはため息をついて、諦めたように1つ1つ訊いていく事にした。


 あまり関わりたくないと思っている事がバレてしまっているのならそのままでもいいか、と考えていると、ひたすらその『剣』がそれを嘆く発言を続けるのだから。



「それで、どうしてあんな所にあったんだよ、お喋りだから捨てられたとか?」


「剣が喋らないでどうするのさ。僕はずーっと昔にモンスター退治の勇者に置いて行かれたんだよ。勇者ディーゴって、知ってる?」


「勇者ディーゴだって!?」



 シークは驚きのあまり背中にあるロングソードへと振り返る。もちろん、殆どその姿は見えていない。


 勇者ディーゴと言えば、超が付く有名人だ。300年前にこの大陸でモンスターを指揮する俗称「魔王」と呼ばれる竜を退治したと言われる英雄だ。彼が魔王を倒したからこそ、今こうしてシークが森の中を1人で歩けるような世の中になっている。そう言われている。


 魔王は各地でモンスターの大暴れを発生させ、甚大な被害が出た。倒せなかったらシークの住む村はモンスター退治の手も足りない程だったか、壊滅していたかもしれない。


 彼が使っていたと言われるロングソードは現在も見つかっておらず、彼の生家や立ち寄った町が300年の間に何度も血眼になった歴史家や一獲千金を狙うバスター達によって捜索されている。


 以前からも人気だったソード使いだが、勇者になりたいならソードを使うものだという固定概念が形成されたのもこのディーゴの活躍が大きい。そのディーゴの剣が目の前にあるとは、魔法使い志望のシークもビックリだ。



「それ、本当? いや、みんなが探し回った剣が目の前にあるって、信じられない」


「君が信じるかどうかと、事実がどうであるかは何も関係が無いんだよ」


「あ、いや、うん……そうだけど、何故置いて行かれたんだ」



 そんなに貴重な剣が、誰の手にも渡らず、博物館にも飾られていないことにシークは疑問を持った。魔王を倒した剣を、勇者がこんな所に放置するだろうか。勇者ディーゴは何故このような街道の脇に置いて行ったのか。


 自分で動けるようでもない剣が、何故あんな暗くて落ち葉が地面を覆った森の中にあったのか。シークが疑問に思うのは当然だろう。



「ん~、僕を巡って争いが起きてね。よくある事だよ、でもその結果博物館に収蔵されるって事になったんだ。使われてこその剣なのに、飾られて一生そこから動けないなんて拷問、どう思う?」


「いや……うん、まあ、可哀想かな」


「でしょ? だから歳を取ったディーゴは僕を持って逃げてくれた。そして追手が見えない隙にここに隠したのさ」


「でもここに置いていかれたらそれこそどうにもならないよね」


「こんなに長い時間見つけて貰えないとは思っていなかったけど、もう100年くらい経っているのかな?」


「もう300年経っているはずだよ」



 剣は300年と聞いて驚く。といっても特に見た目に何か変化がある訳ではない。



「300年!? でもまあ、ちゃんと使って旅をしてくれる人に出逢える可能性があるだけマシさ。君はそうじゃないみたいだけどね」


「だって、仕方がないじゃないか、俺は魔法使いになるんだし、武器を持つことはまだ許されてないんだから」


「分かったよ、とりあえず強いバスターがいたら僕を預けておくれよ」



 見捨てていくタイミングを逃し、シークが分かったと言いながら道を歩き出す。土がむき出しになった道を、更に30分。シークはロングソードを持っている事がバレないようにと用心しながら村まで慎重に歩いていた。







* * * * * * * * *






「ねえ、誰も後ろから来てない?」


「来てないよ」



 曇り空の下、この会話が道中何度繰り返されたことか。


 高さが3メーテ(1メーテ=1メートル)ほどの白い石垣で覆われた村、アスタ村へ入るための木製の大きな門をくぐり、シークはようやく村に着いた。


 村の家々は都会と違って殆どが木造で、そしてやや高床式の平屋になっている。数分歩いて村の何もない土のメインストリートを右手に曲がり、更に数分歩いて見えてきた平屋がシークの実家だ。


 シークは階段を登り、木製のデッキの上で一度ロングソードが鞄に入らないかと試してみる。が、もちろん入るはずもなく、おそるおそる家の中へと入った。


 魔法に関しては優秀だが、自信家でも冒険心が旺盛な訳でもない。普通なのだ。してはいけない事をしていて、堂々と振る舞える程の度胸は無い。


 家に入ると土間の台所には茶色の髪をポニーテールにして、灰色のエプロンをした母親が、木製の床が綺麗に掃除されたリビングには茶色い癖毛の髪に、くりくりと丸い目をした弟がいる。


 シークはとても不自然な姿勢で剣を隠しながら小さくただいまと言って自分の部屋へと戻った。



「はあ、どうしよう、ねえ、君はこの後どうしたいんだ」


「そうだねえ、僕としては出来ればすぐにでも旅をしたいところだね。もう置いてあるだけって日々は懲り懲りだよ」


「そんな事言われても、俺は無理だからな。とりあえずは明日俺が帰ってくるまでは静かにしていてくれよ」


「はいはい。ところで君は本当に僕の事がどうでもいいみたいだね」


「え?」



 剣はガッカリしたようにシークへと愚痴をこぼす。シークは何故そう言われるのかが分からずに、眉間にしわを寄せる。何故置いてあったのか、いつからあったのか、そして、これからどうしたいのかも確認した。それ以上何を聞けばいいのだろうかと考えている。


 そんなシークを見て、剣は再度、今度はしっかりと「ハァ~」とガッカリを表してから理由を語った。



「僕は君の名前を聞いた。君は答えてくれた。その後、僕に名前を聞いてくれてもいいと思うのだけれど?」


「あ、そうだね、名前……何て名前なんだい?」


「もう、まったく。ちょっと興味を持ってさあ、社交辞令ってものがあるじゃないか」


「ごめん、剣に名前があるなんて思ってなくて」


「シーク、君は剣についての認識が歪んでいるんじゃないかな。僕の名前はバルドル。有難がって聖剣バルドルって呼んでくれてもいいよ」


「聖剣バルドル……そうか、勇者ディーゴの剣は聖剣って呼ばれていたんだった」


「聖剣だけだと名字ですらないからね。剣だと君たちが農家って言ってるのと一緒だ。バルドルと特別に呼び捨てしてくれてもいいけれど、どうだい」


「分かったよ、バルドル」



 ようやく名前を明かすことが出来てしたり顔……といっても顔はどこなのか分からないが、バルドルは少し大人しくなる。


 武器は武器でしかなく、買い変えたら元の剣は捨てるか質屋にでも入れるのだろうと考えていたシークは、こんなに喋る剣を次に手にする人はさぞかし困る事だろうと苦笑いをした。



 田舎の夜は早く、この付近では19時を過ぎればもう外を出歩く者は少ない。村には酒場もあるが、そんなににぎわう程の客もいない。


 酒を飲めるような贅沢が出来る村民は少ないし、バスターや商人が立ち寄ってもこの時間に酒を飲むのなら泊まる事になる。活気などなく、数百人が生活するだけの村ではどこの家庭もそろってご飯時だ。



「兄ちゃん、飯だってさ~」


「分かった、すぐ行く」



 シークはご飯が出来た事を告げる弟に促されて立ち上がる。扉の隙間からは、かすかにシチューの匂いがする。その時、シークはふと気になってバルドルに尋ねた。



「バルドル、君はご飯などを食べるのか?」


「愚問だよ、シーク。あえて僕に必要なものとすれば、必要とされる事、かな」


「うっ……、なんでそう棘のある言い方しかできないのかな」


「面と向かって剣なんて必要ないって宣言されちゃあ、こっちもやるせないよ」


「だからごめんって。行ってくる」


「ごゆっくりー」



 家に置いていても食事が必要ないのは朗報だ。ペットと違い、隠しておきさえすれば面倒は見なくてもいいからだ。ただ、話をしているうちに少し情が湧いてもいるのは事実。あのまま放置もしておけない。


 何かしてあげた方がいいのではと考えたシークは、後で綺麗に洗ってあげようか、拭いたら綺麗になるのかと色々と項目を挙げていた。



「シーク、ご飯中に考え事はよしなさい」


「あ、ごめん」


「兄ちゃん、明日卒業式が終わったらどうすんの? 本当に旅に出ちゃうの?」


「そのまま行ったりはしないけど、バスターの仕事をするなら町のバスター管理所に行かなきゃ仕事を貰えないからね。この村にいてもバスターにはなれない。名声を上げるには旅をして経験も積まないと」


「なんか、兄ちゃんいなくなったら僕つまんないな、仲間も集めてないんだし、旅には出れないでしょ」


「シーク、そんなに急いで旅に出ることはないんじゃない?」

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