【1】encounter~魔法使いと喋る剣の出会い~

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【1】

 encounter~魔法使いと喋る剣との出会い~





「ああ、暇だ。僕がこんなにも待ち焦がれているというのに、いったいいつまで待たせる気なのか。錆びついてしまったらどうしてくれるんだい」



 とある世界……武器や魔法を使える者が多くいる世界の、ジルダ共和国。そのどこかで今日もひっそりと誰にも知られない呟きが虚しく響く。



「誰か都合よく現れてくれないものかな。この先には村もあるし、町もある。あんなに大きな町があるのに、誰一人として僕に気づかないなんてね」



 声の主が言うあんな町とは、国内では中規模の町「ギリング」だ。その雑踏の片隅は今、何やら騒がしい。どうやら男女が揉めているようだ。


 そこへ警官がスッと現れ、そしてスッと男の手に魔力が込められた手錠をはめた。



「はい、逮捕」


「な、なんだいきなり!  俺は何もやっていない!」


「今魔法であの女性の下着の色を確認しようとしましたね。エアロを使った意図的な風によるわいせつ行為で現行犯逮捕です」


「証拠、証拠があるのか!」


「魔法を使った後の魔力の粒子が魔具で確認できました。国法176条違反ですよ、因果関係を否定するのであれば、あとは署で聞きましょう、さあ」


「くそっ! あの女が美人だからいけないんだ!」



 悪者が警官に連行されていく。幸い、スカートの中の色が何色だったかが明かされることはなかったようだ。


 その野次馬の中にいた1人の少年が、先程連行された男がしばらく魔力を封印されると予想し、身震いをした後、歩き出す。


 彼は近々この被害者の女性の正体を知る事になるのだが、それはその時が来るまで伏せておくとしよう。



「おいシーク、今何かあったのか?」


「ん? ああ、ゼスタか。痴漢みたいだよ、エアロでスカートめくったんだってさ」


「今時パンツ見たくらいで興奮すんなっての」



 シークと呼ばれたその少年は17歳。


 キリッとした眉毛に少し優しそうな垂れ目、小さめのスッキリとした輪郭で顔立ちが良い。やや細身な体型、耳が隠れない程度の長さの僅かにウェーブがかかった黒髪も、サラサラと清潔感がある。


 シークは村出身という事もあり、権力者の子息のように目立ってちやほやされる事は無かったものの、整った顔立ちのおかげか評判は良かった。


 ただ、片道2時間を徒歩で町の外から通学する苦学生は、遠巻きに眺めていた女の子たちの事には気づいていなかっただろう。



「パンツくらい自分で買えばいいのに、魔法禁止だろうな」



 もう1人のゼスタと呼ばれた少年も同い年だ。シークよりも数センチメーテ(1センチメーテ=1センチメートル)高い背に、細身でも鍛えられていそうな体格をしている。


 短い白金の髪は若者らしく立てられ、くっきりとした目と涼しげな面長の顔はシークに勝るほど整っている。派手ではないが真面目で爽やかな印象を与える人気者だ。



「馬鹿だな。つかパンツより明日の卒業式の後どうするよ、装備買いに行く?」


「卒業式さえ終わったら武器防具買ってもいいんだし、もちろん」



 シークとゼスタは明日、職業校……いわゆる公立の専門学校の卒業式を迎える。



「で、何色だったの」


「え? 何がだよ」


「パンツだよ、見たんだろ?」


「見てないよ……」



 旅に出るためのパンツ……いや、装備を選ぶ事は、モンスターと呼ばれる凶暴性の高い生き物を討伐する職業、「バスター」になる若者にとって特別なイベントだ。


 自分の装備を持つことで、いよいよバスターとして仕事を始めることが出来るという訳だ。



「俺は金が無いから最初は防具だけかな、魔術書までは買えない」


「俺もそんな高価なもんは買えないかな。けど魔法使いでも何か持ってた方がいいぜ」


「魔法の教科書、貸与じゃなくて払い下げてくれないかなあ」



 武器や防具は実績に応じてランクが決められている。


 特に武器に関しては素人や悪意を持った者が簡単に高性能なものを持てるようになると、凶悪事件にも繋がりかねない。金さえあれば良いのであれば、高性能な剣、銃、爆薬の類が野放しになってしまう。


 バスターになり、実績を積み上げ、高い志を持つからこそ性能が良い武器、防具の使用素材制限がバスターギルドによって解除される。


 先程の痴漢のように、バスターとしての資格が無くても軽微な魔法であれば自然に習得する事も出来る。


 しかし、バスター以外が攻撃魔法などを農作業等以外で使う事は原則許されていない。


 バスターになり、実績を積めば難しい術、新しい術の許可が出て、才能が有れば使えるようになるのだ。



「明日、卒業式が終わったら武器屋マークに集合な! 遅れたら買えなくなるぜ」


「俺はお前と違って魔法で行くんだよ、防具だけの店の方が……」


「ダガーくらい買っといた方がいいって絶対! 見るだけでも絶対違うから」


「うん……分かった。親に話してみる」



 町に住むゼスタと「じゃあな」と言って別れ、シークは自分の住む村へと続く道を歩く。


 モンスターの襲来に備え、基本的には家々は集まって1つのコミュニティーを形成している。草原や森の中に1軒だけポツンとある……といった建て方はまずしない。


 機械技術は発達していて鉄道が延びている地区もあるが、あいにくシークが住んでいる村までは、せいぜい馬車 (※厳密には飼いならされた馬に似たモンスター)が通るくらいだ。


 シークが住むアスタ村は基本的に貧しく、実家は毎日馬車で通学する余裕も、町で下宿する金も無かった。もちろん町に通うには歩くしかないため、両親は当初反対した。


 しかしシークの魔法能力は高く、大人顔負けの魔法を操り、畑に少量の雨を降らせる、風で落ち葉を集めるといった芸をやってのけ、モンスター撃退にも一役買った。


 シークが自分の身を自分で守れると判断し、両親は心配ながらも通学を認めた。実際、学校から借りているモンスター避けの魔具さえあれば、シークの通学は安全なものだった。




 * * * * * * * * *




 町を出ると30分ほどで街道は森へと差し掛かる。陽の光が遮られ、薄暗い中、シークは明日の卒業式の事が記された紙をカバンから取り出して確認した。



「9時30分開場、10時から卒業式。12時に終わるなら装備屋には12時30分には皆が押し寄せる……武器も防具も選んでる暇がないかもしれないな」



 町にはシークが通う学校を含め、3つの職業校がある。


 武器、魔法、そして鍛冶や鉱業、農業、機械などの専門コースを有する職業校は、基本的には15歳になる年度から19歳までの5年間通う学校だ。


 シークは最短の17歳での卒業であり、17歳組は全体の1割程しかいない。最短で卒業しなければ貧しいながらも職業校へと送り出してくれた家に迷惑がかかると、必死に頑張った結果でもあった。


 話が逸れてしまったが、そんな卒業生が一気に町中の装備屋に押し寄せたなら、流石にそれぞれが気に入った装備を手に入れられるかは分からない。


 シークは明日の予定を再確認するため、鞄の中から1枚の紙を取り出し、歩きながら顔を紙に近づけ、そこに描かれている内容を確認しだした。



「武器屋マークへの最短ルートは……あっ!」



 シークが地図を見ながら武器屋マークへの道のりを確認していると、森の中を風が吹き抜け、卒業式の案内が載った紙は風に飛ばされてしまう。紙は道から外れた暗がりへと舞ってしまった。



「うわ~……」



 シークは数秒ほど紙が飛んでいった方を面倒臭そうに見つめる。拾うか拾うまいか考えているのだ。


 空を見上げると僅かに木々の間からのぞく空は曇っていて、風は雨のしめった臭いを運んでいるようにも思えた。あいにく今日は傘を持ってきていない。



「あ~もう! 何でこんなに飛ぶかなあ! 痛っ! 枝が刺さるし最悪!」



 無くてもいいと思う気持ちと、取りに行こうという気持ちは、どうやら後者が勝ったらしい。


 道を外れてからしばらく暗い森の中を用心しつつ歩いていると、ようやく紙が木の根元に落ちているのを見つけた。乾いた落ち葉の上にあるおかげで、さほど汚れなどもついていない。


 シークはやれやれと拾い上げ、道がない森の中を来た通りに戻ろうとした……のだが。



「あれ?」

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