第2話 仲間探しでインパクト

 門から出た俺の眼前に広がっていたのは、中世ヨーロッパを思わせる牧歌的な町並みだった。俺とトトミィの周りを沢山の人々が忙しなく行き交っている。人間に混ざって、二足歩行のトカゲや犬の顔をした者達も歩いていた。


「うわっ、すげえ! 獣人だ! ホントに此処って異世界なんだな!」


 剣と魔法のファンタジー世界に来たのだと実感し興奮するが、トトミィは俺とは対照的に冷めていた。


「獣人なんて異世界あるあるです。たいして珍しくもないので、そんなところにあまり時間を割かないでください」


 異世界に来て早々怒られた。なんだよ! 正直な感想、言っただけなのに!


 人混みから離れ、路地裏のような場所を進む。歩きながら、引率の先生のようにトトミィは厳しい目を向けてきた。


「此処はアルマリーの町です。とりあえず異世界にやって来たので、読者の溜飲も多少は下がったことでしょう。でもゆっくりなどしていられません。文雄さん、まず私達は何をすべきでしょう?」

「え……ええっと……聞き込みかな? この世界が一体どういう状況なのかを……」

「ありきたりですね。却下します」

「じゃ、じゃあ武器や防具か? 俺の格好って学生服のままだし、きちんとした装備を、」

「イマイチですね」

「一体どうすりゃいいんだよ!!」

「いいですか、文雄さん。まずは『仲間探し』です」

「仲間!? いきなりかよ!?」

「小説としてこの冒険を考えた時、文雄さんは失礼ながら、あまりにも平均的で花がなく空気のように存在感のない主人公です。だから早く仲間をゲットして読者の興味を引くのですよ」

「本当に失礼だな!!」


 憤りながらトトミィを睨む。だが女神というだけあって芸能人並みの美貌、更に視線を下に向ければふくよかな胸。瞬間、俺の怒りは矛先を失う。俺の視線に気付いたトトミィが眉間にシワを寄せた。


「文雄さん。私に欲情しても物語は盛り上がりませんよ」

「欲情とか、べ、べ、別にっ!!」

「異世界に来た時から、私はアナタの小説には登場していません。召喚の間で門を出した後、別れたということにしてあります。ちなみにこの世界の人達にも私の姿は見えていません」

「そ、そーなんだ。それが女神のルールって訳か」

「あ、いえ。私の能力の特性上、勇者に同行していると話がややこしくなると思いまして。もしこれから物語がマンネリしてきたら、その時は姿を現そうかと思っています」

「途中で急に女神現れたらおかしくね!?」

「とにかく私に絡んでも、読者に知られないので意味がないのです」

「じゃあこんな感じでトトミィさんと会話してる時はどうなってるの?」

「トトミィで結構です。前回も言いましたが、文雄さんは『事あるごとに独り言をブツブツ呟く主人公』としてうまく文章化されていますので、ご安心ください」

「!? 安心出来ない!! そんな情緒不安定な主人公で読者の共感は得られるの!?」

「ですので、なるべく疑問などは私に聞かず町の人に聞くよう心がけてくださいね」


 会話の途中だったが、不意にトトミィは片手を上げて叫ぶ。


「オープン・ザ・コメント!」

「うわっ、ビックリした!! このタイミングで!?」

「文雄さん。私は数分毎に自分の小説にどんなコメントが付いているか気になって確認してしまうのです。それはもう、おちおち夜も眠れない程にね」

「そ、そういうの止めた方がいいよ。精神衛生上、良くないから……」


 それでも頭上の空間には既に数個のコメントが表示されていた。




『仲間探しか』

『唐突だな』

『それ見てから読み続けるか決めるわ』




 仲間を探すという展開が、トトミィの能力で既に小説投稿サイト『カクヨミしよう』に転送されているようだ。うん。今回そこまで辛辣なコメントはないな。まだ何も起きていないから当然といえば当然か。


「文雄さん。ステータスと言ってみてください」

「ん? ああ……」


 トトミィに言われ、俺は眼前の空間に数値化された自分の能力値を表示する。




 鈴木文雄すずき ふみお

 Lv1

 HP15 MP8

 攻撃力7 防御力4 素早さ5 魔力2




「あれっ!? 小数点が消えて、マシな能力値になってる!!」

「読者の期待が高まっているんですよ! フフフ! やはり先に仲間を探すという展開は正解だったようです! さぁ、先に進みましょう! 書物の女神である私を信じてください!」

「お、おう……」


 自分の選んだ行動が的を射たようで、すごく嬉しそうである。どうもこの女神は世界を救うことより面白い小説を投稿することに夢中になっている気がする。いや『冒険を面白い小説に文章化→読者が高評価する→俺のステータスが上がる→世界を救う』という形式らしいから、あながち間違ってはいないのだが……うーん。なんだかなあ。




 トトミィが足を止めたのは、大きな木造の建物の前だった。傍には看板があり『ガルーダの酒場』と書かれている。どうして異世界なのに文字が読めるのか気になったが、そんなことを言ったらまた小言を言われそうなのでスルーしておく。


「酒場には沢山の冒険者がいます。この中から仲間を見つけるのです」

「へぇー。そういう感じなんだ」


 扉を開くと店内は存外に広かった。戦士や魔法使いのような格好をした人間はもちろん、エルフにドワーフや獣人。様々な種族がカウンターやテーブルの椅子に腰掛けている。俺に気付くと、酒場にいる者達が一斉に視線を投げてきた。俺は小声でトトミィに囁く。


「凄い見られてるけど……俺ってもしかして、勇者だって分かっちゃうの?」

「いえ、全く。妙な服を着た大道芸人くらいにしか見えていないと思います。話し掛けたらイヤな顔をされるでしょうね」

「!! そんなんで仲間なんて出来るの!? やっぱり先に装備揃えた方が良かったんじゃない!?」

「心配ありません。文雄さんが変な格好でも、またあえて女神の力を使わずとも人々を魅了するものがあるのです」

「そ、それは……?」


 トトミィはテーブルに大きな巾着袋をドンッと置いた。


マネーです」

「いやあの……ファンタジー世界で現実的なこと言わないでくれる?」

「さぁ金の力で仲間を買い揃えましょう!」

「ええええええ! 仲間って金で買うものなのかよ! 思ってた冒険と違う!」

「実際のところ、金銭で得る義理も人情もへったくれもない薄っぺらい仲間です。命に危険が迫れば文雄さんを置いて我先に逃げることでしょう」

「!! それじゃあ仲間の意味無くない!?」

「最初は仕方ないですよ。冒険を通じて徐々に絆を深めあっていくのです」

「ま、まぁそうか。そうだよな」

「とにかく文雄さん。仲間選びは小説にとって途轍もなく重要。真剣に考えてくださいね」


 金で買う絆だが、それでもこれから苦楽を共にする仲間である。言われなくとも真面目に選ぶに決まってる。


「あまり仲間が多くても読者は把握しずらいですし、雇うお金にも限度があります。とりあえず文雄さんのセンスで三人ほど見繕って、指さしてみてください」

「分かった」


 俺は酒場にいる人々を凝視した。自分以外のステータスを見る能力はないので、あくまで外見で判断するしかない。俺はなるべく強そうな者を選ぶことにした。


「じゃあ、あのローブの人と、それから隣の鎧を着た戦士と……」


 熟考した後、トトミィに伝える。トトミィが「オープン・ザ・パーティ」と呟くと、テーブルの上に俺が指さした者達の縮小された全身画像と、その下に名前と職業、種族、性別などがホログラムのように表示された。



 ジャック  戦士   ドワーフ 男

 コニー   魔法使い 人間   男

 バラライカ 僧侶   エルフ  女



 ――能力値は分かんないけど……うん。バランスは良いんじゃないかな。


 RPGでは基本となる『攻撃、魔法、回復』の三拍子揃ったパーティだ。なのにトトミィは何故か白い目を俺に向けていた。


「あの……ふざけているのですか?」

「はぁっ!? 俺、真剣に選んだんだけど!!」

「こんなつまらないパーティで本当に面白い小説になるとお思いですか?」

「面白い小説っていうか、世界を救うことを考えてたから、」

「何度も言っているでしょう。『世界を救う=文雄さんの冒険を面白い小説にすること』なのです。何よりも第一に『面白い小説』になるよう振る舞ってくれないと困ります」

「じゃあどんなパーティが良いんだよ!!」

「仕方ありませんね。私が手本を見せましょう。序盤はとにかく読者を引きつけること――つまり『強い弱い』で見るのではなく、インパクトのありそうな仲間を選ぶのです」

「インパクト?」


 トトミィは目を細めながら辺りを窺い、やがてテーブルの上に自ら選んだパーティのホログラムを表示した。




 エルザ  遊び人 ダークエルフ 女

 シャラン 盗賊  人間     女

 キャトス 踊り子 獣人     女




 遊び人に盗賊に踊り子かあ。こんなメンバーでモンスターとバトル出来るのか? それに……


「女の子ばっかなんだな?」

「小説サイト『カクヨミしよう』に於ける異世界ものの読者比率は、男性が圧倒的に多いですからね。男性ウケを狙ったのです。こういったリサーチも面白い小説を作るコツなのですよ」

「ふーん……」


 改めてパーティを見る。すっきりとした目鼻立ちでモデルのような女性、セクシー系のダークエルフ、可愛らしいネコ耳の獣人……皆スタイルは良く美形なのだが、陰があるというか何というか、どこかくたびれた感じの女性達だった。これがトトミィの言う『インパクト』というやつなのだろうか?


「ちなみにステータスの表示とか出来ないの? 彼女達の能力値が知りたいんだけど」

「出来ますよ。でも今はしません」

「な、何で?」

「仲間にするにあたって、能力値よりもっと重要なものがあります。それを今から表示します。……オープン・ザ・キャラクター!」


 トトミィが叫ぶと、性別の次に新たな項目が追加された。




 エルザ  遊び人 ダークエルフ 女 性質・ビッチ

 シャラン 盗賊  人間     女 性質・クズ

 キャトス 踊り子 獣人     女 性質・病気持ち




 

「!! ロクでもない性質が表示された!?」

「インパクトがあるでしょう! こんなパーティ、そうそういませんよ!」

「興味を引けりゃあ何でもいいの!? ビッチとクズと病気持ち連れて、どんな冒険すりゃあ良いんだよ!!」

「文雄さん。私の能力をお忘れですか? 読者の評価が爆上がりすれば文雄さんのステータスもまた爆上がり。高評価が極まれば、たった一人で魔王を倒せる能力値になることも可能なのです」

「え……ええええええっ!! 俺だけで魔王を倒せちゃう訳!?」

「フフフ! それが書物の女神としての偉大なる能力なのです! まぁその為にはリゼ口クラスの人気と高評価が必要ですけども」

「り、リゼ口……!!」


 その名を聞いて俺は戦慄する。リゼくちとは同じく小説投稿サイト『カクヨミしよう』に投稿されている連載小説であり、アニメ化もされている超大ヒット作だ。ちなみに正式タイトルは『リゼの口はかなり大きいので魔物を噛み殺して異世界攻略』で、その略である。


「無論、インパクトだけで選んだ訳ではありませんよ。皆、セクシーな雰囲気を醸し出しているでしょう? お色気はライトノベルに必要不可欠な要素ですからね。文章化された小説でもステータスを反映し、読者にも彼女達の特質が分かるようにしてあります。今頃、きっと大盛り上がりですよ」

「も、盛り上がってるかなあ。冒険するパーティとしても酷いけど、ライトノベルのキャラとしても普通にマズいんじゃ……?」


 俺の言葉にトトミィは鼻をヒクつかせると、顔を近付けてメンチを切ってきた。


「は? ちょっと何ですか? 売られたケンカなら買いますよ、私!」

「怖っ!? 何でそんなケンカ腰なんだよ!! 俺はただ、奇抜な要素とかお色気ってそこまで需要あるかなって。それよか今はほのぼの系とか……」

「ほ、ほのぼの系……? 少々お待ち下さい……」


 俺に背を向けるや、胸元から例のライトノベル入門書を取り出し、すごい勢いでバラバラとめくっている。いやホント大丈夫か、この女神!?

 

 やがてトトミィは本を閉じ、こくりと小さく頷いた。


「確かに文雄さんの意見も一理あるようです。それも加味して考えましょう。……それにしても案外ライトノベルに詳しいんですね?『読者に切られる』って言葉、知らなかったのに」

「それはコメントとかしないから。けどネット小説くらい読んだりするし」

「では、文雄さんのセンスで選んでみてください。さっさと」


 俺は再び酒場を見渡す。今度は強い弱いじゃなく、見た目の可愛さで選ぶことにした。背が小さくて、目が大きくて、性格の良さそうな可愛い女の子は……


 俺は隅っこで、もじもじしている女の子を指さし、トトミィに伝えた。テーブルにホログラムが表示される。




 ミミ 僧侶 人間 女 性質・純情




「どうだ?」

「アクセントとしては悪くないと思いますよ。まぁ読者の人気は出ないでしょうけどね。素人の選んだキャラなんかでは」

「うるさいなあ、もう!」

「まぁ四人もいれば、もうこれで充分でしょう」

「へ!? お……おい、待てよ!! さっきのメンバーはそのままなのかよ!?」

「私だって一生懸命考えて選んだのですからね。そこは譲れません」


 そうしてトトミィはパーティを表示した。





     エルザ  遊び人 ダークエルフ 女 性質・ビッチ

     シャラン 盗賊  人間     女 性質・クズ

     キャトス 踊り子 獣人     女 性質・病気持ち

NEW! ミミ   僧侶  人間     女 性質・純情





「!? ミミさんが何だか可哀想!!」

「これはこれで化学反応を引き起こすかも知れません。ようし! それではそろそろ、読者の反応を見てみましょう!」


 自信ありげにコメントを開き……トトミィは絶句する。





『ドン引き』

『奇をてらいすぎ』

『ミミ以外やり直せ』

『もう切ります』

『いい最終回だった』

 




「う、嘘よ……!! 一体どうして……こんなことに……!!」


 メッチャ驚いてるけど……いや当然の結果だろ!! 全くこの女神は何を考えて……あっ!! そういや俺のステータス、どーなっちゃったの!?


 気になって自分のステータスを開き……今度は俺が絶句した。




 鈴木文雄すずき ふみお

 Lv0.5

 HP0.7 MP0.2

 攻撃力0.6 防御力0.4 素早さ0.2 魔力0.1




「!! レベル0.5って何!? アンタのせいで俺の能力値、ダダ下がりなんだけど!?」

「こ、こんな筈では……!」


 トトミィは顔面蒼白でライトノベル入門書をめくる。その間、俺はトトミィが出したままのコメントを呆然と眺めていた。次々と批判的なコメントが表示されていく。

 

「なぁ。こんなコメントもあるぞ。『ビッチという言葉がとにかく不快。女性蔑視です』だって。これって女性の意見じゃないか? 男性が多いって言ってたけど女性読者だって、それなりにいるんだよ」

「な、何よ!! 私はただ小説を面白くして楽しんで貰おうとしただけなのに……この腐れビッチ!!」

「!? 読者に毒吐くなよ!! それでも女神!?」

「い、いや待って!! よく見てください!! 好意的なコメントもありますよ!!」




『はいはい おもしろいおもしろい』




「ホラ! 楽しんでくれてる読者だっているんです!」

「いや、このおもしろいは面白くないって意味のおもしろいだから!! バカにされてるだけだから!!」

「そ、そうなんですか? ……ぐうっ、どいつもコイツもド畜生め!! と、とにかく選んだ仲間に話し掛けてコミュニケーションを取ってみましょう!! 今の段階で最終的な判断を下すのはあまりにも包茎です!!」

「!!?」

 

 ……出オチのようなメンバーを選ぶセンスはもちろん『早計』を『包茎』と言い間違える書物の女神の語彙力に、俺は底知れぬ絶望を感じるのであった。

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