10-5

 その夜、ビスマルクの発見したWEB小説、その登場人物にはガングートがいた。聞き覚えのある名前だが、検索すれば無数に使われている名前だろう。

しかし、ビスマルクが発見した小説のガングートは、とある法則に基づいて命名されていた。つまり、知っている人物が名付けたと言えるだろうか。

(艦艇由来か――)

 ビスマルクと言う名前の人物もいれば、ロボットだって存在する。

その中で、ガングートとビスマルクが同時存在するような小説――それこそ、命名法則がなければ偶然としか言えない。

ガングートの装備、ドールと言う個所、操っているプレイヤーが存在する――極めつけは、過去に存在した戦艦や駆逐艦などが名前の由来である事だ。

船の種類は多数あり、それを艦艇と纏めるケースもあるだろう。ビスマルクが発見した小説は、正にその命名法則が存在している。

(しかし、艦艇由来の命名法則があるならば、その背景にあるのは――?)

 艦艇擬人化を題材としたゲームは複数あるのだが、WEB小説サイトではめったに見かけない。

その理由は二次創作を認めていないサイトが存在する事だろう。あくまでも、WEB小説サイトのメインは一次創作だ。

何故、それなのに艦艇由来の名前の人物が出てくるのか? ビスマルクは疑問を持つ。

(そう言えば、作者名を見ていなかったな)

 ビスマルクは作者名を見れば、ある程度の把握が出来るだろう――そう考えていた時期があった。

しかし、その名前を見て更に衝撃を受けるのは、言うまでもない。その人物の名前とは――。

「舞風――まさか?」

 都市伝説サイトで名前を見た事がある。その人物の名前は舞風まいかぜ、過去にSNS炎上に対して警鐘を鳴らす小説を書く事でも有名だった。

書籍化は――いくつかあるのだが、大ヒットまでは行っていない。量産されていく異世界物よりはマニアックな支持者がいたのだが――。

(書籍化作者同士の潰しあいなんて、想像したくないけど)

 蒼流の騎士の正体、それがSNS上で言及されている団長だとすれば、舞風と団長の対立は明らかに作者同士の場外乱闘に他ならない。

どちらもプロの小説家ではないのだが、それでもSNS上を炎上させるには十分なネタと言える。



 同じ夜、自宅ではなくゲーセンでゲームをプレイしているのはマルスだった。プレイしているのはARゲームではなく、普通の対戦物である。

ARゲームもオールナイトのイベント、リズムゲーム等の一部ジャンルのような特殊ケースでない限りは午後十時を過ぎるとサーバーメンテナンスで休止になっていた。

このタイミングで他の悪質ゲーマーが徘徊するような事はないし、わざわざオールナイトをピンポイントに活動するゲーマーもいないだろう。

それなのに、彼はゲーセンに足を運んでいた。その理由は――簡単な物である。

(やっぱり――)

 マルスはゲーム終了後、メンテナンス中のARゲームモニターの前に到着した。

そこではゲームのプレイ動画をチェックする人物の姿がある。この時間でARゲームがメンテナンス中である事を知らないゲーマーはいないはずなのに。

「マルスか――」

 モニターの対戦動画を見ていたのは、黒のシュヴァリエだった。

しかも、私服姿なので他のゲーマーも気付かなかった様子。

何故に彼がここにいたのか――マルスは質問をする事はなかった。あえて、出来なかった可能性も否定できないが。

「かつて、君とは対立した事もあった。それが、どうして?」

 マルスは黒のシュヴァリエが最近になって複数現れている事を言及しようとした。

ゲーム上のアバターで使われていると言われればそれまでだが――。

「今は事情が違う。お前とも対立する事はしない」

 言葉少なげに彼は、マルスの目の前から姿を消す。

対立しないは分かるとして、彼の言う事情とは? 色々と気になる事はあるのだが――。

「ガジェットにコール? 着信音は――!」

 マルスが右腕のARガジェットを確認すると、コールが入っていた事に気付く。

しかも、着信音はオフにしていたので今まで気づかなかったようだ。こうしたガジェットにはバイブ機能があってもおかしくはないのに。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る