第481話

 レギュの武器が決まると、次はラバが大きな声を上げた。


「デグさん、自分の武器も選んで欲しいッス!」

「あぁ、分かっている」


 俺は、店にある剣を一通り見て回る。そして、一本の剣をラバに渡してやる。


「これなんか、良いんじゃ無いか?」


 剣を渡してやると、何故かラバは少し不満そうな表情を浮かべている。


「ん? どうかしたか?」

「自分もデグさんみたいに大きな剣が良いッス!」


 ラバに渡した剣も十分大きいが、俺が持っている剣と比べると二回り程小さい。


「まずは、この剣で慣れる事から始めた方がいい」

「自分はデグさんと一緒のスキルなので、こんなの余裕ッスよ?」

「そうかもしれないが、自分の背丈以上の剣を扱うのは難しいんだ。だから先ずは、この剣を使用して基礎を学ぶべきだな」


 基礎が大事な事をラバに話すと、納得してくれた様で最終的には俺が選んだ剣にする事に決めた様だ。


「自分も決めたッス! この剣にするッス!」


 レギュ同様に目を輝かせながらラバは剣を色々な角度から眺めている。


 そして、レギュとラバはお互いにこれから買う武器を見せ合いっこしている。


 よし、後は自分の武器も探さないとな。

 二人の武器を決め終わった俺は自身の剣も新調しようと歩き出すがベムによって止められる。


「なんだよ?」

「……私の武器は選ばないの?」

「お前は、俺が選ぶより自分の感覚で選んだ方がいいだろう」

「ふふ、知っている……敢えて聞いてみただけ……」


 そう言うと、ベムは店の一角にある弓が置いてある場所に移動して行った。


 なんなんだよ……アイツだけは何を考えているか分からねぇ……


 ベムに調子を狂わされた俺だが、店を回っているうちに、そんな事は気にならなくなった。


 すげー。この店にある武器の種類は少ないし、そもそも武器自体も多くない。


 しかし、どの武器もしっかりしているのだ。


「こんな、作りがしっかりした武器を、人間族の住処で買ったら、一体幾らになるやら……」


 そもそも、四人分の武器を買うつもりだったが、今更ながら金が足りるか不安になってきた。


 奥に行けば行くほど店は寂れていった為、その分武器の質も落ちるものばかり思っていた。

 しかし、最奥であるこの店ですら売られている武器の質は人間族の住処で売られている最高級の武器よりも上である。


「やべぇ……足りないかもしれん」


 横目でレギュとラバを見ると大層喜んでいる為、今更買えないとは言えない。


 はぁ……ベムには悪いが俺達の武器新調は諦めるしか無さそうだな……


 恐らく、レギュとラバの武器を買ったら俺達の武器は買えないだろう。


「下手したらレギュとラバのどっちかは我慢してもらう可能性も出てきたな」


 末端の店であってもここまで質の良い武器があるとは驚きだな。


 少しして、俺もベムも武器を決めて先程のエルフを呼ぶ。


「はーい! 少々お待ちください」


 丸見えの工房から大きな声で返事をしてエルフが店まで出てくる。


「武器が決まりましたか?」

「あぁ。これらを買いたいと思っている」


 台の上にレギュのグローブ、盾とラバの剣をまず置いた。

 その後、俺が選んだ大剣とベムの選んだ弓を置くとエルフは代金の計算をしているのかブツブツと呟きながら両手の指を折り曲げたりしていた。


「レギュ、楽しみッスね!」

「はい! 沢山訓練して強くなりましょうね!!」


 二人は自分達のはじめての武器に興奮している。


「デグ……お金足りるの……? この店、見た目はボロいけど武器の質は凄くいい……」


 どうやらベムも、この店の武器の質を見極めていた様だ。


「そうなんだよな……こんなにボロい店だから、安いだろうと思っていたが、ここまで質が良いと高いよな……?」

「うん……人間族の住処で買えばかなりの金額になる……」


 今更二人に対して、買えないなど言えない俺は、懇願する様にエルフを見て、お会計を待つ。

 さっきから待っている時間は、だらだらと嫌な汗が流れている。


「お待たせしました」

「──ッ!」


 とうとう、計算が終わった様で声を掛けられる。


「武器の代金は全部で……」


 エルフが口にした代金は驚愕する額であった──いや、まぁ良い意味でだけどもよ……


「安い……」

「あぁ、驚きだぜ……」


 エルフが提示した代金は人間族の住処で言うところの初心者装備を揃えたくらいの代金であったのだ。


「お、おい、そんな代金でいいのか?」


 あまりの安さに、つい口を開く。


「え? 高過ぎますか?」


 エルフは俺が武器の値段が高過ぎるとイチャモンを付けていると思ったのか、頭を抱えながら独り言を唱えている。


「これ以上安くしたら、儲けが出ないです……でも、ここで売らないと今月の家賃が……最終手段はシャレちゃんに借りるしか……」


 凄い勘違いをしている為、俺は慌てて訂正し、最初の値段で購入する旨を伝える。


「あぁ、助かります。今月、少しお金が無くて困っていたんですよ」


 ずれ落ちていた眼鏡をかけ直し、エルフは安堵したのか、ここに来て初めて微かに微笑んだ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る