第472話

 現在、俺達四人は極力足跡を立てずに慎重に移動している。


 それは何故か?


 ジャングル内で足跡を立てない理由などは限られている……


「デグさん、ここから500メートルの位置に小型が一体います」

「ッチ、結構近いな……」


 レギュのスキルは身体強化の耳である為、俺達には聞こえない小さい音でも聞き取れる。


 そして、レギュの耳には小型の移動する際に発生する音が届いている。


「私が見てみる……」


 そして、ベムのスキルは身体強化の目である。


「様子を見る限り……向こうは気が付いて無いみたい……」


 レギュもベムも、どちらもランクはCと普通だが、それでもスキルというのは凄い力を秘めている。


「なら、バレて無い内に早く逃げるッス!」

「ラバの言う通りだな……ベムとレギュは引き続きスキルを使用して、モンスターの気配を探ってくれ」

「臭いのに、人使いが荒い……」

「臭くねぇーよッ」

「お、お二人とも、今はそんな事している場合ではありませんよ?」


 大人である俺達がレギュに諭される。


「そ、そうッス。早くここから離れるッス!」

「そ、そうだな。よし、このまま慎重に行くぞ」


 ドワーフの村を目指す事に決めたのは良かったが、ジャングルを歩き回るのは、かなり危険である。


 何が危険かは、子供だって分かるくらいの常識である。


 モンスターは倒せない……


 そんな、言葉を覚えたのは、一体いつだったか記憶に無いくらいには、気が付いた時には既に知ってて当たり前の状態だった。


 この言葉は少し語弊がある。それはモンスターは倒せる。


 しかし、それはあくまで人数と状況など、戦う環境が揃った時、初めて倒せるのであり、誰か一人でもヘマをしてモンスターに食べられてしまうと、モンスターは強化され、全滅する可能性だってある。


 そんな事を諸々含めて、モンスターは倒せないと昔から言われているのだろう。


「モンスターには本当に良い思い出がねぇーぜ」


 これまで、モンスター関連で一体どれくらい酷い目にあったかなんて、数えたくも無い。


 そんなモンスターに悩まされるなんて言うのは、この世界で生きていれば当たり前の事だ。


「だけど、世の中にはそんなモンスターを一人で倒しちまう奴もいるんだよな……」


 俺の独り言にベムが口を挟んでくる。


「それは、例の二つ名持ちの話?」

「あ? あぁ。そうだ」

「二つ名持ちってなんですか?」

「自分聞いた事ないッスね」


 どうやら俺が考えていた二つ名持ちの事をベムは知っている様だが、レギュとラバは聞い事が無い様だ。


「俺も、あくまで噂程度で実際に会ったことは無い」

「噂ッスか?」

「あぁ。恐らく一番有名なのは、俺達と同じ人間族である炎弾だな」

「炎弾はとても有名……」


 炎弾の噂はどれも嘘だと思えるほど信じられない事ばかりである。


「その炎弾さんは、何が凄いですか?」

「遠距離最強の名を持ち、一人で小型を倒せる──嘘か本当か分からないが、中型すら一人で倒す事が出来るらしいぞ?」


 小型を一人で倒せる事すら、信じられないのに、中型を一人なんて俺は流石に信じてないけどな。


「す、凄いッスね……中型をッスか?」

「あぁ。距離を取れば、それこそ何体でも倒せる様だぜ?」

「流石に信じられない……」


 ベムも俺同様に信じて無い様子だ。


「二つ名を持っている人は凄いんですね! 他にも、二つ名持ちの人とか居るんですか?」

「あぁ、二つ名持ちは、実際の所少なくない──ただ、二つ名が付けられても、その後に活躍しなければ、そのまま忘れられて終わりだな」


 その中でも、常に名前が上がっているのが、炎弾だ。炎弾は戦闘をする度に、その戦闘力が際立ち周りが騒ぐ為、いつまで経っても炎弾の二つ名は上がり続けている。


「そういえば……」

「ん? ベムさんどうかしたッスか?」

「最近有名になっている二つ名があるらしい……」

「そうなのか?」


 最近有名と言えば……


 俺が、思い出したのと同時にベムが口を開く。


「雷弾……」

「ベムさん、雷弾って何ですか?」

「雷弾は最近有名になった獣人族らしい……」

「あぁ、俺も聞いたぜ。確か、炎弾の対抗馬的な感じの様で、遠距離最強とも噂されているらしいな」


 俺の言葉にベムが頷く。


「そう。あの炎弾を差し置いて雷弾こそ最強と言う人達もいるらしい……」

「そ、そんな凄い炎弾より強いッスか……? バケモンッスね」

「まぁ、実際の雷弾の実力は不明だがな」


 この雷弾も、また炎弾同様に信じられ無い噂ばかりだから、俺は信じてねぇーけどな。


「雷弾凄いッスね!」

「はい! 私も、それくらい強くなりたいです!」


 ラバとレギュは炎弾と雷弾の話を聞いて興奮している様だ。


「他には無いッスか?!」

「うーん、後は雷弾の仲間である、鉄壁と剛腕くらいか?」


 二人が話を聞きたいと言う様に目を輝かせながら俺を見ていた。


「こっちも噂程度だぞ?」


 それから、二人に鉄壁と剛腕の話もした。すると、周りは暗くなり始めた為、野宿の準備を始める。


 全ての準備を整えて、交代で見張りをする事にして、俺は眠りに入る。


 そう言えば……雷弾、鉄壁、剛腕以外にも二つ名持ちがいた様な気がしたが忘れちまったな……


 そんな事を考えている内に俺はいつの間にか目を瞑っていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る