第460話

「よし、そろそろ行くか……」


 小型達の群れから逃げ出し、暫く休憩していた俺達は村に帰る為、再び移動する事にした。


 このまま、何事も無く村に帰れれば良いが……


 リガスが言うには、そこら中からモンスターの気配があるという事だし、厳しいか?


 ロピやグイン達に出発する事を伝えに行こうとすると……


「あーぁー早く帰って、美味しいご飯食べたーい」

「はは、嬢ちゃん無事に村に帰れたらたらふく食わせてやるからな!」

「本当ッ!? 約束だよ?!」

「「「あはははははは」」」


 ロピの言葉にグインを始め、リザードマン達が盛大に宴会を開く事を約束し、ロピは元気になりはしゃぎ始めた。


 ロピよ……それでいいのか……?


 親代わりとして、少し心配になってしまったが、今はロピのそんな元気が良い意味で皆んなに刺激を与えている。


「ほっほっほ。流石ロピ殿ですな」

「姉さんは、どこ行っても人気者!」


 ロピはリザードマン達に、食べたい料理を次々とリクエストして、笑わせており、その一角だけを切り取れば、一体誰が命の危機がある状況だと分かる者がいるだろう?


「はは、ずっと見ていたいがそろそろ移動しないとだな」

「はい。私が伝えて来ます」


 チルがロピやグイン所に行き、移動する事を伝えに行く。


「……アトス殿……」

「ん?」


 チルが、ロピ達に声を掛けに、行っていると、隣に居たリガスが険しい表情を浮かべた。


「何かが、近付いてきますな」

「またか……」


 少し休憩出来たとは言え、また小型達と鬼ごっこをすると考えると気が滅入るな……


 そんな事を考えていると、リガスは俺の考えを否定する様な言葉を投げ掛けて来た。


「アトス殿、どうやら、ただの小型では無さそうですぞ?」

「どう言う事だ?」

「詳しくはわかりませぬ。やはり気配が読み辛いので──ただ、そこら中から感じるモンスター気配とは明らかに違いますな……」


 明らかに違う……? 俺はリガスが言っている意味について考えていると……


「ん? ……気のせいか?」


 何やら、足元に違和感を感じて顔を下に向けるが、見えるのは地面だけである。


 気配の正体についてリガスの意見を聞こうと思い、話し掛け様とするが、またもや足元に違和感を感じる。


 な、なんだ……?


 再度下を見るが先程同様変わった所は何も無い。


「リ、リガス。なんかおかしく無いか?」

「ふむ。アトス殿も気が付きましたかな?」

「いや、気配については俺は読み切れないが、足元に何か違和感を感じる」

「違和感ですかな?」


 俺の言葉にリガスも顔を下に向けて、何やら探る。


「ふむ。何も無い様ですが……もしかして」


 リガスは何かに気が付いたのか、その場でしゃがみ込み、地面に手を翳し始めた。


「……」


 暫くの間、目を瞑り全神経を掌に集約している様子である。


「アトス様、姉さん達を連れて来ました」

「お兄さん、出発するんだってー?」


 ロピ、チルが近付いて来る。その後ろにはグイン達、リザードマン達の姿もいる。


 俺は、リガスの集中を途切らせ無い様にロピ達に向かって、ジェスチャーを送り、静かにさせる。


 俺の意思が伝わった様で、ロピを始め、リザードマン達は一斉に黙り込み、リガスに注目する。


「アトス殿、ここから直ぐに離れましょう」

「さっき言ってた気配か?」

「恐らくそうでしょう──地面に手を当ててみれば分かると思いますが揺れを感じます」


 俺も含めて皆が地面に自分の手を翳す。


 本当だ……揺れを感じるな


「こちらに向かって真っ直ぐ近付いて来ております、直ぐに移動した方が良いでしょう」

「あぁ、そうだな──皆んな直ぐに移動するぞ」


 それから俺達はすぐ様、移動を開始する──このまま何事も無く村に帰れば良いなと思う一方、何かしらあると心の中で感じている自分が居る。



「リガス、気配の様子はどうだ?」

「……恐らく、追いつかれますな。向こうの移動速度がとんでもなく早いです」

「どうするのー?」


 クソ……どうする……? 戦うか?


 俺は、周囲を見渡すがどう見ても戦闘が出来る程の体力を持ち合わせている者が少ない。


「リガス! このまま隠れたらやり過ごせると思うか?」

「分かりませぬ。ただ、真っ直ぐ此方に近付いて来ている所を見ると恐らく我々の気配を感じ取っているのでしょう……」

「厄介なやつだな」

「お兄さん、どうする? 戦う?」

「戦うのであれば、私が先陣を切ります」


 チルは、既に戦闘を行う気満々の様だ。


「グイン!」


 俺の声にグインが近付いて来る。


「どうかされましたか?」

「俺達を追って来ているモンスターが居るらしい──それも、とんでもない速度らしい」


 グインの表情が揺らめく。


「そこで、このまま逃げても追い付かれるから、選択肢としては隠れるか、戦うかなんだが、リザードマンの中で戦える者は何人居る?」

「5……6人くらいです。申し訳ありません」


 俺やロピ、チル、リガスを合わせて十人程か。


「よし、直ぐに戦闘の準備だ。一撃で片付けるぞ!」


 俺はロピの肩に手を置いて確認する。


「ロピ、頼むぞ……」

「あはは、まかせてよ!!」


 こうして、俺達は急いで戦闘準備に入るのであった。


 




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