第405話
「お兄さん、早く早くー」
「はは、ロピ落ち着けよ、どうせそんなに急いでも今日中に到着しないんだから」
「姉さん、アトス様の言う通り。先はまだ長いよ?」
「だって、久しぶりに旅に出られて嬉しいんだもーん!」
「ほっほっほ。はしゃいでおりますな」
現在、俺達はシャレ達の頼みによって、他種族に対して一緒に戦ってくれる様に頼みに行く旅に出ている。
「ふぁ~。それにしても朝早く出たから眠いな……」
「アトス様、大丈夫でしょうか?」
俺が欠伸すると、チルが心配そうな目でこちらを見ていた。
「あぁ、大丈夫」
「あまり、無理なさらず。少しでもご気分が優れない場合は仰ってくださいね?」
「あぁ、そうさせて貰う」
チルは常に俺の側に立ち、片腕しか無い俺をサポートしてくれる。
「そういえば、シャレ達が言っていたけど、俺達ってそんなに有名なのか?」
「はい。私も気になりました──特に何かした訳でも無いのに有名だと言われても信じられません」
「えー? なんで? 私達今まで、沢山活躍したじゃん!」
ロピは何を言っているの? と言う様な感じで首を傾げる。
「ほっほっほ。ロピ殿の言う通りですぞ?」
「どう言う事だ?」
「我々はアトス殿が思っている以上に戦場やモンスター討伐で活躍しました」
リガスが言っているのは過去の戦いだろう。
「でも、リガス。私達は噂が広がる程活躍をしてないと思う」
「いえいえ、そんな事ありません。十分な位活躍していますよ?」
「そうだよー。魔族さんの言う通り!」
「まずは、休憩場での戦いですな、覚えていますかな?」
忘れるわけが無い……あの時は死ぬかと思ったからな……最期は捨て身の特攻作戦で、なんとか倒せたけど……
「まず、あの時の商人達が各地に散らばり、村に移動する度に我々の噂をしたのでしょう」
「あの時、商人さん達、沢山いたんもんねー!」
「ふむ。次にドワーフの村の出来事ですな」
変異体と中型2体と戦った時か……
「中型一体を倒すだけでも凄いと言われる世の中なのに、二体倒した事により、より一層我々が活躍した事が際立ちましたな──こちらも商人達が事あるごとに我々の事を話をしてくれているみたいですな」
あの時は本当に辛い戦いだったな……
俺がしみじみしていると、リガスは更に説明する。
「ほっほっほ。そして今回の人間族との戦いで我々──いや、特にアトス殿ですな」
「俺がどうした?」
「炎弾を退けたのはアトス殿のスキルの影響が大きいですな、それは既に周知の事実ですな」
リガスの言葉に全員が大きく頷いた。
そういうものなのか……?
俺が首を傾げていると、リガスが話し続ける。
「なので、アトス殿やチル様があまり活躍されていないと思っても実際には商人や他の者達の手によって我々の活躍が広まり、知らない内に有名になっている感じですな」
「なるほどな……」
この世界にテレビやネット回線、ラジオなど情報を伝達するのに便利な機器は無い。
いくら、商人達が俺達の事を言い回っても限界はあるだろう。
「ねぇねぇ、それよりも私達は今から何処に向かうのー?」
「アトス様、私も気になります」
「ほっほっほ。お二人にも馴染みがある場所ですな」
「「!?」」
リガスの言葉に二人が反応する。
「えーッなんで私達が知らなくて魔族さんだけ知っているの!? 納得いかない!」
「姉さんの言う通りです。納得いきません」
どうやら、二人は自分達を差し置いてリガスだけが知っているのが気に食わない様だ。
「ほっほっほ。どうやらアトス殿の信頼を一番得ているのは私の様ですな」
「「ッ!?」」
二人は目を見開く。
「お、お兄さん……そんな事無いよね……? 魔族さんより私達の方がいいよね?!」
「リガスより確実に私達を信頼するべきです」
「ほっほっほ。無駄ですぞ? 事実、行き先を知っているのは私だけの様ですしな」
リガスは二人を煽って更に言葉を続ける。
「これからも、私がアトス殿の信頼を一身に受けることでしょうな」
「もうッ! 魔族さんは黙ってて!」
「リガスは口を閉じとくべき」
変えられない事実に、どうしようも無い気持ちになったのか、二人はリガスを力で黙らせようと捕まえに掛かる。
しかし、二人の実力ではリガスを捕まえられる訳も無く、二人の腕が空を切る。
「ほっほっほ。二人共まだまだですな」
「魔族さん、おとなしく捕まってよ!」
「リガス、逃げちゃダメッ」
はは、最近は色々あって、こういうのが無かったな……
俺は自然と笑みが溢れる。
「おーい、次の行先教えるから戻ってこーい」
二人は全力でリガスを捕まえようたとしていたが、一向に捕まえられる気配がない為、渋々戻ってくる。
「もー、あんなの反則だよ!」
「私の執事なのに言う事を聞かないのは納得いきません」
「ほっほっほ。お二人はなかなかでしたよ?」
三人が戻ってきた。
「はは、なんかいいな。こういうの」
俺はロピとチルの頭を撫でてあげると、嬉しそうに目を細める。
リガスには二人の気持ちを軽くしてくれたお礼として労う様に肩を叩く。
そして、俺は二人に行先を伝える。
すると、二人は懐かしむ。
「あはは、魔族さんとの思い出の場所だ!」
「懐かしいです」
「ほっほっほ。私の人生に再び色が付いた時ですな」
こうして、俺達は再び歩を進める。
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