第391話
「帰すわけには行かないとは、どういう事だ……?」
私達の逃げ場を遮る様にしてカールは少し下がり、扉の前に立ち塞がる。
「君達は俺の為に良く働いてくれたからね……このまま通して上げたいのはやまやまなんだよ?」
ワザとらしく肩を竦めるカール。
「けど、君達を帰しちゃうと、流石に色々不味いでしょ──うん、この状況は不味いねぇ」
全然焦った様子の無いカールは横目でラシェン王の死体を見る。
「はは、お前には悪いけどこの人数相手にどうにかなると思っているのかよ?」
「ググガの言う通りだ、ここは何としても通させて貰うぞ?」
ググガ達四人が戦闘態勢を取る。
「あはは、まぁそうなるよね──けど、俺が何でこんな昔話をしたと思う? ──もちろん、感極まって話したのもあるけど、理由はこれさ……」
カールの言葉に扉からゾロゾロと部下が入って来た。
その中には、私と初日に戦った副隊長の姿も……
「カール様、部下総勢十名到着致しました」
「あはは、ご苦労様、助かったよ」
「ですが、城内に連れて来れたのは十名と少なく、申し訳ありません」
「大丈夫、大丈夫」
部屋の中は遊撃隊で埋め尽くされた。
「シ、シク様、どうする? ──不味い状況だぜ」
どうする……?
部屋にはカールの部下達が武器を構えている。
すると、ガルルが仲間達に向かって口を開く。
「皆んな……シク様だけは……逃すぞッ!」
「「「おうッ」」」
ガルルの言葉に私以外の仲間が一瞬で反応する。
皆の足は淡く光りを帯び、そして気が付いた時には四人がカールの部下達に次々と攻撃を仕掛ける。
「オラッ通せよッ!」
ググガは近くに居た兵士二人に纏めて蹴りを喰らわす。
蹴りを喰らった二人は勢い良く後ろに吹き飛んび、部屋にある家具などを壊す。
攻撃を受けた仲間を見て、他の兵士が驚いているのが感じ取られる。
それも、そうだろう──今までの訓練でガルル達が見せていた威力とは段違いなのだから。
訓練では、制限してスキルを使用していた為、あまりの違いに困惑している兵士達。
「シク様ッ、早くお逃げ下さい!!」
ガルルが叫びながら、次々と兵士を倒していく。
「あはは、強いねぇ……」
部下が次々と倒されているのにも関わらず、そこまで焦りを見せないカールに私は怪訝な表情を浮かべる。
ガルル達は私だけでも逃げろと言っているが、仲間を見捨てて逃げるわけにはいかない──それに気が付けばガルル達四人で、カールの部下達を全員倒してしまった様だ。
そして残ったのはカールと副隊長のみであった。
「まさか、ここまで強いとは……」
副隊長は自分の部下がガルル達に一瞬で倒されたのが信じられない様子である。
「あはは、副隊長落ち着きなよ。確かに予想外だけど今回は戦う場所が悪かったよ」
狭い部屋の中では、人間族の特性であるチームワークが発揮出来ないのが効いたな。
残るは後二人……これなら……
私は足に力を込める。
副隊長は、それなりに強い為、ガルル達でも一瞬で倒す事は出来ないみたいだ。
だが、私ならいけるッ!
未だに、スキル力を制御しきれていなに私だが、副隊長の目の前に一瞬で移動して腹に一撃を与えて気絶させる。
そして、すかさず扉の前に陣取って居たカールに向かって走り出す。
「──ッな?!」
私のスキルを視認したカールはここに来て初めて焦りの表情を浮かべた。
そして、私は拳を副隊長同様にカールの腹に叩き込もうとすると……
「──ッぶないね!」
「ッ?!」
なんと、カールは私の攻撃を避けたのであった。
「今のは危なかった……偵察の時に、君がダブル持ちなのは知っていたけど、まさかここまで早いとは思っても見なかったよ……相当ランクが高いね……」
「でも、避けられた」
「いやいや、副隊長を狙わず最初から俺に攻撃を仕掛けていたら、恐らく避けきれなかっただろうね……」
こいつ、強いな……
しかし、今の目的はカールを倒す事はでは無い。
私の攻撃を避けたカールは扉の前から退いた為、私はガルル達に合図を送る。
「皆ッ、行くぞ!」
ガルルは直ぐに私の意図を汲み取り、皆に声をかけて扉から外に出る。
「あはは、シクさんだっけ? 貴方は何というか不思議な人だ、それに強い。確かに戦闘になったら俺は勝てないだろう」
仲間が全員部屋から出た事を確認した私は自分も後を追う様に足を動かそうとすると、カールが話かけて来た。
「だけど、この城には化け物じみた怖ーいオッサンが居るから、逃げても無駄だよ。諦めて捕まってくれないかい?」
「無理な相談だ」
そう言い残し、私はカールに背を向けて皆の後を追った……
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