第360話

 私と、ガルル、ググガは一人の執事の後に着いていく。


「皆様には、これから屋敷の周りを警護して貰います」


 執事が歩きながら今後の説明をしてくれる。


「なぁ、この屋敷ってどれくらい広いんだ?」

「……」


 ググガの言葉……と言うより言葉遣いだろうか──執事がギロリと視線を向ける。


「ググガさん……言葉遣いには気を付けて下さい」


 執事は、それだけ言うと、ググガの質問には応えずに前を向いて歩き続ける。


「こ、こぇ……」

「今のお前が悪い──言葉遣いには気を付けろと言っただろ」

「だってよ……」


 ググガは少し不満そうな表情をする。


 そして、少しすると屋敷の庭に着く。


「それでは、ガルルさん、ググガさん屋敷の警護についてですが……」


 執事が屋敷について二人に色々説明する。

 警護の内容は一般的なもので、二十四時間制で交代をする様だ。


「ガルルさんとググガさんは、早速今日から警護に入って貰います」

「分かりました」

「分かったぜ!」


 またしても、ググガの言葉を聞いて、視線を向けるが、当のググガは全く持って気にした様子では無かった。


「それと、シク様は警護に参加する事は出来ません」

「何故だ?」

「旦那様から、シク様には何一つ労働をさせるなと言われております」


 プブリウスの命令か……


「見学するのはいいのだろう?」

「えぇ、ですが日が沈んだら屋敷の中に戻って頂きます」


 執事の言葉に頷く。


 それから、お昼まではガルル、ググガ達と一緒に屋敷の周りを歩き回る。

 

 プブリウスは貴族の為、悪い事を企む者達が屋敷に盗みに入るのを防止する為の警護だと思っていた。

 その理解で間違っていない様だが、執事が言うには、その様な者達は、殆どいない様だ。

 

 理由としては、貴族の屋敷に盗みに入り、捕まった者は極刑の為、割に合わないみたいだ。

 そういう盗みを働く者達は金は持ってないけど、捕まっても命は助かる平民達の家に狙うらしい。


「それなら、警護する必要なんてねぇーだろ」

「これも、仕事だ」

「そうだけどよー」


 ゆっくりと、屋敷の周りを歩き回り、何か不審な点が無いか確認する。


「シク様、これからどうされますか? このまま、この屋敷に居ても作戦を遂行するのは難しそうです」


 先程、色々説明してくれた執事は既に屋敷に戻っており、今は私達だけだ。


「まだ、どうすれば良いか分からないが、ガルルの言う通り、ここに居ても作戦を実行させるのは難しそうだな……」

「なら、とっとっと此処から抜け出そうぜ」


 周りに最新の注意を払いながら、これからどうするか三人で話し合った。


 それから、あっという間にお昼になり、執事が屋敷から出て来た。


「シク様、旦那様がお呼びです」

「何かあるのか?」

「お昼を一緒にされたいとの事です」

「分かった」


 プブリウスが呼んでいるとの事なので屋敷に戻る事になる。


「ふぅ……腹減ってたから丁度いいぜ!」

「これくらい大きいならご飯も美味そうだ」

「だよな!」


 ガルルとググガも私の後ろから付いてくるが……


「貴方達のご飯は、まだ先です」

「「あ?」」

「呼ばれているのはシク様一人になります──それに、一般的な奴隷はご主人様と共にご飯を食べる事なんて無いので憶えときなさい」


 私に対しての態度とは違い、ガルルとググガには厳しい表情と声色で注意をする。


「そりゃ、無いぜ!」

「むぅ……」


 二人は不服そうな態度に執事の表情は更に険しくなる。


「この二人も一緒にご飯を食べるわけにはいかないのか?」

「はい。旦那様とご飯を食べられるのは、シク様だけになります」

「では、他の場所でも良いから二人にもご飯を与えて貰いたい」


 私の言葉に執事は首を振る。


「今は、交代の時間では無いので、出来ません。交代したタイミングでお二人にもご飯を与えます」


 私は少し申し訳無さそうに二人を見ると……


「「──ッ!?」」


 何かを察したのかガルルはいきなり隣にいるググガにゲンコツを落とした。


「ググガよ、交代まで待つぞ」

「イテテ……──わかったよ……」


 二人の様子を見ていた執事は再度口を開く。


「分かればいいです。交代の時に他の者が参りますので、それまで警護を続けて下さい──それではシク様はこちらへ旦那様を待たす訳にはいきません」


 私は早々と足を動かして屋敷に向かう執事の後を追って屋敷に中に入る。


「ふぅ……全く、あんな奴らの面倒を見るなど冗談じゃ無い……」


 前を歩く執事が何か話していた様だが小さい声だった為聞き取れない。


 そして、少し歩くと大きな扉の前で一度止まる。


「この奥に、旦那様がお待ちしております」

「分かった」

「その前に少々お待ちを──おい、頼むぞ?」

「かしこまりました」


 執事が扉の前にいた複数のメイド達に一声掛ける。


「シク様、失礼します」


 すると、素早く服に付いていた砂やゴミなどを取り除かれ、更には髪の毛も整えられた。


「お待たせしました執事長」

「ご苦労」


 どうやら、この執事は屋敷の中の執事では一番偉い者の様だ。


 自身の襟首などを整え、執事は扉をノックする。


「旦那様、シク様をお連れ致しました」

「入りなさい」

「失礼致します」


 扉を開けると、そこにはプブリウスが座っており、豪華な料理が所狭しと並んでいた……


 




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