第322話

「あ、あれが炎弾の放った攻撃なのか?」

「どうやら、その様です」


 下ではいきなり放たれた攻撃に慌てていた。


「ふむ──炎弾とは良くロピ殿と並べられて噂されている者ですな」

「あぁ──ロピが雷弾で向こうが炎弾で、良くどっちが遠距離最強か噂されているな」


 俺の言葉にすかさずチルが……


「姉さんの方が強いに決まっています!」


 姉のロピの方が凄いと意気込む。


「ほっほっほ。それは私も同感ですな──今の攻撃も凄かったですが、まだロピ殿の方が凄いですな」 


 リガスまでもがロピの方が強いと話す。


 すると……


「ふふふふ──あっはははははは」


 ロピが大魔王の様な声でいきなり笑い出す。


「炎弾か、なんか知らないけど私の方が強いに決まっているよ!」


 何の根拠も無いのだが、ロピは自身の方が強いと断言する。


 そんなやり取りをしていると、前の方から人影がどんどんこちらに向かって走って来るのが見えた。


「これはヤバそうだな……」


 矢倉から見ると、とんでもない人数の人間が一世にこちらに向かって走りだしてきたのが分かる。


「あわわ、お、お兄さんどうするのー?」


 先程までの態度とは180度違うロピであるが、俺もどうしたら良いか分からない。


 しかし、村の村長であるシャレとキルは冷静であった。


 直ぐに仲間達に弓矢を持たせた。


 射程に人間族達が来たら、防壁の上から、ひたすら弓を打ち込む予定の様だ。


 そして、人間族が弓矢の射程範囲に入り──


「──ッ撃てーー!」


 キルの掛け声と同時にドワーフ族達が次々と矢を放つ。


 放った矢は、こちらに走ってくる人間族達に次々と突き刺さり倒す。


 そして、ドワーフ達は次の矢を構える準備を行なっていると、次は騎士の姿をしたニルトンが叫ぶ様に合図をエルフ達に言い放つ。


「──ッ撃て!」


 エルトンの掛け声と共にエルフ達は構えていた弓矢を放った。


 そして、放った弓矢は人間族達に当たり倒して行く。


 恐らく今のやり取りで最低100人以上は弓矢に当たっただろう……


 しかし、人間族は倒れた仲間を気にする様子も無く武器と盾を片手に持ちつつ、こちらに向かってくる。


 この矢倉から見る限り、倒れた者は背後から走って来ている仲間達に次々と踏み潰されて死んでいるだろう……しかし、人間族達は気しない……


「これが、戦争……?」


 戦う前は、軽い気持ちで居たが、実際に目の前で殺し合いを見ると、圧倒されてしまう……


「アトス様、大丈夫でしょうか……?」


 俺が動揺しているのが分かったのか、隣にいるチルが心配そうな表情をしてコチラを見ていた。


「あ、あぁ大丈夫だ……問題無い……」


 俺は戦場から目を離さずにチルに応える。


「ふむ。アトス殿はこの様な大規模な戦いは初めてなのでしょうから、しょうが無いでしょう」


 リガスがフォローしてくれるが、それは言い訳にならないだろう──初めてと言うのであれば、ロピもチルも同じである。


「お兄さん、安心してよ──どんな事があっても私達が守ってあげるから!」


 ニコリと笑いながら震えている俺の手を握るロピ。


「私も、命に代えてもお守りします」


 チルがもう片手を握ってくれた。


「ほっほっほ。そんな皆さんを私が守りますので安心してください」


 結局、三人に励まして貰ったな──はは、俺は、何回慰めて貰わないといけないんだよ。


 余りにも情けない自分に笑みが溢れる。


 はぁ……ダメだダメだ!


「こんなんじゃ、ダメだな!」


 俺は勤めてニコリと笑う。


「悪かった! もう大丈夫だ」


 俺は一度自身の頬を叩き気合を入れる。


 まだ、前世の記憶を引きずっちまっているな──いかんいかん。


「ふふ、いつものお兄さんに戻ったー?」

「あぁ、もう大丈夫だ」

「良かったです」

「ふむ。やはりリーダーはそうで無いとですな」


 目の前で起きている殺し合いに、若干圧倒されてしまったが、もう大丈夫だ。


 俺はヤルぞ!


 そして、再度戦況を確認する為、戦場に意識を向けると、人間族達は既に門の前に付いていた。


「もう、あんな所まで来たのか」


 人間族達が門を壊そうと、何十人もの人間が大きな大木を持ち、門に向かって突っ込んでいた。


 門と大木が当たる度に、大きな音が鳴り響き、大きな門に亀裂を入れる。


「よっしゃ──お前らもう一度当てるぞ!」

「この門をぶち壊せば、念願のエルフ達に会えるのかよ」

「かぁー、楽しみだね! 上にいる奴らでさえ、物凄い美人揃いだぜ」


 欲望丸出しの会話を、わざと聞こえる様に話しているのでは無いかと言うくらいに大きな声で話し合っている。


「「──ッ撃て!」」


 そして、そんな人間族達に向かって防壁の上から弓矢の雨を降らすエルフ族とドワーフ族。


 しかし、人間族は器用に持っている盾を、まるで傘の様に構えて弓矢を防御していた。


 もちろん、盾の隙間を縫う様に弓矢が突き刺さるが、シャレ、ニルトン、キルが考えている様な大きな痛手を負わす事が出来ない様子である。


「──ッく、どうすれば……」

「シャレ様──とにかく今は撃ち続けるしかありません!」


 付き人の二ネットに言われ、シャレは肯く。


 そして、エルフとドワーフ達はひたすらに弓矢を放ち続けるのであった……

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