第273話 アトスの目覚め

「うぅ……ここは……どこだ……?」


 俺は目が覚めると知らない天井が目に映り込んだ。身体を動かそうとするがとても重く感じ起き上がる事さえ一苦労だ。


「な、なんだ……? 身体重い……」


 そして、両手を使って起き上がろうとすると左側の方に傾いてまた後ろに倒れ込んでしまう。


「そっか……左腕無くなったんだよな」


 気合を入れ直して右手を器用に使い起き上がる。


「知らない場所だな」


 顔を動かし周りを見回すが、やはり見た事の無い部屋である。すると、部屋の扉が開いたので顔を向ける。


「アトス様、失礼します」


 入って来たのはチルの様で、俺の姿を見ると一瞬固まり、叫び声の様な声を上げて近付いて来る。


「アトス様──起きたんですね!?」

「あぁ。ここはどこなんだ?」

「ここは、シャレが村長をしているエルフ族の村です」


 チルに更に質問を投げ掛けようとすると、廊下の方からドダドダと音を鳴らしながら部屋に入って来る者が居た。


「お兄さんが目を覚ましたって!? ──お兄さん!!」


 ロピは勢い良く飛び込んで来て、俺はそのまま再度後ろに倒れ込んでしまう。


「お兄さん、お兄さん! うぅ……良かったよー!! ずっと寝てたんだもん、このまま目を覚さないかと思ったよ!」


 どうやら、感情が溢れ出てしまったのかロピは涙目になっている顔を俺の胸に擦り付ける様に埋めて、強く俺の腰を抱きしめた。


「お兄さんの匂いだ……」


 心配してくれるロピの姿が嬉しく俺は頭を撫でる。


「えへへ、もっとやってー」

「はは、甘えん坊め」


 そんなやりとりを見ていたチルが姉のロピを引き離す。


「姉さん、そこから早く退いて! アトス様は怪我人なの!」

「ベーっだ! 私は今まで補充出来なかった分のお兄さん要素を補う必要があるから退きません!」

「退いてよ!」


 チルがロピを引き離そうと力を入れる。


「ぐぬぬ……チルちゃん──やーめーてー」


 ロピは力に逆らう様に俺の腰に回している手に力を入れて必死に抵抗する。


「チ、チルちゃんもこっちおいでよ! 一緒にお兄さん成分を堪能しよう?」


 ロピの提案が魅力的だったのかチルは力を弱める。そして、コレか! と言わんばかりにロピは丸め込む様に話す。


「チルちゃんもお兄さんがずっと眠っていて寂しかったもんね! ほら、私の逆側が空いているよ!」


 ロピの言葉にチルは目線を向けて更に俺の方を見てきた。


「はは、チルも来るか?」


 俺は優しく笑い掛けると、チルは勢い良く飛び込んで来た。


「アトス様! 私とても心配しました!!」

「はは、ごめんな心配掛けて」


 ロピ同様に俺の胸に顔を埋めて顔だけ左右に振るチル。そして腰に手を回して俺の事を力一杯抱きしめて来る。


「よしよし」


 手は一つしか無い為二人を同時に撫でる事は出来ないので俺は暫くの間順番ずつ交互に頭を撫でてあげる。


「えへへ、チルちゃん気持ちいいね!」

「うん、心地良い……」


 二人は目を細めながら、堪能している。すると更に一人部屋の中に入ってきた。


「ほっほっほ、お目覚めになりましたか」


 声の正体はリガスであった。


「あぁ、まだ状況が飲み込めないが心配掛けた様だな」

「ほっほっほ。いえいえ全く持って心配要りませんぞ」


 そしてリガスも近付いて来て俺の肩に手を置く。


「良くぞ、あの状態から起き上がってくれました……」


 顔は笑っているが、声色はとても心配していたのが分かる。


「私とチルちゃんと魔族さんが日替わりで順番にお兄さんのお世話してたんだよ!」

「そうなのか? ありがとうな」

「えへへ、お兄さんだからだよ! 特別なんだよ?」

「アトス様の為なら死ねます!」


 はは、チルの言葉が重いが、なんだか帰って来た感じがするな。


 すると、お腹から音が鳴った。


「あはは、お兄さんお腹減ったんだよね」

「ずっと寝たきりだったのでしょうがないです」

「ほっほっほ。では私が手の込んだ料理でも振舞いますかな」


 リガスの言葉を聞いて、よりお腹から大きな音が鳴る。


「あはは、もうお兄さんは食いしん坊なんだからー!」

「いや、ロピには言われたくないな」


 俺はニヤリと笑ってロピを見る。


「あはは、そんな事言っても説得力ないよー」


 笑うロピにチルが呟く。


「姉さんだけにはアトス様も言われたくないと思う……」

「……ん?」


 笑顔を貼り付けたままロピはチルの方を向く。


「ほっほっほ。ロピ殿には流石に負けますな」

「……んん?!」


 続いてリガスの言葉にも反応する様にして顔を向ける。


「あ、あはは──みんな冗談だよね? 私そんなに食いしん坊じゃないよ?」

「「「……」」」

「あーん、酷い!!」


 皆んなの反応にショックを受けた様だが、ロピも含めて全員の表情は笑顔だ。


「ほっほっほ。アトス殿が居るとやはりいいものですな」

「リガスの言う通りです。今までアトス様が眠っていたので寂しかったです」

「やっぱり家族四人が一番だよね!」


 はは、左腕を失ってまでも三人を助けて良かったな。

 俺は改めて三人の様子を見て自分が取った行動の正しさを認識した。


「では、色々聞きたい事もあるでしょうが、それはご飯を食べ終わってからにしましょう」

「賛成ー!」

「リガス、私も手伝う」


 こうして俺は何日振りか分からないがリガスの美味しいご飯を堪能した。



 

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