過酷な場所で生き抜く為に

第254話 ガバイの暗躍

　夜の静まり返った時間帯に外を出歩く者達がいた。

　それも、一人では無く何人もである。人数の割に物音一つ立てずに次々とある場所に全員が向かっている。

　その姿は誰かに見られたく無いのか皆がフードを目深に被り、まるで隠れる様に小走りしている。

　そして、ある一人の男が建物の中で次々と入ってくる者達を出迎えていた。

「皆さん、良くきてくれましたね。さぁさぁお座り下さい」

　その人物とはガバイであった……

「おい、サット、マット皆に飲み物を用意しろ」

「親父、俺達がこんな事する意味あるのかよ？」

「こんな事する位なら村の女と遊びてーよ」

　指示に不満を垂らす子供達にガバイは溜息を吐く。

「いいから、やるんだ」

　どうせ、説明をしても理解しないと思ったのかガバイはただ命令をするだけに留め、建物に入ってくる村人達を出迎える。

「さぁさぁ、こちらです。息子達が飲み物を用意しますので席に座ってお待ちください」

　暫くの間、ガバイは建物の入り口で他に村人が来ないか待機していたが、やっと落ち着いた様で一度周囲に誰か居ないかを念入りに確認して扉を閉めた。

　そして、村人達が座っている一番前まで移動して建物全体を見回す。

「半分くらい集まりましたね……」

　人数を見ると村の半数が建物内に集まった様である。

「親父、大丈夫だ周囲を見回したけど誰もいない」

「本当か？」　

「俺もマットも念入りに探したし、特にデグとシクに関しては注意深く確認したけど、気配が無かったから大丈夫だ！」

　サット、マットがガバイを挟む様に立ち並び少し後ろにズレて姿勢を正す。

　二人の様子を一度見てガバイは頷き、そして集まった村人達に向かって話し始めた。

「皆さん、本日はお集まり頂きありがとうございます」

　ガバイは芝居掛かった仕草で頭を下げてから本題を話し始める。

「今回集まって頂いた理由は、野蛮人に対してです」

　ガバイの言葉に騒つく村人。

「最近になり村長のデグさんがこの村に野蛮人達を受け入れました。確かにこの村に入る前にデグさんは種族間に分け隔て無くどんな種族も受け入れると仰っていましたが、果たして本当にそれでいいのでしょうか？」

　ガバイの問い掛けに席に座っている村人達が立ち上がる。

「良いわけねぇーだろ！　俺達人間族が獣人族と同じ扱いなんて間違っている！」

　次に一人の女が席を立ち上がる。

「そうよ！　本来人間族以外の他種族なんて人間じゃ無くてモンスターと同列で討伐するべきよ！」

　この場には同じ様な考え方を持った人間達しか居ない為、過激な発言さえ全て賛同されている。

「今、お二人が良い事を言ってくれました。その通りなんです！　本来野蛮人共は奴隷、あるいは家畜として村に置いとくべきものであって、決して仲良く暮らしていく存在ではありません！」

　ガバイの演説を聞いて、村人達が盛り上がって来てしまい、少し落ち着かせる様にガバイは口元に指を持っていき静かにさせる。

「どうやら、私の考えと皆さんの考え方が同じ様で安心致しました」

　ガバイの少し後ろでサットとマットが小声で話す。

「へへ、親父の口車に良い様に踊らされているな」

「はは、サット声がデケェーよ。本当に親父はこういうの上手いよな」

　ガバイは二人に睨みを利かせて黙らせる。

「では皆さん、こういうのは如何でしょうか？」

　ガバイが村人達に対してある計画の一部を話し始めた。全ての計画を話すにはまだ早いと思ったのか巧みな話術にて村人達をどんどんと丸め込む。

　この場にいる村人もそうだが、デグの村にいる全員がまだガバイの思惑に気が付いて居ない……

「それでは皆さん、今回はここまでと致しましょう。今私達に大事な事は決して他の者達にバレない事です」

　どこからかデグ達に計画がバレてしまったら大変である。

「デグさんは完全に野蛮人達に丸め込められて洗脳されております……」

　演技なのだろうが、ガバイは悲しそうで悔しそうな表情を浮かべる。

「しかし！　他の村人達なら、まだ洗脳を解く事が出来るのです！　なので、この計画は慎重に進めていきましょう」

　ガバイの言葉に全員が黙って頷く。

「いいですね？　態度は今まで通りにして下さい。ですが決して野蛮人達の口車に乗せられ無い様にお気をつけて下さい」

　ガバイの演説が終わった頃には大分夜遅くになっており、普段なら寝静まり返っている時間帯であった。

　村人達は怪しまれ無い様に気付かれない様に、忍足で自分達の家に戻ったのであった。

「親父おつかれー」

「いやー、流石親父だぜ！」

　サットとマットはこう見えて親であるガバイを尊敬しており、目標としている様だ。

「お前達も目先の快楽だけを追うのでは無く先を考えなさい」

　いつも何を考えているか分からない不気味な笑みを取り外しサットとマットを教育するガバイもやはり一人の親なのであろう……

「この計画は絶対にデグ達にバレてはいけない。いいな？」

　ガバイの言葉を真摯に受け止めているのか、サットとマットも真剣な表情を浮かべて頷く。

　今、村でガバイによる暗躍が行われているとは気付かないデグ達であった……