第173話 撤退……?
「シャレ、私の事だけはなんとしても守れ!」
現在リンクス率いる一班は危機的な状況にあった。
三日目と言う事で前回同様にモンスターが大量に現れると予想していたにも拘わらず、予想以上の数のモンスターが出現し壊滅状態である。
そして一班の前には中型まで現れたのだ……。
「シャレ様、どうしますか?!」
エルフの一人が弓矢を撃ちながらも、大鎌を持ったエルフに問い掛ける。
周りを見渡すと多くのエルフ達が小型の相手をするのに必死で中型まで手が回っていない様だ。
「この状況で中型は流石に相手が出来ない、防御に専念しつつ、逃げるのに徹する」
シャレの指示により一班はモンスターを倒す事ではなく、逃げる為の攻撃を開始する。
それは極力モンスターを刺激せずに必要最低限の小型を討伐しながら少しずつ後ろに下がる事であった。
「シャレよ、大丈夫なのだろうな!?」
リンクスの慌てた様な金切り声を聴きながらもシャレは状況を常に把握し、最善の手を考える。
それは人間族のリンクスの為では無く、今も一緒に戦っている同胞のエルフ達の為である。
(どうする……? 中型まで出現するとは思わなかった。人間族なんてどうなっても良いが、せめてエルフ族だけでも逃がすか……?)
シャレ自身もこの先どの様に逃げれば良いか思いつかない様だ。
(中型が居なければどうにでもなったが……)
「シャレよ、早くその一番大きなモンスターを倒すのだ!」
リンクスの指示に周りに居たエルフ達は驚愕する。それは、この状況で中型を相手にするなんて愚の骨頂だと分かっているからだ。
だが、リンクスは知識としてでしかモンスターの事を知らない為に中型討伐人数に足りている、今の状況なら当然倒せると思って、指示を出している。
「早く倒さんか!」
(コイツを置いていくか? いや、そうしたら報酬が貰えないか……)
ここまで来たからには報酬が欲しいのも当たり前である。
「リンクスよ、この混雑した状況では中型を倒すのは無理だ」
「な、なんだと? ならどうする?」
「先程も言ったが逃げるしか手は無い」
シャレの言葉を聞きリンクスは悔しそうな表情を浮かべたが、周囲を確認しシャレの言っている事が正しいと理解する。
「クソ……わかった、撤退する。直ぐに準備しろ」
「そうしたいが中型が私達の班を標的にしている以上逃げ切るのは無理だろう……」
「それは心配するな」
どうやら、リンクスには中型をどうにかする手があるらしい。
「何か良い手があるのか?」
シャレの言葉には反応せず、リンクスは副官に指示を出す。
「副官よ、三班だ!」
「承知致しました!」
リンクスと副官が何やらある物を三班に投げ付けた。
(一体何を投げ付けた?)
投げ付けたある物が三班の数人に当たり粉末状に散らばった。
すると、中型がいきなり標的を三班に定めて追いかけ始めたのである。それは中型だけでは無く小型達も目の前に居る人間達を無視して、三班を一斉に追いかけ始めたのだ。
(なんでいきなりモンスター達が?)
シャレの疑問に答える様にリンクスが話し出す。
「アレは我々人間族が開発したものだ。モンスターを惹きつける為の粉末を丸めたもので、当たった者を追い掛ける様になっている」
「では、お前と副官が三班に投げたって言うことは……」
「その通り、モンスター達は三班をひたすら追いかけ続けるだろう」
「そんな事したら三班は全滅するぞ?」
冷めた声色で、シャレはリンクスに問い掛ける。
「構わん。どうせ三班から五班までは捨て班だ。こういう時の為にいたのだから。それにシャレよ貴様は綺麗だからな、私の班に編成した。感謝しろよ?」
まだ、完全には戦闘が終わってないと言うのに、この前同様に上から下を舐め回す様にシャレを見ていた。
(気持ち悪い奴だ。これだから人間族は嫌いだ。私には関係ないなが三班は可哀想だな)
シャレは三班の背中を見ているとあっという間にジャングルの中に消えた。
(リンクスとか言うこの男は一体何を目的で人を集めてここ来ているのか不明だが要注意だな)
アトス達同様、シャレもリンクス達の事を怪しく感じ始め、自分達の身の振り方を考え始める。
(私達エルフもいつ切り捨てられるか分からないな)
「シャレよ、今の内に我々は逃げるぞ」
三班が殆どのモンスターを惹きつけてジャングルの奥に行った為現在モンスターは数匹程度しか居ない。三班を除く他の班の手によりモンスターは直ぐに討伐された。
すると副官がリンクスに近づき耳打ちをしている。
「リンクス様、ここは撤退が最善策かと」
「だが!」
「命があってこそです。何かが起きてからでは遅いのですよ」
副官がリンクスに助言する様に小声で呟く。
そしてリンクスは頷く。
「皆の者撤退する、現在三班がモンスターを惹きつけてくれている。三班の命を無駄にしない為にも逃げるぞ!」
(自分で囮に使ったくせによく言うもんだな)
それからは来た道を三日三晩掛けてドワーフの村に戻ったが、その途中で何度もモンスターの襲撃にあった。だがその度に例の粉末や丸めた物を捨て班である四班、五班に投げ付け囮に使った。
結局ドワーフの村に着いた時には一班と二班しか残っていなかった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます