第172話 三日目
問題の三日目になった。
「皆んなおはようー」
ロピが目を擦りながら挨拶をしてくる。
「お兄さん、よく眠れた?」
「いや、こんな場所じゃ無理だな」
「あはは、そうだよねー。私なんて怖くて結局一睡も出来なかったよー」
俺は、ロピも繊細な所があるなと思っていたら、チルがロピの顔をジッと見ていた。
「ん? チルちゃんもおはようー」
「姉さん、目ヤニ付いているよ?」
「え!? そ、そんな事ないよ!」
ロピよ残念な子だ……。
慌てて目ヤニを取った後、少し照れた様に話し掛けてくる。
「あ、あはは。今日も頑張ろうねお兄さん!」
「……」
「黙んないでよ!」
朝からロピのお陰で少しリラックス出来たが今日は気を引き締めないとな。
「今日は大変な日になりそうだから、皆んなしっかりな」
俺の言葉に三人は深く頷く。
「それでは皆さん本日もよろしくお願いします」
全班一斉に歩き出すが、三日目とあって参加者が疲れているのを感じる。だが、一番気合いを入れないといけないのは今日である。
「リーダー」
「なんでしょうか?」
俺が話し掛けても、リーダーは周囲の状況を常に確認しているのか、あちこちを見回しながら返事をする。
「三班全員が疲れを見せている、今日はマズイかもしれないぞ」
「分かっています……ですが、まだ命令に逆らえません……」
申し訳無さそうな声色だが、リンクスや副官に悟られない為に表情に出さない様にしている。
「どうにも出来ないって事か……」
「えぇ。ですが混乱状態になったら別です。既に三班全員には緊急時になったら私が合図をするので、付いてくる様に伝えています」
「分かった」
俺は三人の所に戻る。それにしても既に三班全員に緊急時の話をしているとは思わなかったな。やはりリーダーは三班全員を本気で助けようと思っているらしいな。
「お兄さん、おかえりー」
「お帰りなさいませ。どうでしたか?」
「あぁ。緊急時の合図があったら全力で追い掛けてくれだってさ」
「ほぅ。やはり今日あたりが鬼門って事でしょうか?」
「信じて大丈夫なのー?」
ロピとチルは少し心配そうにしている。
「ここまで奥に来たら俺達だけで流石に戻れないし、三班全員で協力した方がいいと思う」
「アトス殿の言う通りですな」
今更だが、金の為にこんな場所まで来なかったら良かった……。
そして、とうとう懸念していた事が起きた。
「小型出現!」
他の班から声が上がる。
「小型二体出たぞー!!」
また、他の班から小型の出現報告が聞こえた。
そして……。
「ちゅ、中型が出たぞーーーー!!」
一際大きな声の方を見ると、そこには中型と小型が集団で他の班を襲っていた。
「ふむ。とうとう始まった様ですな」
「中型なんて倒せるの……?」
「アトス様、どうやら私達の所にもモンスターが現れた様です」
チルの言葉を聞き前を向くと、二体の小型が現れた。
「お、おい後ろにも現れたぞ!」
声に反応する様に背後を向くと、小型が一体こちらに近づいて来ている。
「ど、どうするんだよ!」
「やるのか?!」
参加者は困惑しており、リーダーからの指示を待っている。
辺りを見回すと小型はどんどんと集まって来て、俺達人間を捕食する為に近付いて来ている。
「さ、流石に多過ぎないか?」
「これは、早く逃げないと包囲されますな」
ここのモンスター達も前に感じた普通のモンスター達とは違い考えながら行動している様に見える。
「お兄さん、なんかモンスター達逃げ場を無くすように周囲を固めてない?」
ロピの言葉を聞き確認してみると、確かに小型は一斉にこちらに向かって来る訳ではなく俺達人間を囲む様に円状に包囲を固めようとしている様に見えるな。
「リーダー、どうするんだよ!」
「俺達は戦うのか? 逃げるのか?」
参加者達も早く行動しないと不味いと感じたのか、リーダーを急かす様に質問を投げかける。
「皆さん! 緊急事態です、撤退するので私に着いて来て下さい!!」
この状況になれば、命令違反しても問題無いと確信したのか、リーダーが三班に合図を送る。
「お兄さん、合図だよ!」
「あぁ。俺達も逃げるぞ」
チルは既に逃げる場所を探し周囲を警戒している。
「確かに、この状況は全力で逃げるべきですな」
リーダーの後に着いていく為に三班は総出で追い掛ける。
逃げる間際他の班を確認すると、どの班も似た様なもので、小型に取り囲まれている状況であった。
しかし、リンクス率いる一班だけは中型を相手にしている為恐らく助からないと思っている。
「リンクスはどうでも良いがエルフは可愛そうだな……」
まぁ、人の心配をしている場合でも無いけどな。
三班だけでは無く、各班がそれぞれ散らばる様に逃げ始めたが、リンクスと副官が俺達三班に向けて或るものを投げつけて来た。
「う、うわ、なんだ?!」
「左右の班が俺達に何か投げつけやがったぞ」
「とりあえず、逃げようぜ!」
リンクス達が投げつけた物を受けた参加者は文句を言いつつも逃げる事を優先したが、その出来事を見ていたリーダーの顔は驚愕していた……。
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