第167話 出陣

 百の兵士が行軍するのは圧巻の一言だ。

 以前に居た世界なら人間が百人なんて少し栄えている場所に行けば、その倍の人数すら直ぐに見られるだろう。

 だが、この世界で百の人間を見る事はそうそう無い。


「人がいっぱいだねー」

「姉さん、ウロチョロしてたら逸れるよ?」

「ほっほっほ。この人数で臨むなんて初めてですな」


 目的地までは比較的緩やかな雰囲気で他の人達も仲間や周りの人達と楽しそうに話しながら歩いている様だ。


「この雰囲気も、さっきの人が影響しているのかなー?」


 ロピの言う通り、先程リンクスの演説の影響で、皆んな堂々としているし、何やら自信に満ち溢れている様に見える。


 現在一番前を歩いているのがリンクス達兵士なのだが、参加者とは逆で話など一切せずに統率の取れた動きで規則正しく行進している。


「前の人達静かだね」

「うん。全然話してない」


 参加者と兵士達の表情がまるで正反対である事に疑問を持つ者は俺達以外に居ないのだろうか?


 まぁ、実際は報酬さえ貰えればいいからそこまで意識しないよな……。


「この人数で移動してたら流石にモンス……」

「姉さんダメ」


 ロピが何かを言い出す前にチルが手でロピの口を抑える。


「?」

「そう言う事を言うと本当に出てくる」


 コクコクとロピが頷くのを確認してチルは手を退ける。


 だが、チルの行動虚しく、それは起きた……。


「小型が現れたぞーー!!」


 列の真ん中ら辺から複数の声が上がる。


「あーぁー、ロピのせいだわ」

「え!?」


 俺の言葉にロピが反応する。


「これは姉さんのせい」

「チ、チルちゃん!?」


 チルも同じ意見の様だ。


「ほっほっほ。ロピ殿のせいですな」

「違うよね!?」


 三人から非難の視線を受けたロピは焦っている様だ。


「わ、私が言わなくたってこの人数なんだし、いずれモンスターと遭遇していたって!!」

「「「……」」」

「何か喋って!?」


 俺達が話している間に複数の参加者が我先と小型に飛びつく様に攻撃を始める。


 人数も人数なので小型は一瞬で討伐された。


「なんで、あんなに小型に群がったんだ?」

「確かにそうだよねー?」

「不思議です」


 俺と獣人姉妹は首を傾げているとリガスが説明してくれた。


「ふむ。恐らくこの戦いで少しでも自分の名を上げたいんでしょう」

「名を上げる?」


 チルの質問にリガスは丁寧に説明を続ける。


「はい。名声と言ってもいいと思いますがこの参加者の中で活躍するのが目的ですな」

「活躍する意味とかあるのー?」

「そうですな。参加者内で活躍すれば貰える報酬の配当が多く取れるからでしょうな」


 確かに。この戦いで活躍した者と何もして無い者が同じ報酬額を貰うのはおかしいだろう。

 やはり命が掛かっている為、そこら辺の評価は皆んなシビアである。


「恐らく活躍した者は活躍の度合いにもよると思いますが、宝箱一つ貰えると思いますぞ?」

「ホント!?」


 リガスの言葉にロピが食い付く。


「なら、私達も活躍すれば武器代を払ってもお釣りが来るね!」

「ほっほっほ。そうですな」

「ならここでノンビリしてたら獲物を取られちゃうよ!?」


 ロピは俺の腕を引っ張る様にして前の方に行こうとしている。


「ロピ、落ち着け」

「で、でも活躍しないと!」


 前に視線を向けたり、俺に視線を戻したりと、よほど前に行きモンスターを倒したいらしい。


「まぁ、聞け。今活躍しようとして頑張っても疲れるだけだ。だったら本番である目的地で活躍した方が目立てる!」

「お? おぉー!」


 俺の説明に納得したのか、パチパチと拍手しながらロピは足を止めた。


「ほっほっほ。アトス殿の言う通りですな。ここで体力や精神を減らすよりかは目的地まで体力を取っといたほうが良いと思いますぞ?」

「確かに!」


 ロピは完全に納得したのか大人しくなり普段通り歩き出す。


「目的地着いたらバリバリ倒すよ!」

「私も頑張ります!」


 ロピとチルは仲良く手を繋ぎながら少し前を歩く。

 完全にモンスターが現れても他の参加者に任せる気満々の様だ。


 その後もモンスターは度々現れたが直ぐに討伐される為特に危険も無く夜が来て野宿する事になった。

 人数がいるので見張りなども楽で睡眠時間も取れる編成で有難い。


「あと、どれくらいかなー?」

「この人数だと流石に目的地まで時間かかりそうだな」

「通常であれば三日で着くと仰っておりましたな」

「それまでに少しでも強くなります!」


 チルは俺達の少し離れた場所で型の訓練をしている。


 そして目的地に着いてからの事を少し話し合う。


「目的地に着いても最初は戦闘に参加しないでいようと思うんだ」

「えー、なんでー?」

「まずは全体を見たいのと、危険だった場合に直ぐに逃げ易いように逃げ道の確保だな」

「アトス様に賛成です。ここでお金の為に無理して命を落とすより良いと思います。」

「ふむ。私も賛成です」

「わ、私も!」


 こうして目的地到着してからの方針をパーティ内で決め、他にも戦闘のフォーメーションや注意事項などを話し合い、より安全にドワーフの村に帰れる様話し合った。

 

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