第154話 山神様の正体……2
俺とベムはシクさんにアトスの事、アトスから聞いたシクさんの事、そして俺達を助けてくれた事を一日掛けて説明をした。
「以上が俺達が知っているシクさんになる」
「私の名前はシクで、アトスと言う少年の親……」
「はい。シク様はアトスを宝の様に扱っている感じでした……」
シクさんの髪の色が前に会った時と違ったが、恐らくモンスターに追いかけ回されてとても強いストレスにより変わってしまったのだろう……。
「ダメだ……思い出せない」
「アトスについては俺達も探しているんだが未だに見つからねぇ」
「人間族の住処には?」
「先程も説明したが中型が襲ってきた時にアトスは逃げたと聞いたから居ないはずだぜ」
シクさんに全てを話したが、記憶は戻らないようだ。何かキッカケがあれば良いと思うが、そのキッカケを与える事が出来るのはアトス以外考えられない。
「山神様、まだ記憶は戻りませんか?」
「あぁ。頭の中で白い靄が掛かっていて思い出せん……」
「やはり、アトス君に会うしかなさそうですね」
アトスについてもシクさんには話した。人間族の住処以外に行く候補が思い付かない為、今後どうするか考えている様子だ。
「アトスか……。記憶には無いがいい名前だな……」
シクさんは窓の外を見ていた。
「あのシク様……」
ベムは緊張した面持ちでシクさんに問い掛ける。
山神と名乗っては居たが、恐らく目の前にいる人物はシクさんだろうと、言うことで、俺達はシクと呼ぶようにした。
「良ければこの村で暮らして一緒にアトスを見つけませんか……?」
「この村でか?」
「そりゃー良い考えだ。俺達もアトスの事は探すつもりだしな」
シクさんは顎に手を置き考えている様だ。
「それに闇雲に探しても、この広いジャングルから見つけるのは困難だと思います……」
「確かにな」
「山神様どうなされますか?」
「そのアトスと言う少年をどうやって見つける気だ?」
今度はシクさんの方が俺達に対して問いかけてきた。
「向こうから見つけてもらう予定だぜ」
「向こうから?」
「はい。私達の方から探すのは継続しますが、この広いジャングルですから難しいと思います」
流石にこの広大なジャングルで何年も手掛かりの無い人間を探し出すのは困難だからな……。
「ですから、この村を有名にしてアトスの方からこちらを見つけて貰います……」
「なるほど」
「それにシクさんが居ると知ったらアイツ飛んで来るぜ?」
「それはあり得る……」
暫く考え、小声でレギュに確認を取ってからシクさんはコチラを向いた。
「二人共、色々ありがとう。甘える事にするよ」
「山神様共々お世話になります!」
「やった……」
「よし!」
俺とベムはついついガッツポーズをして喜んでしまった。
「ならシク様とレギュは私の家で暮らして下さい……」
「いいのか?」
「はい。シク様なら大歓迎です……」
「ベムさんよろしくお願いしますね!」
「うん。レギュも歓迎する……」
ベムは笑顔で迎え入れた。
はは、ベムの奴よっぽど嬉しいんだな……。最近はあんな笑顔見た事無かったぜ。
それから次の日は早速村人達全員を集めてシクさん達の紹介をする事にした。
「おう、皆んな! 忙しいのに集まってくれて悪りぃーな」
俺が話し出すとガヤガヤした喧騒は止み、全員がこちらに注目してくれた。その中にはガバイ達も入っている。
「今日はこの村に新しく入った二人を紹介するぜ」
俺が笑顔で二人を前に呼び、出てくるシクさんとレギュ。だが村人達は俺の表情とは真逆であった。
「おいおい、新しい村人って獣人族か?」
「いや、奴隷の聞き間違いじゃないか?」
「流石に私達と同列ってあり得ないわよね」
その言葉を聞いて俺はキレそうになる自分を一呼吸して落ち着かせる。そして改めて大きな声で言う。
「この二人が今日から村人として暮らす、シクさんとレギュだ」
二人に村人の視線が集まる。レギュは注目される事に慣れていないのかジリジリとシクさんの後ろに隠れる様に移動している。そしてシクさんはいつもと変わらず堂々としている。
「流石シク様……」
ベムがシクさんを見る時は目にハートを浮かべているな……。
まぁそれ程シクさんが俺達にしてくれた事は大きいし俺もシクさんの事を慕っているしな。
「村を作る時も言ったし、村人を受け入れる度にも言ったが、この村は種族関係無く暮らしていける村にするつもりだ。もしこの中にシクさんを貶める発言や行動を取った奴が居たら速攻でこの村から追放する!」
俺の怒気が篭った発言に、村人達は困惑している。
「ナイスデグ……」
ベムは俺の発言に何度も首を振っていた。そしてベムも発言する。
「このシク様は私とデグの命を助けてくれた人。もしシク様を馬鹿にする様な言動を見たら私はソイツを許さない!」
珍しくベムの怒気が篭った発言に村人達は更に困惑している様だ。
まぁ、俺達が勝手にシクさんと思っているだけで、もしかしたら違う可能性も……いや、それは無いか。
「お、おい。ベムさんが獣人に様付けしているぞ!?」
「あのシクって奴が二人の恩人なのか? 嘘クセェーな」
「えぇ……。なんかショック……」
過激な発言をしているのは極一部で、比較的最近村に住み着いた者達である。他の村人は動揺はしたものの二人の命の恩人と言う事で好意的に受け止めている。
「ふぅ……。ここまで言えば大丈夫か?」
「私的にはまだ足りない……」
「あまり言い過ぎても萎縮しちまうしな」
「シク様をバカにする者はさせとけばいい……」
「おいおい……」
それからシクさんは最初は美人だが表情が怖いと近づく村人は居なかったが常にベムが付きまとう様に一緒に居るところを見て徐々に村人達の方から声をかける様になった。
だがガバイだけは何やら色々思う所がある様だ……。
「獣人なんかを私達と同列に扱うなんて、やはりアイツは馬鹿だな。これは作戦を早めるか……」
この時、ガバイ達の策略に気付いている者は誰もいなかった……。
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