第141話 急造パーティ 2

「ググガ態勢を立て直すぞ!」

「分かった兄貴!」


 小型が商人とその弟子を二人捕食していた。それを見た他の者達は完全に意気消沈している模様だ。


「ピタ! 他の者の状況は!?」

「他の人達に大きな怪我は御座いません!」

「けど兄貴、ビビって使いものにならねぇーぜ?」


 三人は周りを見回すと、殆どの者が残酷な光景を目の当たりにして座り込んでしまっている。今は小型が成長する為に動きを止めているから大丈夫だが、再び動きだしてしまったら、殆どの者が捕食されてしまうだろう……。


「皆! しっかりするんだ」


 ガルルが周りに対して大きな声で叫ぶが殆どの者には届いていないようだ。


「皆さん早く立ってください!」


 ピタとガルル、ググガが座り込んでいる人達に駆け寄り無理矢理立たせて体制を再度立て直しているようだ。そしてなんとか小型が動き出す前に態勢を立て直す事が出来たが先程までの勢いが無いように思える。


「ガルルさん少々不味い状況ですね」

「ピタの言う通りだぜ。人数が居ても半分は使えねぇー連中だ!」

「うむ。それに小型は二人を捕食した分先程より成長している……」

「ますます、やべぇーじゃねぇーか」


 話している間も全員で成長中で止まっている小型に攻撃をしているが二人も捕食した小型の外装には傷一つ付かないようだ。


「ッチ! 兄貴どうする!?」

「ガルルさん撤退も視野に入れないと全滅するかもしれません……」


 ググガとピタに言われ黙り込んでしまう。ガルル自身元々人をまとめ上げる柄では無いと思っている。だが今は纏める者がいない事も分かっている。


「……やるしか無いか」

「あん? なんか言ったか?!」

「いや、何でもない」


 そしてとうとう小型が動き始めた。商人達は恐怖し足が震えている者だったり、再び座り込んでしまったりしている。


「よし、やるか……」


 ガルルは一つの決意を自分の中で決めた。


「皆、逃げるぞ!」


 ガルルの言葉に一瞬の静寂が訪れる。


「俺が突っ込むから、その間に逃げてくれ」

「ダメに決まっているだろ!」

「そ、そうですよ」


 ググガとピタが叫ぶ。


「ググガよお前には他の者をまとめ上げて無事に皆を逃して欲しい」

「嫌に決まっているだろ!」

「……すまないな。頼むぞ!」


 ガルルはそれだけ言うと小型に向かって突っ込む。そして直ぐに兄貴を追うようにググガ走り出す。


「まとめるのはピタ、お前に任せた!」

「ガルルさん、ググガさん!」


 二人は小型に向かって走り出す。そしてググガが追って来た事に気付いた。


「ググガ何故!?」

「はん! 兄貴だけ良いかっこさせねーよ!」

「お前って奴は……」


 そして二人は不敵な笑いを浮かべて小型に走り寄る。


「おっしゃー! 俺から行くぜ!」


 ググガは小型にスキルで強化した蹴りを放つ。そして続けて同じ箇所にガルルも蹴りを放つ。このコンビネーション攻撃で本来なら小型にダメージを与える事が出来るが成長した小型には効いていない。だが今の二人の目的は倒す事では無くこの場から動かさない事である。


「おっと! あぶねー」

「気を抜くなよ!」

「へへ、分かっているって!」


 二人はいつも攻撃を担当している為小型を惹きつける動きに慣れておらず、何度か攻撃がかすったりしている。だが皆を逃がす時間を稼ぐ為必死に攻撃をして避けたりなどをする。


「はぁはぁ、兄貴へばって来たんじゃねぇーか?」

「はぁはぁ、何を言っている俺なら明日の朝までだって余裕だ」

「はは! さすが兄貴だぜ」


 二人は息も上がり、いずれ小型に捉えられてしまうだろう。だが二人は不敵な笑みを浮かべながらひたすら足止めをする。


 そしてその姿に感化された者達が居た。


「皆さん、今です! 撃って下さい!」

「「「「おう!」」」」


 後方から何か声が聞こえたと思うと後ろから矢の嵐が小型に対して降り注いだ。


「ア、アイツら逃げてねぇーのかよ!」

「一体何をしているんだ!?」


 ガルルが声を荒らげる。商人達はそれに対して応える。


「お前らカッコ良すぎなんだよ!」

「そうだぞ!」

「アナタ達は物語の主人公ですな」

「私達もその物語に登場しようと思いましてな」


 ピタの掛け声と共に矢を放つ商人達。その矢が小型に効かないのは百も承知の筈だが少しでも獣人兄弟から意識が離れる様にと考えた攻撃だった。


「へへ、ダメだぜ兄貴。アイツら逃げるつもり無いみたいだ」

「う、うむ……」

「はぁはぁ、ガルルさん、ググガさんご無事ですか?」

「ピタ、別の意味で皆をまとめ上げてるじゃねぇーかよ!」

「逃げろと言ったのに……」


 小型はまた捕食する人数が増えて、どいつを食べるか決めるかねているのか動きが止まっている。


「兄貴これからどうする?」

「皆の士気も上がったし戦うしか無いだろう」

「だけど皆んなのやる気が上がったとしても状況は何一つ変わってねぇ……」


 小型は標的を定めたのか動き始めた。そして標的にしたのは……。


「兄貴、俺らモテモテだな!」

「集中しろ!」


 小型は引き続きガルル達を狙っている様だ。それは単純に先程まで惹きつけていたからなのか、それとも商人達をまとめ上げているからなのか分からないが、恐らくこの二人が捕食されたら、商人達で出来た上がっているパーティの全滅は確実だろう。


「少しの間休めたけど、このままじゃジリ貧だぜ?」

「分かっているが、手が無い……」


 二人は再び小型からの攻撃を避け続ける。その間にも商人達総出で攻撃をしているが結果は……芳しくない……


 そして、とうとう小型は二人を追い詰め、二人は小型による攻撃を喰らい近くの木に激突する。


「あ、兄貴流石に今回はダメみたいだな……」

「あ、あぁ。済まないな俺に付き合わせてしまって……」


 少し遠くでピタ達が嘆く。


「あぁ……ガルルさん! ググガさん!」

「待っていろ! 今行くからな!」


 商人達の何人かがガルル達の方に走るが間に合わないのは確実だ。そして周りの皆は先程食べられた商人達の事を思い出す。誰もが捕食されると思い目を瞑る。それは当事者であるガルル、ググガも同じだ。


 ガルルは最後に一人の女性を思い浮かべていた。その女性はいつも自由で笑顔で表情が豊かだった。一緒に居るだけで心臓が高鳴り、あまり話さないガルルがつい言葉数が多くなってしまうのだ。


「あぁ……もう一度会いたかった……」


 小型は最後にトドメを刺してから捕食しようとしているのか尻尾を大きく振るう様にして二人に攻撃する。


 だがその攻撃はガルル達に当たる事は無かった。そしてどこからか声が聞こえて来た、その声はガルル自身が一番聞きたかったものだ。


「フィンフショット!」

「アタック!」

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