第139話 パーティ崩壊

「おい、一旦態勢を整えるぞ立て!」


 槍を持った男が叫ぶ様に言う。だが仲間を目の前で食われたのがあまりにも衝撃的だったのか斧を持った男は座り込んだまま立てないでいた。だが小型は成長も終わり一回り大きくなり、向かって来ている。


「ちょ、ちょっとあんた達早く逃げなさいよ!」


 後衛の弓を持った二人が援護の為に弓を撃つが成長した小型には突き刺さりもしなかった。


「おい、目を覚ませ!」


 槍男は思いっきり頬を殴った。頬に受けた衝撃でやっと我に戻り、周囲の状況を見回す斧男。


「逃げるぞ!」

「あ、あぁ。だけどあいつは……?」

「食われちまったんだよ! しっかりしろ!」


 二人は全力で小型から離れるが距離は全くあかない。成長した影響なのだろう。大きさだけでは無くスピードまで上がっている。


「や、ヤバイぞ逃げ切れねぇ!」

「いいから走るんだッ」


 このままでは直ぐに追いつかれると、逃げている本人達が一番分かっている。だが今は逃げるしか他に手が無い。


「なんで私達の弓が効かないのよ!」

「成長したとは言え、矢が突き刺さらないなんて……」


 そして後衛二人も攻撃してはいるが小型には全く効いていない。だが他に何か出来る事も無い為矢を撃つ手を止める事が出来ない。


「お、俺も食われちまうのか?」


 斧男はこの絶望的な状況が嫌な方に考えを引っ張られているようで、逃げながらブツブツとネガティブな事を呟いている。


 そして自分で呟き、またその言葉を強く意識してしまい、どんどん恐怖感が増して来ているようだ。それを隣で並走している槍男は、なんとか正気に戻してやりたいと思っているが、やはりあんな光景を見たらしょうがないだろうと頭で考える。


「あんたらもっと全力で逃げなさいよ」

「私達の弓が全く効かないわ」


 後衛の二人が声を荒げている。その様子を見ただけで、どれくらい危機的な状況にあるかは分かるだろう。


「こ、怖い……、食われたく無い……」

「お、おい。しっかりしろ!」


 斧男は虚ろな表情をして、何故か後衛達がいる方向に逃げはじめたのだ。


「そっちに逃げてはダメだ!」

「食われたくない……食われたくない……」


 斧男は恐怖感に包み込まれてしまったのか後衛二人の方に走っていく。本来戦闘においてその選択肢は最悪である。仮に前衛が小型から逃げるとしても後衛から引き離すのが基本となる。だが斧男にそこまで思考する余裕は無いようだ。


 そして小型は前衛の二人を追い掛ける。


「な、なんであの小型こっちに……?」

「さ、さぁ? でもある程度行ったら方向転換して私達から引き離してくれるでしょ」


 後衛達は斧男の心理状態が分かっていないので、前衛がいつも通りに動いてくれる事を疑わなかった……。


「い、嫌だ。怖い……助けてくれ……」

「そっちはダメだ! 後衛達を巻き込む事になる!」


 必死の呼び掛けも無駄のようでどんどん進み、とうとう後衛達の所まで到着してしまったのだ。


「な、なんでこっちに来るのよ!」

「惹きつけるなら普通逆に走らない?!」

「お、俺だけ食われるのは嫌だ……」


 合流して初めて斧男がおかしい事に気付く後衛であったが、ここまで来たらもう遅いだろう。四人は小型から逃げるが本来後衛である二人はそこまで身体能力が高く無い為徐々にではあるが遅れて来ている。


「だ、大丈夫かい!?」

「あんた達絶対許さない……」

「このままじゃ……」

「俺は逃げる、俺は逃げる、俺は逃げる」


 四人中で斧男だけが、どんどん前に出てしまい他三人達と距離が開いていく。槍男も本気で走れば斧男と同じスピードが出るが、そうすると後衛二人を見殺しにする様なものと分かっているので、出来ないでいた。


 そして小型がとうとう追い付き三人に対して攻撃を仕掛けた。その攻撃方法は実に単純であり、ただの体当たりである。


 しかし、単純ゆえに相当な威力があり三人は背後からとんでもない衝撃を受けて飛ばされる。


「あ、あれ? あまり痛くない?」

「どこも怪我してないわね?」


 後衛二人が小型の攻撃を受けたのにも関わらず無事な理由は槍男が一手に小型の攻撃を引き受けたからである。


 攻撃を受けた槍男は動けないのか地面に横たわっていた。そして小型が近付いて来ている。


 それを見た後衛二人は勢い良く立ち上がり……逃げ出した……


「はは、結局仲間なんて守っても最終的には見捨てられるのか……」


 体当たりを直撃してしまった為暫くは動けそうに無い槍男は皮肉めいた言葉を吐く。


 そして小型は槍男を捕食した……


「食われるなんて絶対に嫌よ!」

「私は生き残りたい」


 自分達を守ってくれた筈なのに後衛二人は見向きもせずに逃げ出す。そして小型が成長し先程より更に一回り大きくなり追い掛けて来る。


「は、早すぎる……」


 人を二人捕食した小型のスピードに後衛達は直ぐに追いつかれてしまった。そして後衛の一人がもう一人を転ばさせた。


「──ッあ、あんた!! 何するのよ!?」


 転んだ後衛の一人が地面に手を付きながら叫ぶ。だがもう一人は完全に無視を決め込み逃げ出してしまった。


「クソ女! アンタもどうせ食われるわよーーーー!」


 そして小型に食われる……


「はぁはぁ、冗談じゃ無いわよ! 私は絶対に生き延びて見せるわ」


 そう言って走っていたが、小型は更にスピードが上がったのか追い付かれてしまった。


「は、早過ぎるわ──ックソクソクソ!」


 このままでは確実に追い付かれて食べられるのが目に見えている。だからと言って打開できる手も無い。そして何を思ったのか弓矢を構えた。


「絶対に許さないわ……」


 後衛は自分が撃った最後の矢が標的に当たった事を確認して、小型に食われた……。そしてより一層大きくなった小型は次の標的を定めて追い掛けた。


「嫌だ、嫌だ。食われたくねぇ……」


 後衛が食われた少し先には足に弓が刺さって倒れている斧男が倒れていた。先程後衛が最後に撃った矢が足を突き刺しているのだ。


「ッた、助けてくれー! 誰か!!」


 必死に叫ぶが、他の者達も戦闘中の為聴こえてない様だ。そして小型が目の前まで来て斧男を捕食する。五人パーティ最後の一人だからなのか小型は一息に食べるのでは無く少しずつ味わう様に食べていた。


「イデェーよ……。なんで……こんな事になっちまったんだよ……」


 斧男は涙を垂らしながら捕食された。そして小型は五回目の成長を開始した。


 そこに獣人の少女が姿を現した。


「アトス様の指示で助けに来たけど遅かった……」


 そう呟いた獣人の少女は次に自分がやるべき行動を取り始めた。

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