第138話 獣人姉妹のコンビネーション

「アトス様!?」


 チルが慌ててこちらに向かって来る。そして小型も俺に向かって来るがなんとかチルが先に着いて俺を抱きかかえてその場を離脱する事に成功した。小型もそのまま追い掛けて来ている為すぐ追いつかれてしまうだろう。


「チル様、そのままお逃げください」


 リガスが俺達とすれ違い小型に向かっていく。


「カネル!」


 そして一度小型の動きを阻害してから、リガス自身も直ぐに離脱する。小型との距離が一度開くが直ぐに俺達の方を追い掛けて来た。どうしても俺を捕食したいらしいな。そして視界の端にロピが攻撃しているのが見え、すかさずサポートする。


「フィンフショット!」

「アタック!」


 小型に当たり、またもや仰け反るが小型は執拗に俺を追って来る。


「チルもう大丈夫だ降ろしてくれ」

「ですが」

「俺が逃げている間にロピと一緒に小型を攻撃してくれ」

「わ、分かりました……」


 俺はチルに下ろして貰い小型から逃げる事に専念した。そしてこの休憩所では逃げ切れないと思い俺はジャングルに向かって逃げ始める。それを追って来る小型とロピ達。


「さてと、鬼ごっこの始まりだな」


 俺は小型の動くルートを読みひたすら逃げ続け小型の注意を惹きつけると同時にロピ達の行動にも集中する……。先程は慌ててサポート出来なかったが、逃げる場所が無数にあるジャングルの中なら話は別だ。小型も木を薙ぎ倒したり避けたりしながら追って来ているのでスピードも下がっている。そしてそれの影響で余裕を持って考える事が出来る。


「追って来ているな」


 後ろを見ると小型がこちらを追って来ているのが見える。その後ろではロピやチル、リガスが走っているのも見える。三人の中でチルがスピードを上げて独走し始める。


「アームズ……」


 そしてチルが小型に追い付き攻撃をしようと飛び掛かる様に拳を突く。


「アタック!」


 その攻撃は小型に突き刺さる。チルの攻撃を無視するには流石に威力が大き過ぎたのか一度俺を追うのを止めてチルに攻撃をし始めた。


「フィンフショット!」

「アタック」


 チルに攻撃をしようとした小型だがロピの雷弾がヒットする。それにより仰け反り小型の攻撃が止まる。その瞬間もチルは逃さず腹部に拳を叩きつけた。攻撃が引き金になった様にチルは小型に対して思いの丈をぶつける様に攻撃をする。


「よくもアトス様に攻撃したな!」


 先程の仕返しなのか、次はチルによる連撃が始まった。一発一発に攻撃サポートを入れる。


「そうだよ! 私怒っているんだから!」


 同じくロピも小型に対して怒りを露わにする。やはり姉妹なのか怒っている表情は似ており、どちらとも普段見せない顔付きになっている。


「ほっほっほ。この虫をボコボコにしましょう」


 リガスは表情はいつもと変わらないが、言葉の端々に怒気の様なものが混じっている。そしてチルを遠ざける為に小型が攻撃するがリガスがそれを遮る。


「カネル!」


 そして、また一発チルの攻撃が小型に当たる。流石に何度も何度も攻撃されている為小型は今にも倒れそうである。だが最後の力を振り絞っての攻撃なのか尻尾による攻撃をしてくる。


「フィンフショット!!」


 だがロピによる雷弾によって小型の攻撃モーションが止まり仰け反る。そしてもう一発チルが攻撃をする。


「流石姉さん。そしてこれで最後……」


 チルは一際腰を深く落とし、ゆっくりと息を吐く。そして小型は仰け反っている為腹部が丸見えの状態である。


「よし!」

「チルちゃんいけー!」

「虫如きチル様の相手にならんわ!」


 そしてチルが重く、鋭い攻撃を放った。その後小型はそのまま後ろに倒れ込み、流石に耐え切れずしばらく動いて絶命した……。


「なんとか倒せたか……」

「やったー! チルちゃん流石!」

「姉さんだって流石!」


 獣人の姉妹は絶妙なコンビネーションが決まって嬉しかったのか手を取り合って喜んでいた。確かにさっきの攻撃はロピもチルも凄かった。最後の決め手はチルの攻撃によるものだが、その前にロピが撃った雷弾によって小型の動きを止めたのが大きかったな。自分で考えて渡した武器だが、まさかロピがここまで強くなった事により戦闘の幅や出来る事が多くなるとは思わなかった。敵にダメージを与える事も出来るし、敵の動きを阻害する事も出来るとは……。


「ふむ。それにしてもこんな小型初めてですな」

「確かにな。リガスじゃなくて俺を狙って来るなんて始めてだな」

「そうだよねー。スキルのレア度的には魔族さんの方が上だから今までは狙われなかったもんねー」

「ですが、この小型は明確にアトス様を狙っていました」


 そうなんだよな、リガスでも無く攻撃担当のロピやチルでも無く俺を狙って来たんだよな。今までとは違って何やら考えながら行動している様に見えた。

 だが今はそんな事を考えている暇は無い。


「今は他のパーティを助けに行こう」

「そうだねー」

「急ぎましょう」

「ふむ。他の小型は通常通りだと良いですが」


 こうして俺達は他のパーティを手伝うべく急いで戻る事にした。

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