406.勝ち戦であっても情報共有は重要である
仕事を終えた魔族が次々と帰還する。その様は王都の民にとって安心材料だった。慌ただしく出て行ったグリフォンが、ロゼマリアを乗せて王都を旋回する。鳴き声を上げて注目を集めるのは、無事戻ったことを知らしめる目的があった。
魔族が一斉に城を空けた状況がすべて筒抜けではないが、戦争状態に入った事実は伝えられていた。ケガもなく戻る姿は、彼らに安堵をもたらす。直後に魔王を乗せたドラゴンが帰城し、子供達が興奮して空を指さした。
双子とアスタルテは背の翼を広げて現れ、黒竜王の背にウラノスが跨る。出迎えに城門の上でククルが手を振った。この後、さらにマルコシアスやマーナガルムが駆け付ける予定だ。城はにわかに活気づいた。釣られるように、王都で息をひそめて不安に震えていた民も動き出す。
「勝ち戦の宣言を出せ」
リリアーナの滑らかな背から降りたオレは、迎えに出たアガレスに命じた。ゆったり一礼する宰相は、すぐに控えの文官に指示を出す。その間に、グリフォンが器用に庭の手前に舞い降りた。慣れた様子で人化したオリヴィエラは、纏ったドレスから覗く肌を鼻に近づける。
「やだあ、臭いわ……ローザ、お風呂に入りましょう」
「お出迎えが先ではなくて?」
「だって臭いわよ」
臭いがついた状態で出迎えは失礼じゃない? そんなニュアンスのオリヴィエラに、ロゼマリアも迷って頷いた。少し離れた位置から挨拶して後宮へ逃げ込む。
「……何があった?」
「いくつかご報告がございます」
アガレスが落ち着いた口調で促す。この様子なら緊急の用件はない。頷いて大広間へ向かった。後ろで人化したリリアーナが、ワンピースの前後が逆になったと騒いでいる。苦笑いしながらアスタルテが直してやり、事なきを得た。
後ろに従う魔族に、いつの間にか魔術師ティカルが妹マヤと一緒に混じっている。城の防衛と街の治安維持に貢献する子供達は、両手を繋いで大広間に入った。
まっすぐ玉座へ向かい、腰かける。それを合図として、それぞれが望む位置についた。足元に侍るのはリリアーナだ。その斜め後ろに、黒猫を抱いたクリスティーヌがぺたんと座った。
アガレスが片眼鏡を嵌めて書類のファイルを開く。正面の絨毯にクッションを並べ、勝手に双子が寛ぎ始めた。アスタルテはアガレスの書類を隣から覗き込む。魔術師の兄妹はぐるりと状況を見回した後、控えめにアガレスの反対側に立った。
性格がよく表れている。人間の貴族社会なら序列など煩く注意されるだろうが、ここは魔王城となる。そのような堅苦しい行儀作法は不要だった。他国に対し、礼を失しなければ構わない。
「魔王陛下、ご戦勝をお祝い申し上げます」
結果の見えた戦いであろうと勝ち戦は気分がいい。頷いたオレに、アガレスが切り出した。
「陛下が空と地上の敵を排除する間に、地下から侵入を試みる者がおりました。オリヴィエラ様指揮の下、ヴィネも動員して排除した報告を受けています。ご安心ください」
良い報告から先に行うのは、アガレスの性格だろう。長くなりそうだ。この後に控える報告を予想しながら、オレはゆっくりと足を組んで姿勢を崩した。
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