391.愛玩動物の縄張り争いは厳しい
愛玩動物同士の縄張り争いは、想像よりハードかもしれない。寝ている間に増えた者を威嚇するリリアーナの姿に、溜め息を吐いた。
部屋に入ってきた時点で、結界に抵触しているので気づいた。だが相手がロゼマリアとオリヴィエラだったため、ちらりと視線を向けたあと再び目を閉じたのだ。しかしリリアーナは気づけなかった。安心しきって眠っていたため、飛び起きて威嚇を始める。
「落ち着け、リリアーナ」
威嚇するリリアーナは微妙に雷の魔力を帯びて、金髪が逆立っている。雷に弱いオリヴィエラは距離を置き、ロゼマリアは間でオロオロした。
「オレを巻き込む気か」
わざと怒りを滲ませて叱れば、ようやくリリアーナが魔力を収める。だが静電気はすぐに収まらず帯電し、彼女の髪や肌はぴりぴりと音を立てた。触れればぱちんと音がして痛みが走るだろう。泣きそうな顔で、持ち上がる金髪を撫でるが、その度に静電気はひどくなるようだった。
見守るのも限界がある。パチンと指を鳴らし、オレの魔力で包んで一気に散らせた。静電気は消えるが、多少肌が痛かったのだろう。じわっとリリアーナの目に涙が滲んだ。
「……私、迷惑?」
「よい。髪と身なりを整えろ」
ここで迷惑だと言ったら泣き出すに決まっている。愛玩動物は叱ると懐きにくくなると教わった。部下が同じ失敗をすれば叱責の対象だが、愛玩動物なら許される。多少の騒ぎは愛嬌だと聞いた。
アナトが飼っていたヘルハウンドは、研究用のマウスを追いかけ回して薬品を散らかし、研究所と一緒に爆発した。言葉が通じない愛玩動物は危険だが、リリアーナなら問題はあるまい。叱れば理解するのだ。
「着替えるまで居てね」
「わかった」
頷いて自分の着替えを一瞬で済ませる。離れた場所でしっかり手を握りあうオリヴィエラとロゼマリアに向き直った。
「朝早くから何の用だ?」
異性であるオレの寝室に忍び込もうとしたのだ。他の魔族がいたら話せない内容か。相談事を聞いてやるのも上司の役目だった。ソファで足を組む。向かいに座ったロゼマリアが、言いにくそうに話し始めた。
「私は王族でした。政略結婚の重要性は理解しておりますが……他国へ嫁ぐのは、その……えっと」
嫌だとはっきり言えず、何とか遠回しに表現しようと言葉を探す。痺れを切らしたオリヴィエラが、途中から引き継いだ。
「政略結婚なんて認められません。何とかしてくださいませ。リリアーナが正妻なら側妃で構わないではありませんか。サタン様が娶ってくださればっ」
「何の話だ?」
黙って聞くべきかと思ったが、状況が一方的にオレを責める方向へ向かっている。非難する言葉を最後まで言い切ってしまえば、オリヴィエラも引っ込みがつかなくなるだろう。そう思い、途中で話を切った。途端にロゼマリアが目を見開く。
オリヴィエラも口元を手で押さえて、動きを止めた。静まり返った場に、リリアーナが飛び込む。
「着替えた!」
折角綺麗に解かした髪が乱れるのも気にせず、足元に座り膝に頬を擦り寄せた。考えるより早く手を伸ばし、手に馴染んだ金髪を撫でる。彼女らが持ち込んだ案件は、またもや厄介ごとの匂いがした。
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