109.出て来いと命じたぞ

 城を出て上空から見ると、かなり建物の改築が進んでいることを感じた。ドワーフ達は毎夜酒を飲んで騒ぐが、きちんと仕事もこなす。石造りを中心としたのは、ここが魔族の治める城になるからだ。もちろん人間の民も大切に保護するが、オレが魔王の地位を奪えば魔族が多く住み着く。


 ドラゴンやグリフォンを始めとして、部下も微調整が苦手な種族が多かった。あまり彼女らに我慢を強いるのも気の毒だ。時間がかかっても、できるだけ頑丈でしっかりした城を建てさせる必要があった。


 第二形態から背に翼を呼び出し、魔力が集まる方角へ向かう。リリアーナが根城にしていた山のボスは、現在マルコシアスが勤める。あの山は地脈の影響で活性化していたため、魔物だった狼が魔族に昇格するのも早かった。


 その分だけ他の種族も成長が早く、リリアーナにとってよい狩場なのだろう。今も強者であるリリアーナが定期的に狩りを行い、山の権力階層の頂点はドラゴンだ。マルコシアスは配下とみなされ、ドラゴンの脅威を恐れる必要がない。彼がボスにのし上がった裏事情を思い出しながら、山の上を通り過ぎた。


 魔法で転移してもいいが、相手の状況をもう少し見極める必要がある。魔力を最低限まで絞って近づくのは弱者の戦法だ。他者を恐れる気のないオレは、強大な魔力を解放したまま距離を詰めた。どこで気づき、どのような対策を取るか。それが重要なのだ。


 見極める意味もそこにあった。優秀な者を引き抜いて手足にするのが目的だ。宣戦布告も必要だが、優秀な魔族が入手できれば、手前で引き揚げても構わない。


 そもそも魔族の戦いに「正々堂々」と「名乗りを上げ」て「宣戦布告」する義務はなかった。そんな愚かな行為は人間が行うものだ。それを敢えて行う魔族がいるとしたら、圧倒的な強者か愚か者だけ。


 眼前で名乗りを上げたなら、現魔王はどう反応するだろう。側近の実力で底上げされた傀儡ならば、その場で首を落としてもいい。うっそりと笑い、左手を掲げた。


 ぱきんっ! 弾ける音は攻撃を防いだ氷の壁が発したものだ。大した飛行速度ではないが、飛んで移動する獲物に当てるのは技量が必要だった。それを成した者の顔を見てやろうと止まれば、再び攻撃が飛んでくる。


 ぴりりと表面を走った雷が光り、攻撃が落雷だったことを知った。氷で防いだのは正解だ。もし風で応戦していたら、痺れが届いただろう。口元を緩めて待つが敵は姿を見せない。口元の笑みを手で隠し、全身を雷で覆った。


 敵が使った雷の矢程度ではない。圧倒的な魔力が下支えする雷魔法の最上位魔法――雷を身にまとうことで、ほとんどの属性魔法を弾くことが可能になる。その反面、消費される魔力が多すぎて使える魔族はほぼ皆無だった。


「出て来い」


 命じる響きが空を裂く。しかし攻撃者は姿を見せず、赤い瞳を眇めて地上を睥睨した。


「オレは出て来いと命じたぞ」


 怯えるように動かない魔力は地上にあった。その場所へ雷の槍を放つ。矢より大きく太い攻撃に、転がるように茂みから飛び出したのは子供だった。咄嗟に魔力をぶつけて消滅させる。槍が爆発した余波で、子供はそのまま転がった。

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