第9話 恥ずかしさと不安と
私が言った後、場が凍りつき、周りは『どうしよう…』という空気になった。
(何か不味いことを言ってしまったのかしら…。)
私はちょっと泣きそうだった。
「………シア、手を貸して?」
泣きそうになっている私を見かねたのか、声をかけてくれる殿下。
そしてジークフリートを睨むお父様(仮)。
(?…なんで急に手?)
ジークフリートは、また記憶の無くなっているアリシアナの体調を昨日と同じように魔力循環でチェックをしようとしてのお願いだったのだか、そんなこととは知らないアリシアナは首を傾げつつ、どっちの手を出したらいいのか分からなかったので両方の手を差し出した。
するとお父様(仮)が『!!(ガタッ)』と椅子から立ち上がった。
それを見たジークフリートは私の顔を見て、クスッと笑った後に両手を握ると後ろを振り返り『出てけ』と言う様な視線を送った。
つられて私も皆を見ると、ジークフリート王子殿下を睨んでいたお父様(仮)が泣きそうになった後に、しょんぼりと肩を落として、それからとぼとぼとと部屋を出ていく。
それに続いて陛下や大臣達も出ていってあっという間に二人きりになる。
皆が何かを察して(?)出ていき、2人きりになった事を私が不思議に思っていると、ジークフリート王子殿下にベルを使って侍女を呼んで欲しいと言われる。
ベルを鳴らすとブロンドの髪の侍女が入ってきた。
ジークフリートは入ってきた侍女さんを見てから、私を見て言う。
「シア、君はこの侍女の事を覚えてる?」
「……いえ、ごめんなさい。」
私がそう言うと、ジークフリートはなぜかご機嫌で呟いた。
「そっか……だいたい分かった。」
(?……何がわかったのかしら?)
「これから、魔力を循環させるから準備が整ったら…マリア…と言ったよね、君に改めて自己紹介をして欲しい。」
「自己紹介…ですか?かしこまりました。」
マリアさん(?)の返事を聞いたジークフリートは魔力を流し出す。
すると、昨日と同じぽかぽかと暖かい感覚が広がっていく。
始めの方はそれだけだったのだが、徐々に昨日とは違う感覚も広がっていく。
(………あれ?)
(昨日と全然違う…?)
両手の分、魔力が昨日よりもスムーズにそして大量に流れてくる。
あっという間に、全身すっぽりとジークフリートの魔力で包まれたアリシアナ。
(何これとっても恥ずかしい…。)
アリシアナが心の中でそう呟くとジークフリートがクスッと笑って言う。
「シアも僕に魔力を流してみて。」
ジークフリートに言われアリシアナもジークフリートに魔力を流してみる。
(……っ!?)
魔力を流した瞬間、アリシアナは両手での魔力循環がどういうことかに気づき、思わず手を離そうとするがジークフリートに強く握られて振り解けない。
(今急に手を離すと、魔法酔いで数時間くらいお互いに動けなくなるよ?)
アリシアナの頭の中でジークフリートの声が響く。
ちなみにジークフリートは口に出して喋ってはいないので、近くにいる侍女には何も聞こえていない。
つまりお察しの通り、現在進行形でアリシアナが思ったことがそのままジークフリートにだだ漏れになっている。
アリシアナは数時間動けなくなっても、今の全部筒抜け状態がしばらく続くくらいなら全然そっちの方がましだと思った。
(だって…こんなの…)
私はギリギリところでその後の思考停止した。
――ヒロインが現れた時にジークフリート王子殿下諦められなくなってしまう。――
アリシアナはまた泣きそうになった。
思考は止めたので詳しいことまでは伝わってない…と思いたいが、ジークフリートにこの気持ちが伝わっているのは避けられなかったようで『心配だ』という気持ちが伝わってきた。
(だって…こんなの…なに?僕は君が望む限り君の一番近くにいるよ?)
アリシアナは
(でも…ジークフリート王子はあの子が来たら私みたいなめんどくさい女なんかよりあの子の方がいいってなるんでs…って私ったらなんて失礼なことを…ごめんなさい…それより、自己紹介紹介はやらなくていんですか?)
心がだだ漏れになっていて、言わなくていいことを言ってしまった。
(それも、例の夢?…僕としては今の話の方が大事なんだけど……いいよ、誤魔化されてあげる。でも、僕を呼ぶ時はジーク。 慣れてくれると嬉しいな。)
ジークフリートはそう言って余裕たっぷりな顔で微笑んだ。
タダでさえ綺麗な顔のジークフリートに見つめられアリシアナは自分の顔が熱くなるのを感じた。
(ジークフリッ…ジ、ジーク…様…は、ずるいです…私ばっかりジーク様に全部バレてて……ジ、ジーク様から私には全然伝わってこないのに…。)
アリシアナが抗議するとジークフリートは突然侍女さんの方を向いた。
そして、今までずっと百面相していたアリシアナを親が子供を見る時のような微笑みで見ていた侍女さんに話をふった。
「さて、だいぶ待たせたね…自己紹介を頼む。」
「えっ…スルーですか!?」
(いつか、今日色々やられた分はやり返しますからね!)
(……じゃあ、楽しみにしておくね。)
「もう!本気にしてないですね!?…ふん!いつか絶対後悔させてあげます!忘れないようにこの事は日記に詳しく書いておきますから、忘れて終わりなんてのも期待しないで下さいね!」
クスクス笑って言うジークフリートに今まで無意識で取り繕っていたものが剥がれ落ちて素で抗議した。
アリシアナは言い終わってからハッとしたのだが、その瞬間、一瞬だけジークフリートの気持ちがアリシアナにも伝わってきた。
(何この可愛い生き物…さっき人払いしてて本当に良かった…。)
(か、可愛っ…。)
一瞬だだ漏れになったことに気づいたジークフリートは照れて顔をそらす。
そして、アリシアナの方だか、こちらも『仕返しが出来た』とかそんなことを思う余裕は全くなく、同じく顔を赤くしてジークフリートとは反対の方に顔を逸らしたのだった。
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