第8話 流行り病と手紙
マリアが出ていって、また暇になってしまったアリシアナはジークフリートがやってくれていた時のことを思い出して自分の魔力を循環させてみる。
すると、思って今よりも簡単に出来てびっくりする。
(もう出来てしまったわ…どうしよう…暇だわ。)
また暇になった私は今度は魔力を文字や簡単な図形などにして遊びながら考えにふけっているととある重大なことを思い出す。
(待って…すっかり忘れてたわ…もう、間に合わないかしら……。)
『もう少し早く前世の記憶が戻れば…。』とアリシアナはそう思い諦めかけたが、ふと自分の服装と今日会った2人の格好を思い出す。
(いや、今10歳って言ってた…。今は皆、まだ半袖着てるし冬は来ていない…ってことは少しくらいは間に合うかもしれないわ)
ゲームでは過去のことで、サラッと触れるだけでそれ以降出てきてなかったが、もうすぐこの国ではとある病が流行する。
その病でヒロインは母と母のお腹の中の弟を一緒に無くすのだ。
こういう時、小説とかだとお父様とかに話したり、自分で薬開発とかするんだけど…お父様は会ったことないから仲良いのかわからないし、自分で…はこの体じゃ無理ね…ジークフリート王子殿下に頼んで病の流行が最小限になるようにお願いしてみようかしら…。
自分の死亡フラグを折ることには関係ないかもだけど、分かってて見過ごすのは気が引ける。
信じてくれるかはわからないが話すだけでも話してみよう。
どうせ今の私の評判は記憶喪失の公爵家のお荷物だ。
仮にゲームと現実との違いとかで、病が流行らなかったとしても、私の落ちた評判に新しく"嘘つき"とか"夢と現実の違いのわからない頭の弱い子"とかが加わるだけだ。
まあそもそもが、こんな嘘みたいな話を信じてくれればの話だけど。
ゲームでは確か、病が流行ってから数年後に開発される万病に効く特効薬があったはず…それが流行り病にも効いたはず…えっと…そうだわ…トトリ草とヒール草を混ぜて作るのよ…。
早くメモしないと忘れそうだわ…と思った時、部屋にノック音が響いた。
「お嬢様、頼まれていたものをお持ちしました。」
(ちょうど良かった…。)
「待ってたわ、どうぞ。」
アリシアナが入室を許可するとマリアともう1人別の侍女がワゴンを押して入ってきた。
「軽食もお持ちしましたので、御準備致します。」
「ありがとう。ところで突然なんだけど今は何の月の何日目かしら…。」
一応念のために、まだ流行ってないかを最終確認する。
「今は、聖星暦1710年夏の2の月、28日目です。」
この世界は地球と比べて1年は同じくらいの長さだが、呼び方が少し違っていた。
春の1の月から始まって冬の3の月まであり、ひと月30日だ。
曜日の呼び方も違うがここでは割愛する。
「そう、まずいわ…あまり時間がないわね…軽食の前に急ぎでジークフリート王子殿下に手紙を書きたいのだけれどレターセットはあるかしら。」
私がそう言うとにっこりと微笑んでからレターセットを手渡すマリア。
「はい、こちらに。」
さすが公爵家の使用人。
レターセットまでは頼んでないのにちゃんとすぐに出てくる辺り、仕事に抜かりがない。
(でも、マリアあなた絶対私がジークフリート王子殿下のことを好きになってラブレターを書くと勘違いしてるわ…第一、私みたいなお荷物に嫁にこられても迷惑よ、きっと。)
言っても恥ずかしがっているだけとしか思われなさそうだったので、私はマリアの勘違いを正さずにお礼を言ってレターセットを受け取った。
「ありがとう。」
私はペンとインク、それと便箋を受け取ると急ぎつつも相手は王子殿下なので綺麗な字を心がけて手紙を書いた。
病が流行るまであと数ヶ月しかない、薬の開発から国中に行き渡る量の生産となると、どこまで出来るかわからないが何もしないよりましだとアリシアナは考えた。
最後に、『この件について直接話がしたいので、(今日……はもう日が落ちてきているので)明日直接話がしたい』と付け足す。
書き終えて封蝋をし、『急ぎだから今日中に手紙だけでもジークフリート王子殿下に届けて頂戴。』と頼んで渡す。
「かしこまりました。」
アリシアナは手紙を受け取った侍女が部屋を出たのを確認してから、軽食をとり、それから持ってきて貰った本を少し読んだ後その日はそのまま眠りについた。
そして次の日、起きて軽い朝食をとり、ひと息着いてすぐに王子殿下が部屋に訪ねて来た。
「シア、おはよう。昨日の件でいろいろ聞きたいらしくて私の父やシアのお父上、あと僕の側近と大臣も来てるけど入っても大丈夫?」
(昨日の件で?………えっ、陛下まで来てるの?何事!?)
慌てて身だしなみを整え許可する。
「……………………どうぞ。」
アリシアナが許可するとジークフリート王子殿下とその王子をによく似た、黒髪に王家特有の金の目をした男性とその隣に泣きそうな金髪の男性(多分この人がアリシアナの父ね…なんで泣きそうなのかしら?)、そして白髪の初老の男性と青い髪に黄色い目の男性が入ってきた。
皆が私のベットの横に座り私の方を見る。
「…………。」
私は話はなんだろうと思い黙る。
「「「「…………。」」」」
でもなぜか、私が黙ると皆も黙ってしまう。
ジークフリート王子殿下だけはなぜかにっこにこだけど。
「…………………?」
訳がわからなくて私が首を#傾__かし__#げるとジークフリート王子殿下がクスッと笑う。
そんな様子のジークフリート王子殿下を無表情で見つめる私のお父様(仮)。
なんだろう…二人の間に火花が見える…気がする?
「シア、皆、昨日君が侍女に頼んで僕に届けさせた手紙の詳しい話が聞きたくて集まったんだよ。」
(うん?)
「あの…ジーク様?」
「うん、なに?」
綺麗な顔で微笑む王子殿下。
「私が届けさせた手紙?それってなんのことでしょう?…私昨日のことはジーク様がこの部屋を出ていくまでしか覚えてないんです。」
私がそう言った瞬間、場が凍りついた。
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