世界の見方を変えろ。
開く乗車扉は、
停車駅に着くたびに乗客が乗り入れした。車内は心なしか空いてきたが、まだ混雑している。
蓮理は横目で乗客の様子を伺いながら、陽翼が告げた話を頭の中で整理してみた。
彼女がいうには、はじめに大いなる意志があった。
内なる不純を外へと弾き出して清浄とし、大いなる意志は清浄界の精霊神となる。
これが宇宙開闢の始まり。
生まれた宇宙は膨張し、後々は清浄界を飲み込むやもしれぬと恐れた精霊神は、自らを細かくした精神という種を魂にて包み、外界へ放ち調べに行かせた。
外界は不浄だった。
不浄を浄化すれば膨張も収まり、清浄界が飲み込まれることはないという考えに至り、外界を浄化せしめることを決めた。物質世界に干渉すべく、非物質の魂を身体に包み、浄化に務めだす。
最初に外界を調べた魂たちは、外界に楽しみを見出していた。ただ清らかであることのみの清浄界に楽しみはなかった。
不浄な苦しみの中に楽しみを見出したため、多くの魂は楽しむために外界へと来たのである。
不浄に触れると身体は穢れ、その魂も穢れていく。
清浄界に戻るには魂の浄化が必要不可欠だった。
穢れた身体は朽ちれば躯となり、魂は解き放たれる。
ただ魂の汚れは物質世界での行いによってのみ、浄化される。故に個々の魂の不浄具合によって、幾度となく物質世界での生き死にをくり返さねばならなかった。
「魂の穢れ具合で、転生先が決まるっていったよね。天上界っていうのが、転生先の一つ?」
「一つだ」
彼女は微笑んでうなずいた。
「ふさわしい世界での繰り返しが行われる。大きくわけて、世界は七つに区分されている、と言っていた」
「その世界って、人間界とか天上界とか?」
彼女はうなずいた。
「蓮理も聞いたことがあるかもしれない。穢れきった魂が転生されるのが、星々の一部として星の寿命が尽きるまで高温高圧で焼き尽くし、精製して浄化される地獄界」
「びっくりだね。地獄って本当にあるんだ」
蓮理は素直に驚いた。
彼女は小さく笑い、話を続ける。
「不浄を欲してしまう禁断症状である穢れた魂が飛ばされるのが、ウイルスや細菌などになり、絶えず口にできない状態で苦しみもがきながら浄化していく餓鬼界」
「微生物も生き物なんだね」
「穢れ具合の違いから、虫や動植物として弱肉強食の輪廻の中で浄化を図る畜生界」
「三つ合わせて三悪道、みたいだね」
ほお、と彼女が感嘆の声を漏らした。
「驚いたぞ、蓮理。そなたが、仏教における、悪行を重ねた人間が死後に趣く下層世界のことを知っているとは」
「まあね、教養の一つだよ」嬉しくて蓮理の顔がにやけてくる。「業の結果、輪廻転生する六種の世界になぞらえてるのかなって思ってね。つぎは修羅道かな?」
得意げに語ると、陽翼は微笑んで小さく首を横に振った。
「人外の者が不浄と戦い続け浄化していく非天界だ」
「人外……って、デミヒューマンのこと? エルフやダークエルフ、ドワーフにマーメイドがいる世界がっ……あるんだ」
蓮理は思わず大きな声が出てしまい、あわてて口に手を当てた。乗客の視線を避けるように背中を丸めて。
「人として善き行いをするなかで浄化していく人間界」
「ぼくたちが生きている世界だね」
今度は小声で彼女に囁いた。
「外界に降りた同胞すべてを浄化の道へと誘うことで浄化する天上界。最後に六つの道をくぐり抜けて浄化した魂のみ、七つ目の世界である清浄界へと至ることができる」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます