わからないことは聞け。

「ところで、その記事に信憑性はあるのか」


 蓮理れんりは、首を縦に振る代わりに精一杯の笑顔をつくって陽翼よはねに披露した。


「さあ、どうだろう。すべてデタラメというわけでもないと思うけど」

「であろうな。おそらく、子供が嘘をつかないという前提で成り立つ調査であろう。純真無垢な存在だからといって、純真無垢に夢を語ったかもしれないし、輪廻転生を信じている国や土地の出身を多く調べたかもしれない。中には正直に答えた者もいるかも知れないが、相手の質問を正確に把握して答えているか怪しい」

「陽翼はデタラメって言いたいの?」


 蓮理の言葉に、陽翼はためらいもなくうなずいた。


「自己利益と協調性を高めるために人間は、日常的に嘘を付く生き物だ。毛が薄くなったかと聞かれて『そんなことない』と否定し、老けたかと尋ねられれば『昔と変わらない』とその場逃れをする。よく見られたいからと化粧を施し、上げ底靴を履くのもそうだ。三歳児とて例外ではない。少なくとも週に二回は、誰でも嘘を付いているものだ」

「だからといって、疑いだしたらきりがないよ」

「確かに」


 なんとなく、彼女は嬉しそうに微笑んでいる。

 どうして笑っているのだろう。

 ひょっとしたら、彼女が異世界転生者だと言ったとき、信じずに慌てて口を塞いだことへの仕返しをしたのかもしれない。そもそも、彼女の話だって信憑性があるのかどうかわからないじゃないか。

 否定するのは簡単だ。だけど、それでは彼女に対して心の窓を閉ざすことになる。信用を失うは一瞬、取り戻すのは一生を費やさねばならない。信用させた人間を裏切るか得させるかで、自分の価値が決まるという。とにかく、積極的傾聴を心がけながら慎重かつ大胆であらねばならない。

 そんな事ができるだろうか。でもやるしかない。柄じゃないのはわかっているが、彼女の保護者なんだ。

 少なくとも蓮理はそのつもりでいた。


「わからないことがあるんだけど、聞いていいかな」

「なにを遠慮する必要がある。わたしとそなたの仲だ。遠慮なく質問するがよい」

「さっき話してくれたこともそうだけど、前世を覚えていないきみが転生はあると言い切るのはなぜなの?」

「聞いたからだ」

「いつ、どこで、誰から聞いたの?」

「一つの生が終わり、新たな生が始まる束の間に、天上界の人から」


 彼女はそっけなく答えた。

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