自分を安売りするな。

「どうして女子は恋愛が好きなの?」

蓮理れんり、どういうことだ」


 陽翼よはねは幼児のように目を丸くした。


「ぼくだって読んだことがある。劣等感の塊のような冴えないヒロインが、スポーツ万能、成績優秀、超イケメンと半ば強引な出会いをし、ぜったい振り向かなさそうなヒロインに超絶イケメンがかまって来る妄想みたいな夢物語ばかりだったけど、どうして?」

「そこが少女漫画のよいところではないか。王道だぞ」


 陽翼は軽く眉を吊り上げる。


「王道っていうか、もはやテンプレだよね」

「鉄板ネタだ。ハズレがなくていい」


 彼女は更に眉を吊り上げ、口角を下げた。


「そうかな……みんな同じで飽きちゃうよ」

「それをいうなら、戦ってばかりいる少年漫画だって同じではないか」


 急に彼女は声を荒げてきた。

 息を吸い、負けじと蓮理は声を上げた。


「戦ったライバルと友情を育み、一緒に強大な敵と戦うところがいいんじゃないか」

「よくいわれる『友情・努力・勝利』というものか」

「それもあるけど『冒険・友情・仲間』を描いた作品が少年漫画の良いところなんだ。これこそ王道だよ」

「そういうのをテンプレというのだ。飽きもせずに戦ってばかりの何処がいいのやら」

「少女漫画だって、ヒロインやイケメンを取り合うべく戦ってばかりじゃないか」

「好きは譲れないからだ」


 彼女の言葉を聞いた瞬間、蓮理は驚いて身震いした。

 そうか、そうだったんだ。


「わかった」

「なにが?」

 

 ムスッとした顔で尋ねてきた彼女に蓮理は言った。


「……好き、なんだ」

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