第813話 応援団長ゆりりん

 ☆奈々美視点☆


 イタリアとドイツの対戦を観戦している私達だけど、守備力に定評のあるドイツを相手に火力でバンバン押していくイタリア。 正直これだけ火力のあるチームだとは思わなかったわ。

 麻美はイタリアチームの攻撃に何か穴が無いかをじっと観察している。 イタリアが勝ち上がって来る事を想定しているみたいね。 まあこのまま行けばこの試合はイタリアが勝ちそうだけど、順調に行って私達がイタリアと当たるのは準々決勝。 そこまで勝ち上がって来るかしら?


「でも強いね、イタリア。 アンジェラさんもかなりレベルアップしてる」


 お得意のタイミングを外す2種類のジャンプも健在。 あれ対策もしていかないといけないわ。


 ピーッ!


「決まったな。 イタリアが2回戦進出だ」

「うん」

「とりあえずはイタリア要チェックって事だね」

「そやな。 強いでやっぱ」


 私達も負けてられないわね。 私達の試合は明後日。 相手はポーランド。 決勝トーナメントに残っているチームだけあってやっぱり強敵よ。


「さて、ブラジルとタイの方は速報でどうなってるかなっと」


 亜美がスマホで速報を開いている。


「うわわ、ブラジルが圧勝してるねぇ」

「キューバにこそ負けたけど、やっぱ今大会中でも実力はトップレベルですわね」

「うん。 ランキング3位だし侮れない相手だよ」

「私達さー、実はとんでもない山に入っちゃってない? 順当に行ってポーランド、ブラジル、キューバ、イタリアでしょ?」

「関係あらへんがなー。 全部倒しゃええねん」

「黛姉の言う通りや」


 うーん、そう簡単な事ではないけど黛姉の言う通り。 優勝を狙う以上はどんどん強くなる相手を全部倒していかなければならない。 相手がどうとか言ってられないわ。



 ◆◇◆◇◆◇



 会場から出てお昼ご飯を食べるためにお店に入る私達。 フランスへ来てからお世話になっているお店である。


「清水さん。 これ注文お願い!」

「らじゃだよ。 皆も注文決まったら言ってねー」


 フランス語が出来ない皆の注文を店員さんに伝える役目はもっぱら亜美と奈央の仕事。

 普段からフランス料理なんて食べないから色々な物を楽しみたいわけよ。

 ちなみにどういった物なのかは、フランス料理を普段から食べる機会のある奈央から教えてもらっている。


「あ、スマホに連絡が入ってる」

「ん? 誰から?」

「ゆりりんね」

「ほぉ」

「ゆりりんって、あの?」

「そうよ? 日本のトップアイドルで日本女子バレーの応援団長、姫百合凛よ」

「な、なんでそのゆりりんからメールが来るんや?」

「私達は友達なのよ。 たまに一緒に遊んだりするし」

「ほぉ、ほんまなんか?」

「嘘ついてどうするのよ……」

「んで、姫百合さんはなんて?」

「明日ホテルに遊びに行っても良いか? ですって」

「おー、呼んだらええやん!」


 弥生は姫百合さんの大ファンという事で、会えるとなったら喜ぶ。 ただ監督や他の選手たちがどう言うかよね? 確認を取ってから返事した方が良いでしょう。

 というわけで、少し待ってもらうように返事をしておく。 ホテルに戻ったら監督に確認を取りましょう。



 ◆◇◆◇◆◇



「何ぃ!? 姫百合凛をホテルに呼んでいいかだとー?!」


 監督に話してみると、凄い剣幕で声を荒げた。 さ、さすがに世界大会の真っただ中で皆集中してピリピリしてるところに、アイドルを遊びに来させるなんて言ったらねぇ。


「ぜひ連れてきてくれー! 俺はファンなんだー!」

「……あ、そうですか」

「皆には伝えておこう! 明日はゆりりんを囲んで宴会をするぞー!」

「は、はあ」


 やっぱこの監督が有能なのか何なのかわからなくなってきたわね。 

 にしても、ゆりりんて凄いわね。 本当にたくさんのファンがいるみたいだわ。


 監督からOKが出た旨を伝えると、ゆりりんからは「やったー! 皆に応援歌歌っちゃう」と、返事があった。 それは魅力的な話ね。 皆喜ぶわよ。 特に弥生と監督が。

 ちなみにミーティングの際、監督から明日は姫百合凛が陣中見舞いに来てくれるという話をすると皆が大歓喜していた。

 別にピリピリとかしてなかったみたいね。



 ◆◇◆◇◆◇



 今日も今日とて部屋のバスルームでゆっくりと入浴。 同室の亜美、希望とじゃんけんをし順番を決めてるんだけど、私は毎日一番風呂なのよね。 あの子達じゃんけんは弱いみたいだわ。


「はぁ、生き返るわー」

「奈々ちゃん年寄り臭いよぉー」


 あの子、お風呂の外からでも反応すんのね。


「それにしても、明日は姫百合さんが来るのか。 試合前だけど本当に大丈夫かしら」


 まあ監督が良いって言うんだから良いんだろうけど……。 そういえばポーランド戦はメンバーどうするのかしら?

 明日もミーティングするのかしら? まあ監督の事だからちゃんと考えてるんだろうけど。


「ポーランドか……お風呂から出たらどんなチームか調べておきましょ」


 私がスタメンになるかどうかはわからないけど。


 お風呂から上がった私は部屋のパソコンでポーランドの選手情報なんかを調べ始める。


「どうしたの奈々ちゃん?」

「ん-? ポーランドの情報でも調べようと思って」

「おお、勉強熱心だねぇ。 そゆことなら麻美ちゃんも呼ぶ?」

「そうね。 あの子の観察眼は本物だし」


 早速麻美に連絡を入れる。 すると返事が返ってくるのかと思いきや、もの凄い勢いで扉が開き、そこに麻美が立っていた。


「あはは! 呼ばれて参上!」

「は、早いわね」

「隣の部屋だし」

「そうだったわね……」

「よーし、ポーランドのデータを集めるよ!」

「希望姉は?」

「お風呂だよ。 とりあえず先に始めちゃお」


 というわけで、予選のポーランドの試合動画を再生して視聴を始める。


「ポーランド。 ランキングは6位。 日本より上だね」

「何かもう慣れたけど、平均身長は日本より高いのね」

「攻守のバランスに優れたチームだねー」


 試合を見ると、ポジション毎の仕事はもちろんの事、自分のポジション外の仕事もしっかりこなす。 かなり練習してきているのかしら。

 状況次第ではOHアウトサイドヒッターがトスを上げてセッターがスパイクする事も多いみたい。


「これでランキング6位。 決勝トーナメントに進んでくるわけだから、個々の選手のレベルはかなり高いと思って良さそうだね」

「でも、ある程度役割というかパターンが決まってるっぽいー」

「お、さすが麻美ね。 もう何か見つけたわけ?」

「うむー。 多分だけどー」


 と、麻美は動画を見ながら解説を進める。 麻美曰く、誰がレシーブしたら誰がトスするか、みたいな役割がある程度決まっているようだということ。 さらには各選手の癖みたいなものもいくつか発見したとのこと。

 本当に凄いわね。


「やっぱり麻美ちゃん呼んで正解だったねぇ。 ポーランドのボロが出るわ出るわだよ」

「なはは!」


 こういう時は本当に頼れるわね、我が妹。 この子にかかれば世界のトップチームすら丸裸になるかもしれないわ。

 明日のミーティングで皆に情報共有よ。

 そういえば明日は姫百合さんが来るのね。

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