第784話 気になる
☆亜美視点☆
8月27日です。 もうすぐ自主合宿が始まるというところ。 希望ちゃんの謎の宣戦布告の後だけど……。
「え? 合宿始まる前に夕ちゃんとデートしたいから許可が欲しいって?」
今度は夕ちゃんとデートがしたいと言い出してきた希望ちゃん。 顔は真剣そのものだし、妙に焦りを感じるのは何でだろう? 今までは割りかしのんびり構えているように見えたけどねぇ。
「えと、希望ちゃんが夕ちゃんをデートに誘うのは構わないよ? 私ももう意地悪して禁止とか言わないからね。 あとは夕ちゃんの判断にお任せだよ」
「じゃあ勝手にお誘いしちゃうよぅ?」
「うん」
私としてはやっぱり、希望ちゃんにも幸せをお裾分けして上げたいという考えが未だに残っている。
希望ちゃんの悲しむ顔は二度と見たくないのは変わらないのである。
希望ちゃんは「じゃあちょっと誘ってみるね」と告げ、部屋を出て行った。
私はまだまだ鬼になれない、甘々お姉ちゃんなのかもしれないねぇ。
「にしてもやっぱりわかんないなぁ。 希望ちゃん急に切羽詰まったみたいになっちゃって……」
謎である。
◆◇◆◇◆◇
☆希望視点☆
私は、亜美ちゃんに話を通してから夕也くんの部屋へとやって来ました。 もちろんデートに誘う為です。
ちょうど明日はお互いバイトも休み。 絶好のチャンスです。
「デートしようってか?」
「うん」
私の誘いに、夕也くんは考えるように目を閉じる。
「亜美ちゃんは夕也くんの判断にお任せするって言ってたよぅ」
「あいつも相変わらずだなぁ」
余裕を見せているのか、未だに私に対して遠慮しているのかはわからないけど、私はその隙を突いていくしかないのだ。
「とはいえなぁ……ほいほいと彼女以外の子とデートするわけにも」
「プロポーズの事バラしちゃおっかなぁ」
卑怯かもしれないが、使える物は使っていくよぅ。 私には猶予が無いのだから。 夕也くんもそれを盾に使われては仕方なしといったところか。 小さく溜息をついて「わかったよ」と頷くのだった。
◆◇◆◇◆◇
☆夕也視点☆
希望とデートの約束をして数時間後。 亜美が部屋を訪ねてきた。 まあすぐ隣なんだが。
「夕ちゃんー。 希望ちゃんからデート誘われた?」
「ああ、誘われた」
希望は亜美には話してあるみたいな言い方だったしな。 亜美が知ってるのも当然だ。
「で、どうするの?」
「明日早速行くことになった」
「あはは、早いねぇ。 そっか、オッケーしたんだねぇ」
「う、ま、まあ……」
プロポーズの件を亜美にバラすと言われては仕方なかった。 希望も余裕が無い事を悟ったのか、手段を選ばなくなってきたな。
「でも希望ちゃんってば急にどうしたんだろう? 何だか切羽詰まったみたいになってない? 夕ちゃんは何か知らない?」
何も知らない亜美からすれば、希望の焦り方は不思議に見えるかもしれない。 だがここで俺が、亜美にプロポーズするつもりでいる事を話すわけにもいかず「いや、わからん」と答えるしかないのだった。
◆◇◆◇◆◇
☆亜美視点☆
気になる! 気になるよ! 希望ちゃんが一体何を焦っているのかとても気になるのである!
「希望ちゃんが改まって宣戦布告布告してきたのは、希望ちゃんが『皆の家』の掃除から帰ってきた後だよね」
あの日の掃除当番はたしか、奈々ちゃん、紗希ちゃん、奈央ちゃんだっけ? そこで何かあったのかもしれないよ。 早速明日聞き込み調査だよ。
◆◇◆◇◆◇
というわけで翌日。
夕ちゃんと希望ちゃんがデートに出かけるのを見送ってから、私は「皆の家」に向かう。 昨日のうちに、奈々美、紗希ちゃん、奈央ちゃんも呼び出し済みです。 3人が何か知ってればいいんだけど……。
ガチャ……
「あ、来た来た」
到着してリビングに入ると、既に3人ともソファーに座って寛いでいた。
「お待たせ」
「どうしたのよ、私達だけ呼び出して?」
「うん。 ちょっと3人に聞きたい事があるんだけどね」
と、話を始めると、3人は顔を見合わせつつ、何かを確認しているような様子を見せた。 これは何かあるねぇ?
◆◇◆◇◆◇
☆奈々美視点☆
何故か急に亜美に呼び出されて「皆の家」に来てみると、そこには紗希と奈央の姿もあった。 2人とも私と同じく亜美に呼び出されたらしい。
私はこの瞬間にやばいと思った。 この3人にはある共通点があった。 そう、私達は夕也の指輪製作やプロポーズ作戦に協力しているメンバーなのだ。
先日夕也から希望にバレたという話を聞かされた。 希望には「亜美には言わないように」と言ってあるが、何かの拍子に亜美にバレたか怪しまれたかの可能性が高い。
2人も察したのか、表情が硬くなった。
「と、とりあえず亜美が核心を突いて来ない限りは何も知らない体で行きましょ」
「ですわね」
「りょ」
しばらくすると、亜美がリビングへとやって来て話を切り出して来た。 その内容は、私達が心配していた内容とは違ったのでホッと胸を撫で下ろす。
「希望ちゃんが切羽詰まってる? 何の事?」
紗希がそう訊くと、亜美がここのところの希望の行動を全て説明してくれた。
「ふぅん。 希望ちゃんがねー」
「たしかに切羽詰まってますわねー」
ちなみに、2人にも希望にバレた事は伝えてある。 自分達の会話が聞かれていたとは気付いていなかったらしいわ。
そういう事だから、私達は希望の焦る理由はわかっている。 わかっているけど、それを話すわけにもいかないのでシラを切る。
「ちょっとわかんないわね」
「もしかしたら大学の男に言い寄られて困ってるとか?」
「あー、なるほど」
しまいには出鱈目な理由をでっち上げる。 亜美は「んー?」と首を傾げながらも「あり得ないとも言い切れないね」と少し納得。
「でもさ、希望ちゃんが妙に焦り出したのって、3人とここの掃除に来た後からなんだよねぇ」
「たまたまじゃないの?」
中々鋭いわねこの子。 簡単には騙し通せそうにないわこりゃ。 しかし私達の口は固く、シラを切り通す。
私達にこれだけ何も知らないと言われてはさすがの亜美もお手上げという事で「わかったよ」と引き下がる。
「単純にちょっと気になっただけだから、わからないならわからないで良いしね」
という事らしい。 まあ、心配しなくてもその内わかる時が来るわ。 今はまだ何も知らない亜美でいなさい。
亜美を見送った私達は、大きな溜息をついた。
「はぁ……これずっと隠し通すのも楽じゃないわね」
「ですわね」
「ちゃっちゃっと指輪完成させて今井君に渡してプロポーズさせちゃわないとこっちが保たないわ」
とはいえ、タイミングなんかは全部夕也次第。 私達がとやかく口出しして良いものではない。
一体いつまで亜美にこんな隠し事を続けていけば良いのかしら?
◆◇◆◇◆◇
☆亜美視点☆
「あの感じ、3人は何か知ってて私には話さなかったねぇ」
あそこまでシラを切るとなると、かなり私には知られたくない事のようだ。 そしてその内容が、希望ちゃんを焦らせている理由にもなるのであろう。 一体何を私に隠してるんだろう?
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